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さよならのプラットホーム  作者: 青田 絲
第四章 困惑は止まないまま
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 きっと彼女は思い出に浸っていたのだろう。

 確証はない。

 彼女の行動ではなく、彼女自身、ここにいる彼女自体が単なる《僕の想像》だと自信を持って否定できない。だからもしかすると、僕の思った通りになっていて、確証どころかまるっきりの真実だと言えないでもないのだ。今の段階では。

 僕は彼女に近づく、なんてことはしなかった。

 僕は教室の入り口に立っていて、彼女は自分の席に座っている。この距離は、僕らが出会ったばかりのころのそれと、同じだ。

 今の僕たちの距離もこんなものだろう。

 だから近付くなんてことはできなかった。

 彼女は窓の外を眺めたままだ。彼女の目がなにを捉えているのかは皆目見当がつかない。ここからではまったく、なにも見えない。

 ただ、彼女の傍によれば、あるいは見ることができるかもしれない。

 そうするだけの勇気を僕が持ち合わせていないだけだ。

 だからここから眺めているわけで、彼女との距離はこの状態で、彼女はこちらを窺う様子もないのだ。

 溝っていうのは初めからあるものじゃなくて、水が流れたりしてできるものだ。この場合、水がなんなのかは枚挙するのに暇がないけれど、溝ができてしまっていることは確かにわかることだった。

「お父さん、見つかった?」

 僕はあらん限りの勇気を振り絞って彼女に問うた。

 彼女は僕のほうを見ることなく、首を振った。

「もし見つかったとしても、君には関係ない………なくもないか。でも、関係があったって、君がお父さんのことを心配する必要はこれっぽっちも、」こっちを見ずに親指と人差し指の間にスキマを作って見せた。「ないんじゃないかな?」

 正直、僕のところからはその隙間がはっきり見えないが、どうやら消しゴムくらいの大きさのようだ。

「そうだね、確かに、そうだ」

 僕はそう答えた。

 本心ではそんな風に思っていないけれど、こんな距離では言ったところで伝わらないことは自明の理だ。

 不意に時間が気になった。

 彼女はいつも何時ごろに起きているのだろうか。場合によっては、タイムアップ間近なのかもしれなかった。

 聞いてみると、彼女はいつも六時半には起きているとのことだった。なんでも、最悪でもその時間には母親が起こしに来るだとかで。

 もう一度時間を見る。

 となると、あと二時間ほど、かな。

 気にならなかったせいか、知らないうちにもう僕の腕時計は四時半を指していた。

 夢のなかだと時間が過ぎるが早いようだ。

 だとすると、こうぼやぼやとしていられない。

 僕は彼女に提案した。彼女はこっちを見ないままで、いいよと答えた。

 二人して目を閉じた。



 踏み切りの音がだんだん大きくなってくる。

 と思ったら、音を反転させて遠くへと離れていく。

 小刻みに揺れる感覚が頭の奥をコンコンと叩く。

 目を開けて、正面に座っている彼女のほうを見据える。

 彼女は目を閉じたままで、こちらを見ない。僕も彼女のほうを見てはいるものの、それは外を眺めているだけで彼女を見ているわけじゃない。だからおあいこだ。

 赤色をした座席は、なんだか安っぽく感じられる。昔となにも変わっていないのは、再現されているままだからだろう。

 外の景色は、意外に綺麗に再現されていた。さっきの交差点みたいに、灰色の景色のなかに放り出されるかと思ったけど、思い入れが深いところだけにそんなことはなかった。

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