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ただの幼馴染だけど!  作者: 雲花エマ
ブルーな女子
4/6

放課後の時間

 部活見学は次第に仮入部の時期になり、それを過ぎると部活を始める者が出始めた。中には仮入部もせずに入ってしまったり、中学の時もやっていたからと引き続きという感じの人もいる。

 別に消極的だから部活をしないというわけでもない帰宅部扱いの晴弥と来夢は同じく帰宅部になったという采月と咲実も交えて帰ることもない。

 来夢は一人ちょっと遠くから来ているのでさっさと帰る! というくらいの自転車通学だし、晴弥は親の代わりに買い物をしなくてはいけないからと早く帰るし、采月は友達と遊ぶ為に早く帰るし、咲実はのほほんとお散歩を一人して帰るからと早く教室を出る。

 今日もそんな咲実は一人てくてく放課後の廊下を歩いていた。

 何故か、この学校には思い出として残しておきたい場所がまだない。

 少し他人事のように感じるのはまだこの学校に慣れてない証拠だろうか。

 そんな学校の下駄箱で同じ科なのだから会って当然だろうという晴弥に出会った。

 今日は一人だ。

「帰るの?」

「ああ、そうだよ。これから買い物だ」

「今日もね……」

「そうだよ、うちの母さんは働き者だから」

 別に責めてはいないだろうけれど、そんな感じに聞こえもしない言い方に苦言を呈したくなったが咲実は言った。

「ねえ、付き合ってよ」

 またか――と晴弥は思った。

 この幼馴染達は共通して肝心な事を言わない。

「分かったよ、何するんだ?」

 別に慌てて買いに行く物でもないのでそう言えば。

「あれ? そんなに暇なの?」

 と言われる。

「洗剤を買いたかったんだ。洗剤は食品より早くなくなることはないからな。ゆっくり行ける」

「そうなんだ」

 そう言うと咲実は少し考えて言った。

「じゃあさ、その買い物する所まで散歩しようよ!」

「何だよ、散歩って。暇か?」

「そうだよ、暇だから散歩して帰るの。すぐに帰ったら何か嫌だし、もしかしたら残したい物を見れるかもしれない」

 こんな夕方に何を残すのやら……。

「桜でも残すのか? もう散ってないだろ」

「そうだね。今年の桜はもう撮ったから、違うのを探しに」

 そう言って咲実は靴を履き替えた。

 続いて晴弥もそうすると、手を差し出された。

「何だよ?」

「うーん……迷子にならないように?」

「何故、疑問形?」

「あー、いつだったか晴弥迷子になってたし」

「それ、低学年の頃だろ! 小学校だかの」

「そうだっけ?」

 ちゃんと覚えてない幼馴染に怒った所で何の価値もないと晴弥はその手を取らずに行くことにした。

 もし、うっかり手を繋いでしまったら、それこそ間違いなく人眼には付き合ってるように映るだろう。それは何としても避けたい。

「じゃあ、こっちな。俺はディスカウントストアに行きたいんだ」

「どうして?」

 買い慣れてるからだよ! とは言わなかった。

「その方がお前の散歩道も長くなるだろ」

 と適当に言えば、彼女はくすすっと笑った。

「まあね、その方がありがたいかも。晴弥と一緒に居るのはどのくらいだろうね」

「知るか!」

 何故俺が照れなきゃいけない?! と思いながら晴弥は咲実より先に歩き出した。

 けれどそんな彼女は歩き慣れているからか少し距離があったにも関わらず、すぐに追いついた。背は自分と同じくらいのはずなのに咲実の方が歩くのが早いだと? ここは競争じゃないんだと思い直して、晴弥は言う。

