5.冒険者と残された手紙
アッシュは手紙を丁寧に折りたたむと、仮面越しにリリィを見た。
「この作り手、相当な腕だ。だが、その腕前を見て狙いをつける奴もいたってことだな。」
「どういうことですか?」リリィが不安げに尋ねる。
アッシュは軽く肩をすくめながら言った。
「簡単だ。この木材の香料がソースの重要な要素だってことに気づいた奴が、作り手を監視していた。作り手が倉庫に出入りする様子を見て正体を突き止めたんだ。」
リリィの顔が青ざめる。
「つまり…犯人は、作り手さんがあの倉庫を使っていることを知っていて、それで…」
「さらった。」アッシュがリリィの言葉を引き取った。
「ソースの秘密を奪うために、作り手を直接手に入れたってわけだ。まあ、誘拐ってやつだな。」
リリィはしばらく呆然としていたが、思い切ったように顔を上げた。
「じゃあ、その倉庫に行けば手掛かりが見つかるんですか?」
「可能性は高いな。」アッシュは冷静に答えた。
「だが、下手に行動するとこちらが何者かを悟られる。それに犯人がどれほど準備をしていたかにもよる。急ぐべきだが、慎重にもなるべきだ。」
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アッシュとリリィが赤レンガ倉庫に足を踏み入れたのは昼前のことだった。空には薄い雲がかかり、陽光は倉庫の天窓から細い筋となって差し込んでいる。湿った空気と木材の香りが鼻をくすぐる中、アッシュは手紙を取り出し、注意深く観察を始めた。
「さて、ここで書かれた証拠を探すとしよう。」
リリィは不安げにアッシュを見つめる。
「どうしてここで書かれたってわかるんですか?」
アッシュはにやりと笑った。
「リリィ、お前は『どうして?』って聞くのが得意だな。それでいい。知りたがりは生き残るコツだ。」
彼はしゃがみ込み、木箱の表面を軽く撫でた。指先に付いた粉のようなものを、リリィに見せる。
「見ろ、これだ。」
リリィが首をかしげる。
「ただの埃ですか?」
アッシュは首を横に振り、持ち歩いている小さな瓶から薬品を一滴垂らした。すると、埃がわずかに色を変えた。
「これが倉庫特有の木材に染み込む香料の粉末だ。乾燥した木材が発する微粒子が埃と混ざる。ここでは空気中にこの成分が漂っているから、手紙に付着している痕跡も確認できる。」
リリィが驚きの声を漏らす。
「つまり、この手紙にもそれが付いてるんですか?」
アッシュは手紙を取り出し、仮面越しに微笑んだ。
「その通り。試してみるか?」
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