ー草原ー
どんなにあたりを見渡しても、草原。
右を向いても、左を向いても、もちろん前や後ろを見ても…
緑色の草が風で揺れていた。
馬に揺られながら、朱璃たちは草原を見渡していた。
「シナ、ここはどこ?」
「紅南国のはずれですね。
そろそろ、中町になるでしょう。」
「中町?」
「ええ。
紅南国と東蒼国の間のことです。
この町にいるものは、奴隷と同じ扱いになります。」
「え、なんで?
下町の人たちと同じじゃないの?」
朱璃が発したあと、緊張の糸が貼られたような衝動に駆られた。
「シナ…?」
不安そうにシナの顔を見た。
「この、中町に住む人たちは紅南国と東蒼国の人たちなのです。」
「え?」
「つまり、愛し合ってはならぬ者たちの集まり、
ということになりますね。」
「…だよね」
紅南国と東蒼国は、ここ数年いがみ合ってきた仲だ。
お互いの国境を行き来することも、許されない。
しかし、その間の中町の人たちは…?
「それに、中町というのは奴隷市場でもあるのです。」
奴隷市場という言葉に、思わず身震いした。
「だから、王宮の目にとまることはなく、安全といえば安全なのですが…
たまに奴隷に間違われて、売られていく中町人も少なくないのです。」
「だけど、紅南国と東蒼国なんて見た目変わらないじゃない。
同じ日本人なのだから。
だったら、どちらかの国に行けば…」
「住民票はどうするのです?
年に一回、政府にみせることになっています。
偽造なんて、できないことを王女のあなたならわかるでしょう。」
住民投票は純金でつくられているため、貴族はおろか、
下町の給料でつくられるようなものではない。
「そ、っか…」
朱璃は肩を落とした。
「いやーーーーーー!」
「え…?
今、なんか聞こえたなかった?」
「そうですか?
シナさま、聞こえました?」
「いえ、私はなにも。」
「いや…聞こえたよ、絶対。
女の子の叫びだった。もうすぐ中町だったよね?
そこの子かもしれないっ」
それだけ言うと、朱璃は馬を走らせた。
「…し、朱璃様!
ったく、とんだじゃじゃ馬ですな。
突っ走ってしまう・・・」
「でも、朱璃は小さいころから耳がいいですからね。
もしかしたら本当に叫び声だったかもしれません。」
「そうですな。」
二人は顔を見合わせて、同時に馬を走らせた。
頑張っていきます!