表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼使神差  作者: あまちゃ
-光- 第七章 焦る仲間
93/185

第九十二話 焦り

数日後。


天光琳にとって地獄の日がやってきた。

それは......今日は人間の願いを叶えなければいけない。


朝から気が重かった。

天光琳は廊下をゆっくりと歩いている。



「大丈夫か...?俺も行こうか......?」


「うんん、へーき、大丈夫だよ......」



先程昼食を一緒に食べていた、天俊熙が心配してくれたが、天光琳は断った。

天俊熙は昨日、天光琳と修行と稽古をしに行っていたため、仕事がたまっているのだ。

今日もサボってしまったら大変なことになる。

王一族は本当に大変だ。......天光琳もそうなのだが。



(早く......神の力を使えるようにならなきゃ......)



天光琳は自分の手の平を見つめた。自分の手は天麗華のように綺麗ではなく、タコや傷痕などでボロボロだ。

京極庵に言われたことを思い出した。

努力の結果は出ていないけれど、頑張りは自分の手に現れているのだ。......しかし。



(普通......じゃないよね......。沢山頑張ってるのに......みんなより頑張ってるつもりなのに......)



胸が苦しくなる。何故自分だけみんなと違うのか。



(......僕は何者なんだろう......)



「おーい」


「!」



天俊熙に頬をつんつんとされ、天光琳はようやく我に返った。



「本当に大丈夫か?......お前の姉ちゃんもすごく心配してたぞ」


「...心配......?怪我のこと...?」


「違う」



天俊熙は首を横に振った。



「最近ぼーっとしてること増えてるし、元気ないし、笑ってるところもあんまり見なくなったし。......伽耶斗さんのこと、まだ自分を責めてるのか......?」



天光琳は驚いた。心配されているとは思っていなかった。いつも通り過ごしていたつもりなのに。



「......大丈夫だよ......」


「ほらまた『大丈夫』って......」



京極伽耶斗のことで、自分を責めている...ということは嘘では無いため、否定は出来なかった。

天光琳はいつも通りの笑顔のつもりでニコッと微笑みながら行ったのだが、ダメだったようだ。天俊熙は更に険しい顔になった。



「あのさ......頼むから......話してくれないか?小さなことでもいい。嫌なこと、困ってることとかあったら、我慢するんじゃなくて相談して欲しいんだ。......もしかして...そんなに俺に言うのが嫌なのか...?」


「いや......そういう訳じゃ......」



何故だろう。天俊熙はとても焦っているように見えた。



「...なぁ......話してくれよ......」


「わ...分かったよ。でも...今は本当に大丈夫なんだ......本当に。......だからまた今度、何かあったら相談してもいいかな......?」



しかし天俊熙は納得していないようだ。


しかし天光琳はそのまま後ろを向き、歩いていった。

天俊熙はどんどん小さくなっていく天光琳の姿を眺めていた。

そして小さい声で呟いた。



「大丈夫じゃないくせに........なんで隠すんだよ......」



天俊熙は地面に座り込んだ。



「......俺......どうすればいいんだ......」



天俊熙は考えすぎて頭が痛かった。

何故こんなに焦っているのだろうか。

天俊熙が頭を抱えていると、後ろから何者かの足音が聞こえてきた。



「......俊熙?」


「......麗華様......」



天麗華は心配している様子だ。



「どうしたの......?話なら聞くわよ?」


「......ちょうど良かった......。麗華様に話したいことがあるんです」



天俊熙は立ち上がり真剣な顔をした。



「......信じられないかもしれないんですけど......」


「いいわよ。とりあえず、場所を変えましょう。私も言いたいことがあるの」




✿❀✿❀✿





天光琳は白い布で顔を隠しながらゆっくりと歩いて塔へ向かった。

どんどん地獄の時間が近づいてくる。



(......今日こそ......)



毎回同じようなことを考えて歩いているとあっという間に塔に着いてしまう。

天光琳は塔の中に入り、個室へ移動した。



天光琳は鏡の前に立ち、自分の姿を眺めた。

鏡には無能神様が映っている。



「......」


眺めていると、無能神様は歪んでいき、じわっと消えていった。

そして神社で願っている人間の姿に変わった。



『私の頑張り......認められますように』



選んだ舞は雲外蒼天之舞(うんがいそうてんのまい)

努力をし続けて行けば、きっと良い未来が待っている...という思いを込めて。


しかし神の力は出てこない。


失敗だ。......次。



天光琳は気分を切りかえた。



無病息災之舞......雨過天晴之舞.........



