タイトル未定2024/07/04 16:53
しとしとと雨が降る土曜日。日も暮れつつあるその時間、私はいつも通り居酒屋のアルバイトとしてキッチンに立っていました。この日は雨もあってかお客様が少なく、普段できない様な手間のかかる仕込みもお手伝いしていました。ちょうど手が空いたタイミングで私は店長から店舗が入っているビルの4階にある倉庫に具材を取りに行って欲しいと言われ、鍵を持って上へと続く階段を登っていきました。このビルは相当な年季が入っており、しばしば鉄骨が朽ち果てかけている箇所も見受けられます。私達アルバイトは全くと言っていいほど4階の倉庫へ上がる事はない為、どの様な構造になっているのか見当もつきません。事前に冷凍のストッカーがある場所までの説明を受けたので、頭にイメージを叩き込んで4階に到着してすぐ鍵を挿し込んで扉を開きました。元々更衣室や事務所であったこの階の現在は倉庫となって久しく、かなり薄暗くじめじめとした少し気味の悪い雰囲気が漂っていました。扉を開けてすぐ目に入ったのは、ずっと真っ直ぐに伸びる廊下、そしてその先にある部屋の一部でした。少し不気味に感じていた私は少しでも早く店舗に戻りたかったので、早足で中を覗きつつ目的の冷凍ストッカーがあるところまで目指します。廊下の突き当たりまでは右手に2部屋、左手に大きい一部屋がありました。手前にあった左右の部屋はどちらも扉が開いている状態で中を確認する事が出来、ここには何も物が置かれていない状況でした。しかし、右手の奥にある部屋。ここは扉が固くしまっており、中が確認出来ない状態でした。しかもこの部屋だけは他の部屋と違い、何故か本能的に体が避けたくなる。出来れば近づきたくないという衝動に駆られるとても不気味で気味の悪い空気が漂っていました。私は廊下の突き当たりの左手側にある窪みに置かれた冷凍ストッカーを見つけたので、お目当ての具材を指示された数量を数えながら持ち出そうとしているのですが、どうにも扉が閉まっている部屋から何故か何かがいる気配、もっと言えば人がいる気配が尋常に感じられ、ストッカーの前から。この部屋から1秒でも早く出たい衝動に駆られてなりませんでした。今まで有名な心霊スポットや肝試しで使われる様な場所等に行ったことがあった私でもここまでの忌避感は感じた事がなく、私自身驚きと不安が入り混じり、また時が経つにつれ次第に恐怖へと変わり、とてもではありませんがその部屋へは視線を向ける事が出来ませんでした。ですが、それ以上異常な事が起きることはなく、そこに何かがいる気配がするだけ。無事に具材を取り終えた私は元来た経路から店舗に戻る事が出来ました。店舗に戻ってからもあの異常な体験が忘れられずソワソワしていた私は、店舗創立当初から居るベテランの女性従業員の方に「あの部屋に行ってきたみたいだけど。大丈夫だった?」と聞かれました。何故あの部屋へ行く事に心配をされたのか分からない私はとても不思議だったのですが、この女性従業員の方曰く「あの部屋」は当初からこの世の者ではないモノが出ると有名であったそうです。更衣室であった時代、中にいた人間が電話をすると1人しかいない筈の部屋で相手の人間には周りでとても大きい音が聞こえていた事があったり。他にも様々な事象や噂が多くあった事から今現在では倉庫として使われる様になったとの事でした。私があの時感じた気配。異常なまでに感じられる忌避感は何だったのでしょうか。このビルは店舗が入る前から既にあり、あのモノの正体はこのビルに居る人間には誰にも分かりません。