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10  作者: あなちち
第零篇 Enlistment
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第三章

なんでこんな目に遭わなくちゃいけないんだ。

こっちはただ引越しに来ただけなのに。

目的地と全然違うところに連れて行かれたり、目の前で意味不明な戦闘を見せられたり、生まれて初めて失神したり、おかしな球形の物体に運ばれたり…

挙げ句の果てに、引越し屋の男は目を覚まし、

「うぇっ…気持ち悪…」

といって、車内で吐き出す始末。

おかげで終始、戦々恐々としていた。

とまぁこのような格闘をしているあいだに目的地についたらしい。

パリンッというガラスが弾けるような音と共に激しい重力が襲ってくる。

地面が近かったのが攻めてもの救いだった。衝撃はほんの数秒。

腰にわずかな痛みを覚えたが、それより外の様子が気になるのでとりあえず車外に出た。

連行される宇宙人の気持ちがわかったきがする。なんとも不安だ。

まず気づいたこと、車体を包んでいた球場の物体が消えていた。

おそらくさっきの音はこれが原因なのだろう。

しかし、割れた音がしたのに破片は一片たりとも落ちていなかった。

まぁそんなことはどうでもいい。

いや、良くはないのだろうが非常識的なことに触れすぎてしまったせいだろうか。

そう思って自嘲気味に苦笑する。

それよりも今は現在地を探ることが先決だ。

周りは金属の壁に囲まれていた。多分、鉄だろう。鈍色をしている。

だが明らかにそれはくすんでいて、軽く十年くらいはたっているのかあまり整備されていないか。

ふと左の壁の端にドアノブのようなものがついていた。

扉も同じ金属で出来ているのか、一見するとよくわからない。

多分出口なのだろう。緑色でEXITと書かれていた。

「助かった…」

重い息を吐き出した。

内心焦っていたんだ。こんな核シェルターやら廃棄工場やら訳の分からない空間に監禁されていると思っていた。

しかし、出口があるんだったら帰ることができる。

もう一度深く息を吐き出した。

昔、国家機密を一般人に知られたとき、その人間を暗殺、監禁、拷問など法外行為をしていた国があったそうな。

多分さっきの光景すべてが国家機密だったのだろう。みたことも聞いたこともない。

それを先ほど見てしまったので現在に至るわけ、か。

バカバカしいっちゃバカバカしいが笑えるに笑えない現状。

…どうしたものか。

ガチャッ、キィー…

途方に暮れていた僕を救ったのは扉が開かれる音だった。

左の壁の端にあった扉である。

「あ」

そこに現れたのはさっきあった人物。

刀を振るっていたあの男だ。

「やあ」

彼は僕の存在に気づくと微笑しながら軽く手を振った。

この人、よくよく見るとなかなかいい顔だちをしている。

通った鼻筋と切れ長の目、瞳は黒く、吸い込まれそうな雰囲気。

服は真っ黒で裾が長い。街中にいるとかなり目立ちそうだ。

「さ、さきほどはどうも」

よくよく思い返すとこの人が僕を救ってくれた、のか?

どっちが悪だか正義だかは分からないが、シーンからして救ってくれたんだろう。

そのことを思い出して慌てて礼を言った。

なんだかこの人を前にすると緊張する。

クラスの人気者に声をかけるとか、そういった感じ。

「いやあ、気にすんなよ。侵入を防げなかった俺らが悪いんだし」

彼はわざとらしく肩を落とし首を振った。

この人、見た目よりも柔らかい性格らしい。

「侵入…?」

「あぁそっか、君、ノアの外知らないんだ」

まるで知ってて当然のような口ぶりである。

ノアの外…噂には聞いていたが本当にあったのか。

僕はノアで生まれてノアで育った。

僕ら、ノア生まれノア育ちはノア=日本だと思っている。

しかし、僕には叔母さんと両親がいるのだ、叔母さんがよく両親から聞いたノアの外の世界について子守唄がわりに語ってくれたことがある。

今は懐かしい記憶だ。

「まあそのあたりは話すと長くなるから」

そう言うと彼はさっき出てきた扉に向かって手招きをする。誰かいるんだ。

その扉から出てきたのは意外な人物だった。


「えっと、その子は?」

扉に顔を出したのは少女だった。

10歳前後くらいだろう。中学生でもなさそうだ。

そんな女の子がこんなところにいて大丈夫なのだろうか?

(くう)だ」

黒衣の男は言った。

いや、名前はわかったのだが…

『いえ、私は(そら)

頭に響いてきたのは女性の声。

咄嗟に周囲を見渡すがそんなことができそうな人物はいない。

空と呼ばれた少女がじっとこちらを見据えているだけだ。

…え?

「えっと…さっきからなんか、頭に流れ込んでくる声は…?」

『私』

少女がその短い手を挙げた。

「あ~っと、(くう)は喋れないんだよ。だから脳内通信技術を取り込んだんだ」

男が僕が理解できていないことを悟り説明してくれる。

脳内通信技術っていうのはテレパシーみたいなものか。

僕の質問に答えることができるということは耳は聞こえるらしい。

しかし声と顔があっていない。

微笑しながらも聞こえてくる声は無感情だ。

こういってはなんだが変な気分になる。

それを見越してか彼女は『まだ開発途中だから』といった。

なるほど、納得した。

「ちなみに俺は七夜冬織(しちやとおる)だ。よろしくな」

そう言って差し出されたのは彼の手。

握手だろうか。どうもこういうのは慣れていないので緊張する。

ためらっていると頭に無感情な声が流れてきた。

『私も、よろしく』

そう言って彼女も自分の手を差し出す。

「…よろしく」

こういうのをノリというんだろう。

僕は二人の手を握る。

この行為が後後、運命を左右するとは当然わからなかった。

まあ当然のように自己紹介をし始めた彼らを疑わなかった僕も僕だけど。

―あの無感情な声が響く。



『これであなたも第十部隊の仲間』



それは運命。

それは偶然。

そして、それは全ての始まり。

いくつかの忘れ物とともに…


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