第六話 分からない気持ち
「......!」
天光琳は準備を終え部屋を出たら、廊下に天宇軒が腕を組んで立っていた。
「光琳」
「は、はいっ!」
何も見ていなかったかのように黙って天宇軒の前を通り過ぎようとしたがダメだった。
「昨日は何故夕食の時間に来なかったんだ?」
「えっと......」
天宇軒の低い声がさらに天光琳を怖がらせる。
恐らく天宇軒は、昨日天光琳がなぜ夕食の時間に来なかったか、理由は何となく分かっているだろう。
あえて聞いたのだ。天光琳からちゃんと理由を聞くために。
「また修行と稽古に行って、疲れてそのまま寝たのか?」
「はい...」
「はぁ......」
天宇軒はため息をついた。そのため息を聞いた天光琳は心がズキっと傷んだ。
(どうせだらしないって思ってるんだろう。)
天光琳は手を強く握りしめた。怒り、悲しみ、悔しさ...様々な感情を抑えるために。
「光琳......もう修行や稽古を詰め込みすぎるな。」
「え...?」
天光琳は予想外の言葉に驚き目を大きく見開いた。意味がわからない。
天光琳が人間の願いを叶えられないことで冷たい態度をとる天宇軒が、修行と稽古をするな......と...?
ではどうすればいいのか。天光琳はさっぱり分からなかった。
「お前はいくらやっても変わらない。変わらないのだからいくら頑張っても無理だろう」
(そうか、諦めてるんだな)
天光琳は理解した。いくらやっても変わらないなら時間の無駄だ、草沐阳に迷惑がかかっているだけだ...という事だろう。
天光琳は歯を食いしばった。悔しかった。
(なんで僕はこうなんだろう)
神界で神の力を使えない神は天光琳しかいないのと、王一族なのに神の力が使えないということでとてもプレッシャーを感じている。
「次からはもう少し時間を減らしてみたりするのはどうだ?...草老師にも......」
「父上は僕の気持ちを分かってないっ!!」
「!?」
天宇軒が話してる最中に、我慢できなくなった天光琳は被せて喋った。
今までこんな反抗的な態度をとったことは一度もなかった。気が弱いせいか、今まで言い返せなかったのだ。
しかし今回はもう我慢できなかった。気持ちを分かってもらえず、自分が良いと思ったことを言うのだから。
そうだ。分かるはずがない。皆は天光琳のように沢山努力しなくても神の力が使えるのだから。
今回は天宇軒に向かって言ったが、どうせ自分の気持ちをちゃんと分かってくれる神は居ないのだと、天光琳は思った。
そう思うとだんだん悲しくなっていき、目から涙が溢れた。
「父上は......父上は僕がどんな気持ちで毎日修行と稽古をしてるのか分からないでしょう......神の力を使える父上は神であるのに神の力を使えないこの国の恥の僕の気持ちなんて絶対に分かるはずがないっ!」
頬から一つ雫が落ちた。天光琳は大きな大きな声で天宇軒に向かって言い、言い終わると走ってその場から逃げ出した。
「光琳っ!!!」
天宇軒は大声で呼んだが、天光琳は聞こえなかった振りをしてそのまま走り去ってしまった。
「......」
残された天宇軒はしばらく自分の手のひらを見つめた。
天光琳を追いかけようとはしなかった。
何か言いたいことがあったのだろうか。眉間に皺を寄せ、一つため息をついたあと、仕事に戻ることにした。