「......っ」



しかし成功することは無かった。

分かっていた......こうなることを。



(今日も......また笑われるんだろうな。外出禁止になるんだろうな)



天光琳はこれから起こることを予想した。



『また失敗したんだってよー』


『姉とは全然違うな』


『可哀想』



「......」



笑われる所が浮かんできた。

天光琳は首を横に振った。

しかし、まだ浮かんでくる。



『無能無能ー!』


『だっせぇ』


『この国の恥だ!!』


『約た立たずめ!!』



「......っ!!」



ガシャンと大きな音が部屋の中に響いた。

天光琳は......扇を投げ飛ばしたのだ。

神として、人間の願いを叶えるための道具を乱暴に扱ってはいけない。ましてや投げ飛ばすなどやってはいけないのだ。



「はぁ......はぁ......」



扇は強く地面に叩きつけられ、折れてしまった。

しかし天光琳の怒りはおさまらなかった。



「......して......やる.........」



天光琳は小さな声でボソッと何か呟いた。

息を荒くし、目を大きく見開き、折れた扇を見つめている。その目には光がなかった。



「......殺す.........みんな......殺してやる......」



天光琳の怒りはおさまらず、言ってはいけない言葉を呟いた。

そして、折れた扇を蹴飛ばし、大声で言った。



「みんな消えてしまえ......死ねっ!」



(......っ!?)



天光琳は大声で言ったあと、ようやく我に返った。



「......あれ......僕、今............なんて言った......?」



天光琳は自分でもよく分からず、混乱している。



(扇が......)



そして折れた扇を両手で拾った。

こんな大切なものを壊して......天宇軒に怒られてしまうだろう。

とりあえず、扇をしまい、先程のことについて考えた。



「殺したいなんで......そんなこと...思ってない......のに......」



まるで自分ではない何者かが言ったように感じた。......何者かに取り憑かれてしまったかのようだ。



(鬼神......?いや違う......鬼神は倒したはずだ......。倒した......倒したんだよね......)



天光琳は怖くなって振り返った。


...が、何もいない。

しかし恐怖はおさまらなかった。


しかし突然耳鳴りがした。



「!?」



天光琳は走って部屋から出た。

何者かに追いかけられているような感じがしたのだ。



(早く!!)



結界の上にたち、早く下へ降りなければと焦った。


結界の上に立って、五秒で光に包まれ、下へと移動したのだが、とても長く感じた。



塔の一階へ到着すると、そのまま走って塔から出た。

そして走りながら急いで白い布を被った。



(...気のせい......気のせいだ......)



そう自分を言い聞かせ、城まで走って向かっていく。



「ねー、また失敗したって」


「天光琳やばいよね、この前天宇軒様に会った時、すごく疲れてそうだったよ、天光琳のせいじゃない?」


「そうなんだ、見てなかったなー」



悪くが聞こえてくるが今はそれどころでは無い。

しかし気にしてしまう。耳に入らないようにしているのだが、どうしても聞いてしまうのだ。


聞こえない聞こえない...と思いながら走っていると......



「っ!!」


「わっ!?」



天光琳は何者かにぶつかってしまった。



「......す...すいません......」


「いたた........ぐ....光琳...!?」



少し低い男神声が天光琳の名前を呼んだ。

なんと白い布が外れてしまい、バレてしまった。

この男は......千秋(チェンチウ)だ。



「...千秋...くん......」



天光琳の心臓はドクンドクンと大きくなった。

天俊熙が言っていたことを思い出したのだ。

今も毒針を持っているのではないか...と天光琳は三歩下がった。



「......光琳......」



千秋は何か言いたいことがあるようで、近づいてきた。

そして天光琳の腕を掴んだ。

しかし天光琳は殺されると思い、手を振り払って逃げ出した。



「ちょっと!待ってよ!!」


「ごめんなさいっ!」



そう言って天光琳は振り返らず走っていった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