09 判明
ケイトと課題のプリントも終え、無事ナツメ先生にお帰りいただいたその翌日。俺は、先生の言っていた図書館へとやって来ていた。
え?昨日事故とか起こらなかったかって?バカ言え。そんなことが起こらないように、家具の位置や浴室、洗濯物なんかも全部整えて、先生には寝室で隠れてもらっていたんだ。
ケイトには怪しまれないように寝室には行かないように、言葉巧みに誘導した。
そうそう、課題といえば。俺は昨日、魔法の使い方を覚えた。
ケイト達が帰ったあと、俺は昨日のナツメ先生に頭を叩かれた時の事を考えていたんだ。
そしたらどうやら俺は、この世界に来たときに異能の力を貰っていたことが判明した。
どういう能力かというと『頭に触れた書物や魔術を解析して把握、使えるようになる』とか言うチートだった。
これがあれば勉強は不要。
読書も不要。
なので俺は、家にあった本を片っ端から頭に叩き込んでいた。
それによって、現在の俺の魔術に対する知識は膨大だった。
無論、無理やり記憶させている訳だから、脳の疲労も半端ではない。
一度に叩き込む量が多ければ多いほど、怠くて仕方ない。体力がかなり持っていかれる。
これで、自分の知識面の心配はなくなった。
だが、問題は記憶だ。
いくら知識が豊富でも、記憶が無いのでは今後の生活に差し支えが出る。
アルバムとかないかな~とか思っても、どうやらこの世界に写真という概念がそもそもないらしく、かといって日記帳の一冊も出てこなかった。
記憶に関しては、地道に推測を含めて思い出していくしかないだろう。
ふと思う。
記憶が戻ったら、今の俺の記憶は無くなってしまうのだろうか。
書斎には転生して英雄になった話がたくさんあった。が、どれも記憶の復活が幼少期からに始まっている。
こんな16、17歳位の年齢から再スタート、なんて前例は、今のところ俺の知識には無かった。
それで、今回はそれも合わせて、ナツメ先生からの課題(と思われる)をこなすために、図書館へと来ていた。
図書館。
学園内には、そう呼ばれている棟が片隅にポツンと存在している。
規模は小さいが、本の収用量は俺の書斎と比べたら膨大な数だ。
「ふん~っ!」
と、そんな図書館の本棚が並べ立てられている一角に、とある女の子が高いところにある本に手を伸ばしていた。
テンプレである。
もしテンプレと同じ流れならば、俺はこいつとは無関係、今あったばかりの可能性が非常に高い。
(話しかける相手は慎重に選ばないとな……)
いつボロが出るかわからないしね。
俺は彼女のそばに行くと、その本を取ってやった。
「あっ!」
「はい、どうぞ」
なるべく警戒されないように、俺は笑顔でそれを手渡した。
「あ、ありがとうございマス!」
銀髪の少女は、礼を述べるとこちらを見上げた。
若干カタコト口調である。
西洋人のような顔つきが多いこの国にしては珍しく、日本人っぽい顔だった。
「どういたしまして。俺はウィリアム・マーキュライト。君の名前は?」
とりあえずキーキャラクターっぽい雰囲気だったので、名前を聞いておくことにした。
「マーキュライトさんデスね?ワタシの名前はマフユと言うデス!よろしくネ!まーくん!」
(……ま、まーくん?)
あだ名の付け方が、まるっきり日本人だった。
「あ、アレ?気にくわなかったデスか?」
渋い顔をするウィリアムに、彼女は人差し指を口元にあて、あざとらしく聞いた。
そこで俺は確信した。
──こいつ、ビッチだ。
こんな滅多にいそうにない美少女、いやかわいい幼女の癖に、動作の一つ一つがあざとらしい。
これ絶対狙ってるだろ!
自制しないとお持ち帰りしそうなかわいさだぞこれ。
「……あ、いや。日本人みたいなあだ名の付け方するな~って思ってさ」
「ニホン?どこデスか~、その国?」
あ、しまった。
つい口が滑ってしまった。
「あ、いやこっちの話。忘れてくれ」
「ソウデスカー」
この世界は、大半が魔王によって侵略されている。
そのため、人間の世界人口は、10万人をきると言われている。
その中でも、ヒト族が支配する国は三つ。
人間族の支配する国、ヒューマンガルド。
耳長族の支配する国、エルヴンガルド。
小人族の支配する国、ノーパンガルド。
その内、異国語を話すのが、プライドの高いノーパンガルドの住人、ノーファである。
因みにノーファは高い身体能力と、無尽蔵とも言われるスタミナ量を有する。魔法は不得意だが、白兵戦に強く、男性は生まれながらにして屈強と言われている。
筋肉の密度が高いため、一見スレンダーに見えるノーファだが、6歳位になると、男女関係なく、熊を平均して約5秒で狩れるほどの戦闘力を持つらしい。
魔術が得意なのはエルフだというのは、定番だろう。
エルフは身体能力こそ人間に比べれば鈍く、メイドにしたあげくはどじっ子メイド誕生の保証付きとまである。
そして、ヒト族はこの世界において、人間、長耳、小人の三種族を合わせたものと定義されている。
因みに、獣人、竜人、巨人などは、まとめて亜人族と呼ばれている。
うん、彼女はノーパンだな。
「ところでマフユさんは、どうしてこんなところに?」
「えっとデスネ~。先月か先々月くらい前に、ノーパンガルドの一部が魔王軍に侵略されまして……。ボーメイ?してきたんデス」
「そうだったんだ。なんか、悪いこと聞いたな」
「イエイエ!トンでもナイデス!」
そう言って笑顔で首を振るマフユ。
その目には、少し悲しそうな色が映っていた。
──大変だったんだろうな。
「ところで、まーくんこそどーしてココへ?」
話題転換と、彼女は聞いた。
「ちょっと調べ事でね」
「お勉強デスカ~?じゃ、ワタシもごいっしょするデス!」
そう言うとマフユは、服の裾を引っ張って、館内に置かれている読書机へと案内した。
「それで、まーくんは何を調べるデスか?」
「魔術関係を基本に、人体の構造を調べようと思って」
言うと、彼女は少し難しそうな顔をして、こめかみに指をグリグリと押し付けた。
「ムズカシイことはワタシわからないデス……」
──連れて帰って、授業と称して誘拐、軟禁しようか?
ふと、そんな危ない思考が脳裏を過った。
「じゃぁ、マフユさんは何を?」
「マフユでイイデス。ワタシは、ちょっとハツイクがよくナイデスから、オッパイの研究室か身長が伸びるホーホーを探すデス」
マフユよ、公共の場で女の子がオッパイなんて口に出しちゃダメですよ!悪い狼(俺とか俺とか俺とか)が本気で誘拐とか軟禁とか監禁とか考えちゃうから!
もう誘拐の手口まで計画しちゃってしまうから!
……何か最後の方日本語おかしくなった気がするけど気にしないでおこう。
「マフユ、女の子が公共の場でオッパイの話はしない方がいいよ?」
「?」
警告すると、彼女は何を言ってるかわからない。というように首をかしげた。
……ヤバい。前々から俺もロリコンなんじゃないかと疑ってたけど、これはもう認めざるしかないな。
うん、俺はロリコンだ(断言)。