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さよならのプラットホーム  作者: 青田 絲
第一章 然れども僕にあるまじ
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前途は立つ

 阪井の返事は色のよいものだった。

 案の定と言うべきだろうか、僕はそこはかとなく彼が快諾してくれることを予想していた。僕はあまり感傷的にはならない性分だけれど、持つべきものは友だと感じさせられた。

 内容の説明をし終えると、なぜだろうか、彼の顔はほころんでいた。

「なにかおかしいことでも?」

 特になにも、と答える彼はそれでも微笑んでいた。

 自分の顔になにかついているのだろうかと確認するものの、やはりなにもなく、僕は彼の微笑に疑問を持たずにはいられなかった。

「それで、転校生ちゃんの世話はいつ実行するんだ?」

 世話という言い方に、僕は不満を口にする。彼は笑いながら、適切な表現だと思うけど、と言った。

「世話じゃなくてクラスへの貢献だよ。ボランティアだね」

「なるほど、そんな表現もあったか」

「君は嫌味を含まない言い方を学ぶべきだよ」

 と僕が嫌味を言うと、お互い様だろ、と返された。あと嫌味のつもりはないからな、と。失敬なやつだ。

 兎にも角にも、

「今日の昼休みに、まず委員長のところへ行こう。彼女を頼る形に最終的にはなるだろうけど、それが一番建設的だと思うんだ」

 計画の説明を終える。計画、というほどのものでもなく、委員長へよ丸投げとなるだろうものだけど。

 しかしながら、彼も委員長を頼ることには賛成の様だ。それがいい、と彼が言うと、午前最後の授業の鐘が鳴り始めた。


 よくよく思い出してみると、委員長は誤解をしているわけではなかった。彼女が憤ったのは、倫理的な理由だったのだった。

 とは言え、委員長に話をすることで事が上手く進む事は明らかだ。彼女は信頼できると、あまり付き合いのない僕でも思えるほどに。とりあえずは相談という腹づもりで話せばいいだろう。

 昼休み、教室には委員長の姿はなかった。

 多忙な彼女のことだ、先生に頼まれたことでもあるのだろう。昼休みに姿がないことは珍しいことでもなく、委員長という立場をまっとうしている、とは阪井の説明による。

 とにかく、探さなければ。僕は意地でも彼女を見つけなければならない衝動に駆られる。戦車に足を踏み潰されようとも、餓死寸前までいこうとも、見つけなければならないと思った。

 でも身体は正直だった。腹の虫はうなることをやめない。そして僕の決意は予想をはるかに下回る強さだった。

 腹が減っては戦はできぬ、と阪井とともに弁当を腹の中にかき込んでから教室を出た。

 クラスメイトによると、委員長は多分職員室にいるとのことだった。職員室は二つ、教室のある北棟に第二、その南にある本館に第一職員室がある。僕と阪井は手分けをすることにした。

 僕のクラスの担任は第二職員室にいる。どうにも顔を合わせたくないのは昨日の今日で変わらない気持ちだ。足を延ばしてでも第一職員室に行きたい。

 阪井に僕が第一に行くと伝えるとそのまま渡り廊下を渡って本館へ向かう。

 第一職員室を覗いたけれど彼女の姿はなかった。

 阪井からも連絡が入ってくる。どうやら第二にもいないようだ。

 すると……。

 職員室ではないどこかだろう。けれどあてはない。

 昼休みでなくても遅くないだろうか。急ぐ必要もないかもしれない。

 僕は阪井に教室へ戻ろうという旨のメールを送信して来た道を戻って行った。


 放課後になった。

 委員長に時間をもらって説明をし終えるの数分もかからなかった。

 彼女が阪井は別に転校生のことを特別視しているわけではない都いうことを理解するのにはもっと時間がかからなかった。

「つまり早とちりだったわけね」

 委員長はそういうとため息をついた。

「委員長がそこまで気負いすることはないよ」

 と僕は一応のフォローはするものの、彼女にとってどの程度の意味があるかといえば、微々たるものだろう。なんの足しにもならない。

 ただそこは、さすが委員長というべきか。彼女はすぐに立ち直ると騒ぎの鎮静に乗り出すことを承諾する意を表してくれた。ーー立ち直ったのかどうかは定かではないのではあるが。

 ともかく、これである程度の目処は立った。

 あとは実行に移すだけだ。

 そう思うと気が楽になった。僕が何かをしたわけでもなければ、今後目立ったことをするわけでもないけれど。

「ただ……」

 と言ってから委員長が続けた言葉に僕は我に返る。

 放課後では実行できないじゃないか。

 教室へ戻ると誰もいなくなっていた。

 ――ただ一人を残して。

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