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鬼使神差  作者: あまちゃ
-光- 第七章 焦る仲間
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第九十三話 ちあき

「......う...」



いつも出入りしている中央入口の付近には沢山の神々がいた。

最近寒くなってきて、風邪を引いた神々が多く、国峰の所へ行くつもりなのだろう。


天光琳は中央入口から入るのをやめ、少し離れたところにある地下入口へと向かった。


地下入口は護衛神が出入りするために作られた。天家の神々は使っても良いのだが、そのほかの神は使っては行けないということになっている。

そしてあまり使われないため、裏入口より地下入口の方が良いだろう。



(どこだっけなぁ......)



地下入口は隠し扉のようになっている。

天光琳は久しぶりに来たため、少し迷子になったが、無事見つけられた。



扉を少し開け、中の様子を確認した。


薄暗い通路に神影(ひとかげ)はない。

天光琳はゆっくりと入っていった。



石造りの地下通路は暗く、遠くまで見えない。

天光琳の足音だけが響いている。



(やっぱり......気のせいだよね......。僕...疲れてるんだ、きっと......)



皆を殺したいなんて思っていないが、恐らく失敗した悔しさのせいで、気持ちが落ち着かず、言ってしまっただけだろう......そう思った。



(......ん?)



遠くから話し声が聞こえてきた。

護衛神だろうか。

天光琳は早歩きで地上に繋がる階段へ向かった。


しかし通路は沢山あって、声が聞こえてくるところから離れたつもりだったのだが、話し声はどんどん大きくなってくる。



「なぁ、足音聞こえないか?誰かいるのかー?」


「......」



天光琳は黙ってそのまま早歩きで進んでいく。

しかし......



「おーい、無視するなー」


「あ、あれ?......光琳か...?」



どうやら護衛神は神の力を使って光を出し、明るくした。そのせいで遠くにいる天光琳の姿も見えてしまったのだ。


天光琳は止まり、振り返った。



すると、護衛神は三神いた。......そのうち一神は何故だろう......とても険しい顔をしていた。



「お前......!!」


「ちょ......落ち着けって!」



険しい顔をしていた護衛神は早歩きで天光琳の方まで向かってきた。



天光琳は少しづつ下がっていく。

しかし護衛神の方が早く、腕を強く引っ張られた。



「な、なんですか......!?」


「......」



護衛神は天光琳の腕を強く握っていて、折れてしまうのではないか......と思ってしまうほど痛かった。

そして何故か怒っている。



(なんでこんなに怒ってるんだろう......この男神......それに...この男神...誰かに似ている気がする......)



そう考えていると、地下のある個室へ連れてこられた。



「......っ!」



天光琳はその護衛神に突き飛ばされ、転んでしまった。



「......?...??」



天光琳はゆっくり立ち上がりながらなにが怒っているのか分からなかった。



「何故だ......何故だっ!!......何故俺の友人の息子は死に、もう一神は全身麻痺したというのに無能のお前は無事に帰ってきたっ!?」



両肩を捕まれ、顔の近くで大声で言われたため、耳が痛かった。


......友人の息子......息子とは京極伽耶斗と京極庵のことだろう。



(まさか!)



天光琳はこの状況をやっと理解することが出来た。


この男神は京極庵が言っていた、"ちあき"の父親だろう。まだ護衛神をやっていたそうだ。


......と、突然右側の頭を強く殴られ、天光琳はまた倒れてしまった。

右耳と頭がジンジンと痛む。



「おい、殴るなんて聞いてないぞっ!?宇軒様にバレたらどうするんだ!?」


「そんなのどうだっていいっ!コイツのせいで俺の友人の息子は酷い目にあい、俺の息子は昔、コイツと遊んでたせいで今でもたまにバカにされてるんだ!!全部こいつが悪いんだ!!」



息子とは"ちあき"の事だが、"ちあき"とは一体誰だろうか。



「あー、俺も見たなぁ......確か千秋(チェンチウ)くんだっけ?この前もまだ天光琳と遊んでるのかって笑われてたな」


「気の毒に......」



("ちあき"さんって......千秋(チェンチウ)くんのことか......!!)


