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さよならのプラットホーム  作者: 青田 絲
第三章 夢の中に倒る
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無気力へ演技っぽく

「いや、親身に、というか――」

 自分への欺瞞、と言おうとしたところで彼女にさえぎられた。

「私、明日か……遅くても明後日には退院できるらしいの。お父さんのことは、まだ諦めてないし、諦めきれないから。またその時はよろしくね」

 それに対して、うん、としか言えなかった。

 きっと彼女も、気づいているだろう。彼女の父親がもう見つからないかもしれないということに。これだけ探していても手がかりの一つも見つからないのだから。

 探し方が悪い?確かに僕がやっていたように、自らの足で探そうというのは愚かだろう。彼女だって自分の足で探していた。でも、これだけ見つからないとなると捜索届けを警察に出していてもおかしくはない。彼女の母親か、もしくはそれ以外の親族とか、しかるべき人が。

 それなのに見つからないというのだ。

 きっと見つかる、見つかって欲しいと思うのに、それを軽々と否定する現実。リアリストであったら、僕も彼女も諦めていただろう。

「まだ、見つからないわけじゃないよね」

 僕は琴乃にそう問いかける。


 彼女の病室を立ち去ろうとすると、扉の前で彼女の母親に出会った。

 会釈を交わして、おはようございますと挨拶をした。

 相手から挨拶は返ってこなかった。いや、正しくは、相手からの挨拶は聞こえなかったというべきだろう。

 初めて会ったときと同じように無気力なままだった。目はうつろを眺めていて、一挙手一投足に力がない。

 僕は脇を抜けて、そのまま病室に背を向け歩き出した。

 背後で扉が開く音はしなかった。


 次の日に目を覚ますと、彼女からメールが入っていた。無事本日付で退院できるらしい。

 報せがないのが何よりの報せ、みたいなことを言ったような気がするが、無事であるという報せはそれ以上のお報せだ。

 琴乃に返信をしてから、父親に言付けて家を出た。

 向かう先は彼女の家だ。僕は彼女が帰宅する前に、やるべきことがあった。

 歩き始めて暫くすると、彼女の家が見え始めた。

 冬間際の空気のせいか、しんと静まりかえっている。夏に見たときとは少し違った印象を受けた。

 インターフォンを鳴らして返事を待つ。家の明かりがないのは朝であるから当然なのだけれど、休日の朝ならではの静けさとは思えない。というか、彼女の祖父母も一緒に暮らしているなら、早起きしていそうなものだが………。

 数分待ってもインターフォンに人が出る気配はなかった。それどころか、さっきまで以上に静かになった気がした。

 ――留守かな。

 そう思ったとき、ちょうど居間の辺りの窓、カーテンの隙間から顔が覗いているのを見つけた。目が合って、相手はすばやく顔をカーテンの裏へ隠した。

 彼女の母親だ。そう判別したのは顔を見た瞬間だった。昨日見たばかりの顔だ、嫌でも覚えている。………本当に嫌というわけではない。

 顔が見えなくなってからまた少し経つと、インターフォンから音がした。

「…………どなたですか」

 僕は些細な自己紹介をして、玄関扉が開くのを待った。

 鍵の開く音がしてから無気力な表情がお出迎えしてくださった。

 どうぞ、と中へ入るよう促される。靴を脱いで中へ入ると家の中は静けさの温床だった。温床というと少しばかり聞こえが悪いけれど、空気感や光度がそれを似合わせる状態にしていた。

 居間へ行くようなのでついて行くとダイニングテーブルの人席を勧められた。

「……なにか飲みますか、コーヒーか紅茶か」

「えと、コーヒーを」

「……………そう」

 返事までの間が気になっても問いただすことはできなかった。

 お互い無言のままコーヒーをすする。息を吹きかける音と、コーヒーが喉を通る音以外は何もしない。

「……それで、御用は」

 建前として琴乃の帰宅を待っているとは言ったけれど、この様子では違うと気づかれているようだ。

「……貴方の、ご主人のことについてです」

 我ながら、演技染みた言い方だ。

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