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4.冒険者と事件のはじまり

次の日の朝、星影町の噴水広場は異様な空気に包まれていた。人々が何かを囲み、ざわつきながら噂話を飛び交わせている。

アッシュは噂に引き寄せられるように群衆へと歩を進めた。黒い外套の隙間から見える仮面の奥の瞳は、どこか興味深げに光っていた。

「アッシュさん!」

リリィが群衆から駆け寄ってきた。その顔は蒼白で、目には不安が宿っていた。

「店の奥でソースを作っていた人が、消えちゃったんです…」

震える声に、アッシュは外套を払うように軽く動きながら、にやりと仮面越しに笑った。

「おっと、これは面白い。作り手が消えた? それとも新しい料理の演出か?」

「冗談言ってる場合じゃありません!」

リリィが半泣きで叫び、アッシュは肩をすくめた。

「俺は冗談を言ってる時ほど真剣なんだ。よし、事情を教えてくれ。」

リリィは手にした紙を差し出した。

「これが残されていた手紙です。」

アッシュは紙を受け取り、仮面越しに目を細めた。

「幸福は奪うものではない」

「なるほど、哲学的だ。料理人の失踪にしては芸術点が高いな。」

「アッシュさん、真面目に!」

「わかった、わかった。で、この作り手の正体を知っている人は?」

アッシュは手紙を折りたたみ、視線を店主へと向けた。

「作り手ってやつ、顔を知ってる人はいるのか?」

店主は困惑しながら首を振る。

「いや、それが…。地下倉庫にこもりきりで、一度も顔を見せたことがなくて。ただ、毎日ソースだけは決まった時間に置かれていたんです。正直、どうやって作ってたのかも謎でした。」

アッシュはため息をつき、肩を軽く回した。

「顔を見せないなんて、まるで料理界の怪盗だな。だが…」

彼は手紙に鼻を近づけ、指先で端をなぞった。仮面越しの目がわずかに細まる。

「紙に微妙な香りが染み込んでる。しかも、湿気と木材の乾燥剤に使われる特殊な香料だな。」

「香料?」

リリィが不思議そうに尋ねると、アッシュは満足げにうなずいた。


「そう、この香料はある木材、ティートリーという木にしか使われないやつだ。そして…なるほど、あのソースを作るためには、この木材の香料が欠かせなかったんだな。」


「ティートリーなら、この町ではあの赤レンガ倉庫にしか置いていないわ! でも、ソースに香料が…?」

リリィが驚いた顔を浮かべる。


「直接混ぜたら毒になるぞ、冗談はよせ。ただ、この木材は乾燥する過程で独特の香りを出す。その香りがソースの材料に微妙に移ることで、あの幸福感のある味を作り出していたんだ。」

「確かに、ほんのり木の香りみたいなものがあった気がします…」

リリィがつぶやくと、アッシュはにやりと笑った。

「だろう? 問題は犯人もそれに気づいていたってことだ。」


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