第六十九話 王
天光琳は物音がして目が覚めた。
ベットから体を起こすと、カーテン越しから、天麗華らしき影が見える。
『一度天国へ戻ってほしい』
(ん??)
天浩然の声が聞こえた。
天光琳は聞き間違えではないかと疑った。
「分かりました。今すぐお祖父様に事情を伝えてきますね」
『美王様には既に万姫様が伝えている。それに、緊急事態ではないから、急いで戻ってこなくても大丈夫だ』
「姉上...?」
天光琳はベッドから降り、カーテンをペラっとめくって、天麗華の方を見た。
天麗華は既に着替えていて、ソファに座っていた。
そして手から神の力で光を出している。
その光には、天浩然の姿が映し出されていた。
『光琳、おはよう』
「おはよう」
「あ、おはようございます」
天光琳は天麗華の近くまで行き、ぺこりと小さくお辞儀をしながら言った。
「どうしたのですか......?」
天光琳は恐る恐る聞いてみた。
「父上が昨日の夜突然倒れてしまったみたいなの。まだ目を覚ましていなくて......だから今日、天国へ帰ることになったの」
「えっ?!」
「宇軒様が!?」
天光琳が驚いた瞬間、後ろから天俊熙の声が聞こえた。
『そうなんだ。俊熙、おはよう』
「おはようございます...」
天俊熙は長い髪の毛を一つに縛りながら言った。
王が倒れたとは大問題だ。
「原因はなんですか?」
『それがまだ分かっていないんだ......』
昨日の夕食の後、急に倒れたそうだ。
高熱が出ている訳でもない。食事に毒を盛られたのだろうか。
「今、国峰先生が診てくれている。目覚めるとよいのだが......」
もし、このまま目を覚まさなかったら、天光琳が王になる。
天光琳は心の中で、目覚めて欲しいと強く祈った。
天俊熙と天光琳も着替えた。
現在午前五時三十分。まだ美梓豪たちは寝ているだろう。
そのため、三神は部屋で帰る支度をすることになった。
まだまだ玲瓏美国にいたかったのだが仕方がない。玲瓏美国には何時でも来れる。
「父上大丈夫かな......」
「心配だな」
「まだ目覚めていない......無事だと良いのだけれど」
三神は心配でたまらなかった。
「そういえば、最近、父上...いつも疲れてそうな顔をしていました」
「そう......だっけ?」
二神は気づいてないようで、天光琳は気のせいかな...と思った。
目元にはクマがあり、寝不足だったのだろうか。
また、ため息の回数も増え、食事もいつもより量が少なかったような気がした。
天光琳はもしかしたら疲労で倒れてしまったのだろうか......と考えたが、二神が気づいていないと言うなら違うかもしれない...と考え直した。
七時半になり、三神は部屋を出た。
朝食の時間なので、昨日夕食を食べた食事部屋へ向かう。
そして食事部屋の扉を開けると、既に皆揃っていて、美梓豪が立ち上がった。
「おはよう。万姫から聞いたが、宇軒が倒れてしまったそうだな......とても心配だ」
「目覚めると良いけれど...」
美ルーナは心配そうにそういった。
美梓豪だけではなく、美家全員に伝わっているようだ。皆心配した様子だ。
天麗華は皆知っていると思うが、天浩然から聞いたことを丁寧に話した。
そして、今日桜雲天国に帰ることも伝えてくれた。
「お姉様たち帰っちゃうの?」
「えぇ。麗華様たちのお父さんが倒れてしまったのよ......これは大変なことなの」
美夢華はムッと口を尖らせた。
まだまだ遊びたかったのだろう。
幼い美夢華にとって王が倒れると言うことの重大さが、分からないのだろう。
特に桜雲天国の場合、次王になるのは天光琳なのだ。
現在、神の力を使えない神が王になる...というのは神界史上初だ。
そもそも、神の力が使えない神が王になったら国が終わるのではないか...と言われている。
これは桜雲天国の危機だ。
「そうなんだね。またいつでも遊びに来てね」
「次来た時は、天国の舞教えて欲しいです」
「次はいじらないでくださいね!」
美朝阳に続き、美雪蘭と美雪蘭も言った。
三神は朝食を食べたあと、残りの準備をした。
そして、荷物を持ち、美国の皆に挨拶をし、桜雲天国へ戻るガラス張りの部屋へ言った。
大人数入れる訳では無いため、美梓豪だけがお見送りしてくれている。
「宇軒が目覚めたら教えて欲しい。無事を祈るよ」
「「「はい」」」
天光琳も今心配でたまらなかった。
天麗華が来た時のように、神の力を使い、今度は桜雲天国の紋を描いた。
描き終わると、今度は金色にひかり、綺麗な光が三神を包み込んだ。
三神は美梓豪の姿が見えなくなるまで手を振り、辺りは眩しくなった。
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目を開けると、玲瓏美国へ行ったときの部屋にいた。
三神揃っていることを確認したあと、三神は走って塔をでた。
天浩然は天宇軒は自分の部屋で眠っていると言っていた。
そのため、天宇軒の部屋に向かえば良いだろう。
「あっ、お待ちください!」
廊下の角を曲がったら、何者かに呼ばれたため、天麗華たちは振り返った。
そこに立っていたのは天宇軒の側近の波浪だった。
「おかえりなさいませ。安心してください。先程、宇軒様はお目覚めになりました」
「本当ですか!?」
三神は安心した。
天光琳の心はスっと軽くなった。
先程、天宇軒が目覚め、波浪は天麗華に神の力を使って連絡する予定だった。
しかし、天麗華には繋がらず移動中なのではないかと思い、塔へ向かっている途中だったのだ。
「宇軒様は今、宇軒様の部屋にいらっしゃいます。来てください」
三神は波浪と一緒に天宇軒の部屋へ向かった。




