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10  作者: あなちち
第零篇 Enlistment
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第〇章

両親が死んだ。

それは唐突だった。しかし覚悟していたことだ。

両親は同じ職場で働いていた。

「対神機関」。

なんとも簡素な名前だが政府直結の特殊機関である。

両親の死を知ったのもその機関からの連絡だった。

母は医療班、父は戦闘部隊として働いていたらしい。

僕は生まれてすぐ、母の妹、つまり叔母さんのもとへ預けられた。

理由は、忙しいから…ときいている。なにか後ろめたいことがあるのかもしれない。

そういうわけなので両親について知っていることがあまりない。

一応3人揃った写真は残っているが、生まれてすぐ撮った写真1枚しかない。

それは叔母さんがペンダントにしてくれ、常に胸にかけている。

そのペンダントをもらったときのこと…両親の葬儀の時の話だ。

僕はもう10歳になって物心などとうの昔についていた。

人の死には悲しむ…というのが普通の感性だろう。

しかし、両親の死には悲しみなど全く感じなかった。

遺影を見ても、おばさんが声を上げて泣いていても、涙1つこぼれなかった。

自分でもわからないが、きっと彼らとの記憶がないから、だろう。

赤の他人の死を悲しむ人がいないのと同じことだと思う。

しかし血が繋がっている人間なのだ、彼らは。

…周りの目が痛かった。

事情を知らないものは侮蔑の眼差しを容赦なく向けるのだ。両親の遺影を前に無表情な自分を。

それが辛くて、僕は逃げ出した。

思えば、自分勝手も良いとこだろう。

―――しかし、この出来事が自分の人生を大きく変えたのだ。

葬式会場を唇を噛み締めながら走った。一心不乱に。逃げ出したい一心で。

と、入口で誰かにぶつかった。

頭の中が真っ白だったのでブレーキをかけれず思いっきり顔を打った。

悶えていると上から声が降りかかった。

「ぼうや、どうしたの?こんなところで走って」

女性の声だ。それも、妙におっとりとした鈴のような声。

僕を落ち着かせるのには十分な材料だった。

「あっあなたもしかして先輩の息子さん…?」

先輩というのは誰のことだろう。母親か、父親か、はたまた葬式に来ている人か。

僕が言いよどんでいると声の主は構わず続けた。

「顔が似ているのね」

声が弾んでいた。葬式にはさぞ似つかわしくない。

「お姉さん…だれ?」

やっと平静を取り戻した僕は尋ねた。

ちなみに目を打った影響と日光による影響で顔は見えなかった。

お姉さんという形容があっているのかわからなかったが、おばさん曰く女性は全員お姉さん、とのこと。

「あら、お姉さんなんて、出来た子ね」

弾んでいた声がさらに弾む。

「私は…いえ、今は言わないでおきましょう」

「なんで?」

「あなたがもし、先輩の子ならここに来なさい」

そう言って彼女が取り出したのは小さな名刺。

対神機関とでかでかと掲げられていて隅っこに住所と連絡先が書いてある。

「誰にも知られないようにね、あと15歳になってから」

彼女は急に囁くようにこういった。

なんで?と問おうとしたが後ろから叔母さんが首根っこを掴んで元の位置に戻されたので理由はわからなかった。

結局、顔も、名前も分からずじまい。

きっと会場にいたはずだがとなりに座っている叔母さんの娘(従妹)のせいで探せなかった。

それもこの従妹、かなりおしゃべりなのだ。

彼女の相手をするだけで精一杯。

さらに叔母さんから、

「これ、あなたのお父さんが死んだらあなたにって」

と、恭しく例のペンダントを渡すものだから、

「ほ~し~い~!!」

などということになってしまったのである。

ちなみにこの時、お姉さんからもらった名刺はポケットの中。

誰にも知られていない。

まさかこんな小さな紙切れが未来を激変させるチケットになろうとはこの時、想像もしてなかった。

これが、僕の小さい頃の記憶。

そして、これからが現在に至る。

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