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転生魔王の墜落詩  作者: 忍霧麒麟
失楽園の王子
12/38

11 疲労と絶句と唖然を披露します。

 疲れた……。

 本当に今日は疲れた……。


 俺は、自室のソファーに腰掛けながら、頭の上に乗った赤いタオルをバケツの中へと放り投げた。

 たちまちそのバケツには、赤い液体が容器の八分の一ほど侵食されていく。


 ……紛れもなく、それは彼の血である。


 あの後彼は、寮長のミーちゃんに見つかり、エルフ族に伝わる秘薬を染み込ませたタオルで傷口を拭っていた。

 何でもその秘薬とやらは、傷にすりこむとたちまち傷を塞いでくれるというものらしい。

 ただし、人間やエルフにとっては、身体的にキツイらしく、タオルなどに含ませてから使用する必要があった。

 まぁ、その分治りが遅くなるのだが。


 ……そして、そのお陰で現在頭の傷はほぼ完治している状態でして。


 彼はため息をつくと、血液でかぴかぴになった金髪に手を触れた。


「ヤバい、頭痛がヤバい……」


 なんだか頭もくらくらしてきた。


 そういえば、部屋に帰ってきたのって何時ごろだっけ?

 ミーちゃんに結構長い間診てもらってたから、かなり遅い時間になってるような気がしているのだが……。


(風呂に入るか)


 ウィリアムは席を立つと、バケツを持って浴室へと向かった。


 浴室は、以前説明した通り、トイレと浴場が一つになっている造りで、その間にはカーテンで仕切られている。

 トイレに入るひとつ手前には脱衣場兼洗面所があり、そこに着替え用の衣服や、洗面具等を置いている。洗濯機も勿論そこに置いている。


 洗濯機といっても、ドラム缶のやつじゃなくて、魔力で動く、洗濯から脱水、乾燥から折り畳みまで一挙にやってくれる超便利アイテムだ。

 俺の家の洗濯機は、せいぜい脱水までしか自動でやってくれないのだが。


(文明が進んでいるのかいないのやら)


 そんなどうでもいいことを考えながら、一度タオルを蛇口の水で手洗いする。


「……おなか、すいた」


「!?」


 突如、俺の背後からそんな声が聞こえてきた。

 女の声だ。


「……おなか、すいた」


 まただ。

 今度ははっきりと聞こえた。


(こ、これってもしかして、幽霊とかそういうんじゃないだろうな!?)


 恐る恐る、彼は鏡越しに背後を確認した。

 しかし、そこには何もいなかった。


 気のせい……じゃないよな。さっきはっきり聞こえたし。


 こっちに来る前に読んだ、仙術(当時中二病でしたが何か?)の本には、意識せずにじっと、静かなところで周囲の雑音を聞いていると、希に耳元で人の声が聞こえることがあるんだそうだ。

 曰くその声は幽霊の声らしく、訓練すれば、自在に霊と交信できるようになる、という内容だった。

 試してみたら、二、三回くらい幽霊の声らしきものを聞いた記憶がある。

 当時は結構興奮して、途中から怖くなって寝付けなくなったというオチだけど。


 ……もしかして、今回もそれ……いや、今回はもっとはっきりとした何かだ。


 中二病の頃聞いた台詞は、覚えているなかで衝撃的なものがこれだ。


『今日の夕飯は晩御飯やで~!』


 ……いやいや。

 夕飯が晩御飯ってどういう意味だよ!?


 あのときはつい反射的に突っ込んでしまったけど。


 でも、今回のはシャレにならないかもしれない。


「……ねぇ、きこえてるんでしょ?」


 声が近くなってる。


 ヤバい。これは本当に不味い。

 答えたらアカン奴や!


 つー、と、俺の背中に冷や汗が伝うのを感じる。

 寒気がして、だんだんと腹が冷えてきた。


 俺、恐怖感じたら腹が痛くなるタイプなんです。はい。


 俺は、それからビクビクしながら、血のついたタオルを洗うと、洗濯機の中に放り込んだ。


 後ろを向かないように、慎重に、慎重に。


「……きみも、わたしをむしするの?」


 ……全部平仮名で読みにくいって人いますよね。でも、ポケ●ンって小学生の頃全部平仮名だったし問題ないよね?

 ↑↑そういう話ではない。↑↑


「……ぐすっ」


 ふと、すすり泣きが聞こえてきた。


「……なんで、どうしてわたしは、いつもむしされるの?わたしは、ただおなかがすいたから、ごはんをおねだりしているだけなのに……!みんな、みんなどうしてむしするの?」


 嗚咽おえつ


 ふと、俺は思った。


 幽霊って、大変なんだなーって。


(……かわいそうになってきたな、この幽霊)


 同情を覚えるレベルの可哀さである。


「……わかった。風呂入ったらご飯作るから、一緒に食べような」


 可哀想だから。

 そういう同情を覚えて、俺はその幽霊にそう提案して、後ろを振り返った。


 しかし、そこには俺が想像していた、可愛い女の子の姿なんて欠片もなかった。


「…… ア リ ガ ト ウ 、 オ ニ イ チ ャ ン 」


 そこにいたのは、女の子でもなく、ましてや人でもなかった。(幽霊の時点で人ではない)


「……」


 絶句。

 いや、これおかしいでしょ!?


 なんで、何でこんなところに、もの●け姫に出てくるたた●神みたいな奴がいるんだよ!?

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