12 寮の幽霊-1
──恐怖にも似た驚愕が、俺の心を支配した。
それは例えるなら、ティッシュペーパーの角から、吸収した水が、全体に広がっていくような感じだ。
相手の見た目は、さっきも言った通りたた●神みたいな感じである。
といっても、さほど大きくはない。
全長は俺より頭1つ分低いくらいで、液体というよりゲルに近い感じのナニカが、そこらから溢れだしている。
……はっきり言って、気持ち悪い。
「……どうしたの、おにいちゃん?」
再び、あの声が発せられた。
先程のどす黒い何かとは違う、透き通った音声だ。
そういえば、映画でもこれを手で引きちぎってるシーンあったよな。
でも、これをさすがに素手でっていうのは、なんか嫌だな。
こう、ティッシュとか軍手を通してさわっている感じもなんかグニグニしてそうで気持ち悪いし。
「……ねぇ」
そう思案していると、ソレはずるりとこちらに迫ってきた。
「ひっ!?」
思わずそんな声が漏れた。
いや、だって今、じゅるりとかずるりって音が聞こえたんだそ?
思わず悲鳴が漏れたとしても、それは勘弁してほしい。
(しかし、そうだな、これはどうだろうか?)
俺は、いつの間にか使えるようになっていた、黒いモヤモヤしたやつが手の形になって、物とか掴める魔法を発動した。
手で触れるのが嫌なら、棒とかでつつけばいい。
ウィリアムはおそるおそる、その手であの黒いゲル状の物体を引き剥がしていった。
ゲルみたいなあれは、簡単に引っこ抜くことができた。
抜いていく間に、それが衝撃緩衝材だっけ?あのプチプチを潰していくような気持ち良さを覚えていった。
しばらくそうしてそのゲル状の触手みたいなやつを引きちぎっていると、床がびちびちとそれで水溜まりみたいなものができる頃には、彼女の頭頂部が、その隙間から垣間見えていた。
青い頭髪だ。
艶のある、青の勝った黒髪である。
クラスの中にも、緑とかピンク色の髪の毛の生徒も居たし、ここではそれが普通なんだろう。
そんなことをしげしげとおもいながら、作業を続けた。
作業を続けること十数分。
結構な眠けが自身を襲うころ、ようやく彼女の全体が、あの触手から解放された。
すると、それまで黙ってじっとしていた彼女が、ついに口を開いた。
「……ありがと、おにいちゃん」
おにいちゃん、か。
これはちょっと、危ない香りがする発言だな……。
よし、呼ばせ方を変えさせてみるか。
「どういたしまして。俺の名前はウィリアム・マーキュライトだ。ウィリアムって呼んでくれ」
「……わかった、うぃる」
いきなり略称か……。
ま、いいだろう、別にそれくらいは。
「……おなか、すいた。うぃる、ごはん」
すると彼女は、こちらの顔を見上げながら、そう言った。
あ~、そういえばそんなこと言ってたっけ。
こんなアクシデントがあると思ってなかったから、風呂上がったら作ってやるって言っちゃったんだよな……。
(ま、いっか。それくらいは)
「わかったよ」
ウィリアムはそう答えると、ダイニングへと向かった。