「お前、歩くの早くない?」

「え? そう? 普通だよ。それとも早く歩かなきゃ、すぐに撮れなくなるって思うからかな? 良いのってやっぱり一瞬なんだよね……」

 そんな事を言って、学校を出れば、どこのディスカウントストアに行くの? と言って来た。

「咲実の家からじゃ遠いかもな……。俺の家には近いけど」

「じゃあ、あそこだね」

 そう言って咲実は目的地が分かったようで迷いなく歩き出す。

 ディスカウントストアまでは歩いて三十分も掛からない。

 その間、何を話すべきか晴弥が考えていると彼女は言った。

「ねえ、晴弥も皆、帰宅部でしょ」

「ああ」

「それってさ、それぞれに理由が違うけどさ。同じになったのには笑っちゃったな。今までそんな事なかったのに」

「まあ、確かに。お前だけは何かしらの部活に入ってたよな。中学は何だっけ?」

「忘れちゃったの?」

 ちょっと悲しそうに咲実が言った。

 全然思い出せない。それくらい印象の薄い部活だった気がする。

「ヒントでもないけど、うち、幽霊部員だったの」

「だからだ! 何の印象もないはずだ。で、部活は?」

「忘れちゃった。というか、その部活もうないよ。だから入ったの。名前も忘れられてしまうような部活だったから」

「何で?」

「その方が良いんだよ。面接の時は嘘を言ったけど、ちゃんと部活では真面目に……って、そんなもんなんだよ。うちのやる部活って。だからね、今が楽しいの。自分で選んでやってる事だから」

 そう言って少し楽しそうに彼女は自分のスマホをカバンから取り出して見せた。

「この中にいっぱいある! 残したいものが!」

 そう言う彼女はとても印象的だった。

 今までの落ち着きが嘘のように輝いていた。

 夕方だからそんなに映えなさそうなのに映えている。

「それって……」

 何かで見た言葉が晴弥の口からこぼれた。

「スマホフォトグラファーか?」

「スマホフォトグラファーじゃないよ、もっと良いカメラがあるのも知ってるし、写真部があるのも知ってる。でもね、そういうのになりたいわけじゃなくて、ただこの時、一瞬を残しておきたいだけ。分かる?」

 と、少し姉さんのような落ち着いた声の彼女はやり慣れている。

 音が出てしまっても気にしない。

 音の出ないのをあえて使ってないような気もする。

 何でなんだ? そんな顔に気付いたのだろう、彼女は言った。

「こんな日常を撮って……と思ってる? でもね、これがうちの撮りたいやつなの。決して盗み撮りとかはしないよ。だからこそ、音が出るのにこだわってるの!」

 そんな彼女はスマホに入っているのをそのまま使い、お金を使わない道を選んでいる。

 歩きながら撮る彼女は楽しそうだ。

 こんな顏を見るのは久しぶりだ。

 咲実も笑うんだな~と思っていると、撮るのを止めた咲実が晴弥を見た。

「ねえ、うちね、そろそろやりたいと思ってる事があるんだ」

「何だよ?」

「スマホの中にさ、消したくない思い出を入れておきたいだけだったんだけどね。それを続けてるうちに気が変わったの。ずっと人に見せるんじゃなくて、見せたい人を選びたいというか、それでも心に触れた人が現れたら良いから」

 まだ上手くまとまってないみたいだったが、要するに。

「自分の思いを表した写真をどっかに上げてみたいんだ……」

 それは彼女にとって大きな夢のように感じられた。

 簡単にやれる人にとってはそれは本当に簡単な事だろう。

 春休みの宿題のように、こんな量簡単と思う人もいれば、ムズい! と冷や汗もんになる人だっているだろう。

 今の彼女はどちらだろう。

「それ、上がったら見せてくれないか?」

「嫌だよ! 晴弥に見せたら、すぐバレちゃうもん!」

「誰にだよ」

「皆に……」

「皆?」

「そう、まだうちを知らない人に見てほしいの!」

 そう言う咲実が羨ましいと思った。

 本当に自由にそう思ってそうで。

「見てもらえると良いな」

「そうだね」

 と答える咲実に見惚れていたら、目的地に着いたようで、咲実はけろっと言った。

「着いたね」

「ああ! そうだな」

 少し焦る晴弥をカシャッと咲実は撮った。

 この顏もなかなか……と楽しそうに笑う咲実だった。

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