部活見学
クラスの自己紹介も済んだ頃、部活動の紹介があり、部活をする者にとっては大切な部活見学をする時期になった。
晴弥としては部活をせずに共働きの両親に代わって家事をすることが多い為、そんなものには目もくれず、今日の晩御飯は何にしようかと考え帰ろうとしていた時だった。
ひょっこり教室に顏を出したと思ったら、采月ではなく晴弥の目の前に現れたのは来夢だった。
「何だよ?」
人が全くと言って良いほど居なくなったのを絶対確認して来た。
それも采月が居るのを知っていてだ。
用があるならラインでも使えば良いのにそうしなかった。
別に全部をグループラインでする理由もない。
個人的に寄こせば良いのにそうしなかったのは何故か。
「お願いがあります! 付き合って下さい!!」
は? だ。
そこに居た皆がそう思ったに違いない。
これではまるでそう、愛の告白みたいじゃないか。
絶対そんな事はないと俺と采月には分かる。
「おい、ちょっと来い!」
カバンを手に持ち、晴弥は来夢を教室の外に連れ出した。
「何を端折ったか言ってくれ」
「え? 部活見学を一緒に付いて来てくれって言っただけ」
「はぁ~……、だよな。うん、分かった。采月にも言っとく」
「何で?」
「ああ見えてあいつはうちのクラスじゃ一軍女子目指してるからな、伝わりやすいんだよ」
「伝わりやすい?」
変な噂にならぬうちに……と晴弥は采月のラインにそういう訳だと送った。
すぐに分かったよ! という意味のグー! としている無料の動物スタンプが送られて来た。
「ふぅ~、これで何とか俺達は守られたな」
「え? どういう意味?」
「いや、気付いてないなら良い」
しかし、これは本人が気付いた時に厄介になるかもしれない。
少しは教えとくか、と晴弥は来夢に言う。
「良いか、どんな理由があるにせよ、何に付き合うかぐらいは言ってくれ」
「ごめん、慌ててたから。帰っちゃう! と思ったら言えなくて、事前にラインすれば良かったけど、晴弥にだけに送って、あとの二人に知られたら嫌だったから」
「けど、俺じゃなくてそれこそ、その二人に頼めば良い事じゃなんじゃないか? 部活見学なんて男の俺と行ってもつまんないだろ?」
「あの二人には自分の世界があるから。わたしが入っちゃダメなの」
「どうだかね……采月なんて暇そうだけどな」
「あづちゃんはほら、いろんな人と遊ぶ時間が必要だから」
「それ、本人には言うなよ?」
「どうして?」
聞こえが悪いとは言えなかった。
「まあ、不快にならないようにするには少しの気遣いも必要だけど、そんな自分を押し殺してつまんなくないか?」
「晴弥には分からないよ! でも、晴弥しか頼れない。えみちゃんはさっさと帰っちゃうし、晴弥なら部活をしないって分かるから、だから頼ったの!」
「だけどさ、お前だってそうだろうけど、部活やってる時間あるのか?」
「家事のことを言ってるの?」
「ああ、そうだ」
「うちの両親は部活でもやって高校生らしくなりなさいって言ってた。中学の時もそうだったけど、中学の時の友達は違う学校だし、一応入らなくても見学はして、気に入った所はなかったって理由を言わないといけないから」
両親に気遣いをして疲れないのだろうか。
「分かったよ」
晴弥は晩御飯のおかずを考えながらその部活見学に付き合うことにした。
「最初はどこにする?」
「運動部は嫌だから、文化部だけで。でも! 一緒には歩かない! 離れて! 絶対!!」
「分かったよ……」
だったら、あんな告白みたいな感じに言わないでくれ……と思いながら、一つずつ来夢の気になる所だけを見る。
途中、同じように部活見学をする一颯に出会った。
「お、デートか?」
「違うわ!」
言わんこっちゃないと来夢は無言で言って来る。
いや、あなたがそう言ったからですよ? とも言えないし、まさか、もう広まって!? とも思ったが。
「そうだろうなと思った。からかって悪い」
「からかうな」
何かこっちが恥ずかしい。
「で、晴弥は何でここに居るんだ? 部活でもするのか?」
「しないよ。こいつの付き添い」
「ああ……若旅さんの」
何だ? その含みがあるような言い方。
「じゃあ、俺は行くよ。若旅さんもまた明日」
「はい、どうも」
ぺこりとお辞儀をしたが、その挨拶はどうなんだ? と言いたいが、極度の人見知りをする来夢としては頑張っていると思えて、幼馴染としてはよく言った! と褒めてやりたい気分だ。
それからまたいくつか見たが、これと言って入りたいと思えるような所はないと来夢ははっきり言った。
こういう時だけ自分が出て来る。
ちゃんと気持ちがあって良い事だと思うけど、いつもそうするようにとは晴弥は言えなかった。
本人の気持ちを大切に――母が言っていた言葉を思い出す。
「じゃあ、帰るか。俺、買い物して帰らなきゃだし」
「悪かった!!」
「え? 急に何だ?」
「晴弥はいつも暇そうとか思ってて」
「そんな事はないけどな」
怒りが少し出て来たが、飲み込んだ。
「あの……」
「うん?」
「今日はありがとう!」
「お、おう……」
いつもは見せないような気持ちの良い笑顔を向けられたら、誰だって簡単に気分を害することはなくなって戸惑ってしまうだろう。
「それ、他の人にも出来れば良いのにな」
「え?」
無理を承知で言ってしまったけど、本人にはぴんと来てないらしい。
それが若旅来夢の弱点だ。