天光琳は驚いた。

そうか。神界では言語は同じだが、名前はその国の下にあると言われている人間界の国の名前と合わせている......と言われている。

わかりやすいのが美ルーナがいた、蒼海アジュール国だ。

"ルーナ"天光琳たちには聞きなれない名前だ。


桜雲天国と燦爛鳳条国も少し名前が違う。

そのため、"ちあき"と聞いて、聞き慣れていない名前だったため、天光琳はてっきり"チアキ"だと思っていた。

今思えば、京極伽耶斗、京極庵、鳳条眞秀などの名前からして、漢字を使う名前だ。

それがあの時分かっていれば、どういう字なのか聞けたのに......。


千秋は恐らく、"ちあき"として名付けられたのだが、桜雲天国に来た時、周りの神々と名前を合わせようと"チェンチウ"という読み方に変えたのだろう。(※中国語では千秋はチェンチウと読みます)


通りで千秋は天桜山で会った時、狩りなどで使う毒針を持っていたわけだ。

京極庵は狩りをよくしていると言っていた。


そういえば、先程千秋と会った時、何か言おうとしていた。もしかしたら、この男神のように京極兄弟のことを言うつもりだったのかもしれない。それなのに天光琳は聞かず、手を振り払って逃げてしまった。



(僕が悪いのに......)



天光琳は後悔した。


千秋の父の護衛神の怒りはおさまらず、天光琳を強く蹴った。

そして再び強く蹴られ、左脚に鋭い痛みが走った。

同時にボキッと音が体内に響いた。



(怪我......治ったばかりなのに......)



とても痛くて立ち上がろうとしても立ち上がれなかった。



「ごめんなさい......」


「謝っても変わるのか!?お前さえいなければ死ぬことはなかったのに......今ここで死ね!」



天光琳はここで殺されると思い、急いで逃げだした。しかし左脚が痛み、転んでしまった。



「逃げるんじゃね!!」


「ちょっと、落ち着け落ち着けっ!!」



千秋の父親は一緒にいる護衛神に腕を掴まれた。



「殺したらダメだ。君が封印されるんだぞ!?」


「......っ」



千秋の父親は歯を食いしばり、天光琳を睨んだ。



「コイツのせいで封印されたくないだろ?別の方法があるはずだ」



止めた男神は別に天光琳を庇っている訳では無いようだ。


すると、もう一神の護衛神は焦りだした。



「やばいぞ、夕食の時間だ!こいつが居ないと騒ぎになるぞ!!」



天光琳はもうそんな時間なのか......と驚いた。

そういえば塔から出た時はもう日は沈みかけていた。



「立て!」



天光琳は護衛神に腕を引っ張られ、痛みを我慢しながら歩き出した。

歩く度、ズキ、ズキっと全身に痛みが走る。



「今のこと、話すんじゃねぇぞ。話したら次はどうなるか、分かってるよな?」



天光琳は小さく頷いた。

...ということは、皆の前では平気な顔をしなくてはならない。

脚の痛みを我慢しなければいけないのだ。

......正直厳しい......。



痛みを必死に我慢して、ようやく食事部屋に到着した。

千秋の父親は天光琳を一度睨み、扉をノックした。


ノックすると、食事部屋の中にいる護衛神が扉を開けた。



「光琳!」



天麗華や天俊熙、天万姫の声が聞こえた。


天光琳はパッと作り笑顔を作った。



「......遅れてすいません...」


「何故遅れた?」



苦笑いしていた天光琳だが、天宇軒に聞かれ、どう答えれば良いのか困ってしまった。


すると、護衛神の一神が天光琳の前に立った。



「光琳サマが『もう皆と顔を合わせたくない』って言って、地下の部屋で座っていたので......」


「お前には聞いていない。黙れ」


「!?」



天宇軒の低くて冷たい言葉が響き、シーンと静かになった。

天宇軒は冷たいが、このように突然きつい言葉をかけたことは一度もなかった。......いや...天光琳にはあったが、護衛神や他の神々には一度もない。、

そのため皆驚いている。



(......父上...相当怒ってるな......)



舞も失敗した事だし、まだ舞をする時の服のままで着替えていない。その上夕食の時間に遅れた。怒るのは当然だろう。



「...す、すいません......宇軒様......」



護衛神が一歩下がると、天宇軒は天光琳を細い目で見つめた。



「すいません......舞...今日も失敗しちゃいまして......こ...怖くて......皆と顔を合わせにくい...な......って思いまして......」



天光琳は天宇軒に嘘をついた。

震えが止まらない。

脚の痛みもあり、そろそろ限界だ。



「もう良いでしょう?......光琳、座りなさい。大丈夫よ。ここにいる皆は貴方をバカにしたりはしないわ」



天万姫がそう言うと、天李偉は目を逸らし、天李静は下を向いたままだったが、そのほかの皆は頷いた。



「...ありがとうございます......」



皆に見られているなか、脚の痛みを我慢し、歩いて自分の席に座った。

ものすごく痛い。しかし護衛神が見ている。

天光琳はいつものように平気そうな顔をした。


天光琳が座ったことを確認すると、千秋の父親たち護衛神は一礼し、食事部屋から出た。



今日の夕食はパスタやピザだった。

しかし痛みでそれどころではなく、食欲がわかない。天光琳はいつもより多く噛み、普通に食べている振りをした。






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