野球部と走る
肌寒い季節に外でランニングしている野球部の生徒は、グランドコート(通称グラコン)を来て、アップを行っている。そんな中、僕が見たのは……。
「先輩、丸坊主にタンクトップでしかも短パンでストレッチしている選手いますよ?」
「ああ、ユウ。ちなみにあれはタンクトップではなく、ノースリーブと言ってね……」
「そんなこと聞いてないですよ。それにあれで寒くないのかという返しが欲しかったです」
僕はため息をついてみれば、白い息が顔にほのかな暖かさを感じさせた。それほど僕は寒くなっていのだと、感じる。
「あれはエースだ!」
「ちなみに陸上界とか言わないよな?」
「なぜバレた!?」
言おうとしたのかと心の中で思っていることとしよう。このアホには……それにしても足の太さや腕の太さを見る限り、体格に恵まれていると僕は感じた。
「さて、彼と今日は走る。僕たちには跳躍力や左右に素早く走れる力が一番必要だ」
「そのための彼ですか?」
「そうだ、それに彼はモブでレギュラーでもないから。走らせろという話だ」
先輩は鬼畜だということを今の今まで忘れていましたよ。鬼畜な先輩とアホのジュン、そしてモブって……。
「先輩、メタ発言は控えろと先ほど言いましたが?」
「今更かーダメだよ? すぐに気付かないと」
この人には逆立ちしても勝てないというのは本当でした。天才には逆立ちしても勝てないんですね。
「まあ、あれと走るわけではないのですが……」
「ここまで来てですか。いい加減にしてくださいよ」
ストレッチとジョギングでちょっとしたアップを終える僕たちは野球部がいるグランドに足を踏み入れた。その瞬間に感じた事はただ一つ。
憎しみがケイ先輩に向かっていることだ。
これほどまでの憎しみが向いているのには、さすがに驚きを隠せない。でも先輩は何事も無いようにしている。さすが天才だ。
「全く君たちが女子に持てないからってそんなに睨まなくてもいいじゃないか」
そっちかよ! と雰囲気に呑まれて声は出せなかったが、僕はものすごい顔で(きっと)睨んでみた。