00 I cry, I fall.
超能力、魔法、超常現象。
この世界には、知る人は少ないが、それは確かに存在する。
僕の友人である彼女、城山棺奈は、その一人であった。
その能力は、世界を移動する能力である。
そう言われても、ピンと来ない人も多いだろう。
そうだな。異世界召喚だか異世界転移だかとかいうジャンルのライトノベルがあっただろう?
異世界に召喚されたり、転移したり、迷い混んだり。
あぁいう現象を、自らの力で起こす能力。それが、城山の異能であった。
「世界っていうのはね?人の脳が作り出した幻影に過ぎないんだよ」
白く長い髪を靡かせて、彼女は校舎の屋上で言った。
白い髪。赤い瞳。真っ白な肌は、先天性白皮症によるものだ。
そんな彼女の言葉は、この現実に飽きを見せていた僕には、どこか魅力的で、芳しいものがあった。
……そうだ。僕は彼女に惚れていた。
「君が言うと、なんだか説得力が違うね」
「あら、神路君。それ皮肉?」
「そんなことないよ」
二人は笑いあって、今日も日常を過ごしていた。
あるいは彼女にとってはそうだったかもしれない。だけど僕は、彼女といる時だけは、すこし非日常を体験しているような気分だった。
そんなある時だ。
城山が拐われた。
僕は必死に探した。
学校なんてどうでもよく、ただ彼女を探していた。
見つかったのは、あつらえたかのような石塔の上であった。
「神路君!」
「城山!」
彼女の周りには、ローブを羽織った謎の集団がいた。
顔はフードで隠れてよく見えない。
「城山を帰せ!」
「この娘は、我らが魔王様のために拐って行く。帰すわけにはいくまい」
ローブの一人が、こちらに手を向けた。
瞬間、僕はそれが危険なものだと思った。
魔法モノの読みすぎかも知れなかった。だが、それのお陰で、目の前に飛来してくる陽炎のようなものを避けることができた。
「ほう?この世界の住人にしては、なかなかやるではないか」
ローブは腕を下げると、ニヤリと笑った(気がした)。
(さっきの、魔法か?)
脚が震えた。
勝てるのか?と考えた。
先程の台詞から推測すると、彼らは魔王の手下で、尚且つこの世界の人間をやすやすと殺せる能力を持っていることがわかる。
だとしたら、俺は勝てるのか?
(勝てるわけない)
この塔は少なく見積もっても20メートルはある。
今居るところも、そんなに広いわけではなかった。
動き回れば、間違いなく死ぬ。
かといって、なにもしなくても死ぬだろう。
「逃げて!」
城山が叫んだ。
咄嗟に体が反応して、前へと突き進んだ。
……いや、どちらかと言えば、引き寄せられた。
「!?」
「神路君!」
手を伸ばす城山。
しかし、その華奢な手を握っても、この勢いからして彼女も道連れになる可能性が高い。
だから俺は、その手を掴まなかった。