2.冒険者と偶然の出会い
「美味しいですよね!このソース、奇跡みたいに癒されるんです。」
ふいに、明るい声が横から飛び込んできた。隣の席に座る少女が、無邪気に笑顔を浮かべている。茶髪のふわふわした髪と大きな青い瞳――その純粋さに、一瞬アッシュの目が止まった。
「君もこの味に引き寄せられた口か?」
アッシュはいつも通り、冷静な声で返す。視線を少女に向けず、ポテトに目を落としたまま。
「ええ、そうです!星影町の名物なんですよ、このラパポテ。みんなこれを食べに来るんです。」
少女――名前はリリィと言った。地元の住人らしい。彼女の笑顔に邪気はないが、話す内容はアッシュに新たな疑問を与えた。
「ただの料理にしては、少し出来すぎているな。」
リリィは首を傾げた。
「どういうことですか?」
「気になるだけだ。君は、このソースを作っている人物について何か知っているのか?」
アッシュが問うと、リリィは少し考え込むように目線を落とした。
「うーん…誰も見たことないんですよね。その人。店の奥にこもってるらしくて。名前も、顔も知らないんです。ちょっと変ですよね?」
リリィは無邪気に笑ったが、アッシュはその言葉にわずかな違和感を覚えた。
「正体不明の料理人、か。」
アッシュは仮面の奥で微かに眉を動かした。これはただの料理の話ではない。どうやら、この町にはまだ隠された何かがある。
リリィは、ラパポテをつまみながら話を続けた。
「でも、その人がいなかったら、この店の人気は無かったかもしれませんね。すごいですよね、こんなソースを作れるなんて。」
彼女の無邪気な笑みが、アッシュに一瞬の違和感を与える。
「その人物は、いつからこの店にいる?」
「え?そういえば…いつからなんでしょう?気づいたら、ラパポテがメニューにあって、すぐに大人気になって…。」
リリィの表情が曇る。考えたことのない疑問が、彼女を少しだけ戸惑わせた。
アッシュは、仮面の奥で微かな笑みを浮かべた。
「なるほど。なら、そいつを見つけるのは俺の楽しみだな。」
立ち上がりながら、リリィに短く告げた。
「ま、待ってください!あなたは何者なんですか?」
リリィの問いに、アッシュは一瞬だけ振り返る。
「ただの通りすがりの冒険者だ。それ以上でも以下でもない。」
そして、彼は店を後にした。