第二章 紅に染まる手 その三
孤月は、湖の前に並ばされている村民達の悪意の視線に晒され続ける。
「目は口ほどに物を言うな」
人は一面だけでは全てを語れないことが多い。軍人時代は非道の男として知られていた風馬でも、薄翅蜉蝣衆としては村民に慕われる英雄のようだった。それも命を懸けるに値するほどのだ。
そして孤月は英雄を殺した男としてその憎悪を一身に受ける。
「村人達をどのようにしましょうか?」
紫電改が孤月に尋ねる。
薄翅蜉蝣を殲滅せよとの命は守らなければならない。残念ながらテロリストの抹殺のためならば民間人の命は軽視されてしまうものだ。それに村人が完全に被害者というわけではない。村人はテロリストを庇うような態度である。今回の風馬のように村民に紛れられてはどうしようもない。
ここで良心を見せては部下達が自責の念に駆られてしまう。当然のことのように、正しい行いのように、示さなければならない。
孤月は周りを睥睨する。一呼吸を置くと高らかに宣言した。
「腐った林檎は、箱ごと捨てなくてはならない!」
仲間の死ボーグ達全員がどよめく。死ボーグ達は良心と命令の間で揺れて困惑しているように見えた。
「隊長の命令だ! 皆、存分に虐殺しろ!」
だがそんな困惑を打ち消すように、紫電改が背中を押した。それは悪魔の声だ。
部下達は自らを鼓舞するような掛け声を上げ、歩兵砲を放った。
殺戮が始まる。
「話が違う」
「命だけは助けてくれ」
「幼い子供だけは見逃してください」
「嫌だ、死にたくない」
「許してください」
孤月はそんなありきたりな命乞いを全て聞き流し、殺戮領域の前線に立った。
勇気を折り、信念を曲げ、屈辱を喰らい、武器を放棄して命だけでも助かるために降伏した捕虜が結局最後には処刑という末路を辿る場合、その膨大な無念のエネルギーはどこへ向かうのか?
孤月は殺戮領域の前線で考える。
自分はいつか因果という名の報いを受けるのだろうか? いや違う、運命の力などどこにもありはしない。どんなに強く願っても、どんなに思いを込めて祈っても、それでは小石一つ動かすことはできない。たった一人の外道を殺すこともできないのだ。
孤月は殺戮領域の前線で考える。
今日、自分は復讐に成功した。そして村民達は永遠に自分に復讐できないだろう。思いを果たせた自分と思いを果たせない村人のこの二者の違いはなんだ? 違いなどない。ただ振られた賽の目のように、意味もなくそうなってしまっただけだ。
(……惨めだ)
自分はただ運悪く生き残った。
結局のところ、孤月の思考はそこに収束するのだ。
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