第三十話 眠り
ベット→ベッド
に変更しました。
まだ『ベット』になっている部分がありましたら、報告して下さると嬉しいです。
「......?」
「俊熙...?」
「......!!」
天俊熙は目が覚め、ベッドから起き上がった。近くに天麗華が立っていた。
宿に着いたあと、疲れきって眠ってしまったのだろう。外は薄暗くなっている。
「光琳は!?」
「まだ目を覚ましていないの......」
天麗華は横を見て、悲しそうに言った。
横にはもう一台ベッドがあり、ベッドの上には上半身を包帯
で巻かれた天光琳が横になっていた。
「無事...ですよ...ね...?」
天俊熙は恐る恐る聞いた。
「えぇ、今は眠っているだけみたい......良かったわ......」
天麗華は天光琳の頭を撫でながら言った。
「俺たちを庇うなんて......あ、麗華様は怪我は...大丈夫なんですか...?」
「大丈夫よ。貴方が結界で守ってくれたもの」
天俊熙が心配そうに聞くと、天麗華は少し微笑みながら言った。
天麗華には防御結界の能力がない。
そのため、天俊熙は倒れてしまった天光琳と天麗華を守り、天麗華は結界の中から悪神に攻撃をしていた。
しかし、天麗華の攻撃は避けられ、結界は簡単に壊されてしまった。
「あの悪神...何者なんだ......。麗華様の攻撃を避けるなんて......」
「恐らく神界の者ではないわ......」
天麗華は奇跡の神で、桜雲天国...いや、神界の中で一番強い神だ。
しかしあの悪神は天麗華の攻撃を軽々と避けたのだ。神界の神だとは思えない。
二神はしばらく黙って考えていると、扉をノックする音が聞こえた。
「入っても大丈夫か?」
「大丈夫ですよ」
この声は天浩然だ。
天麗華は早歩きで扉の前へ行き、扉を開けた。
「父上...!」
「俊熙、目が覚めたのか。良かった...」
天浩然は天俊熙の姿を見てほっとした。しかし、隣で横になっている天光琳を見て、また表情が暗くなった。
「光琳は...まだ目覚めないのか......。今頃天万姫はすごく心配しているだろう...」
「宇軒様は...?」
「国の仕事で忙しいから二日ここで君たちの様子を見たあと、城に戻ったぞ。帰っても三神のことはすごく心配していた」
天宇軒は桜雲天国の王だ。城から長く離れることは出来な
い。
天俊熙はある事に気づいた。
「あれ...二日...?...ってことは俺、何日眠っていたんですか!?」
「三日間よ」
「三日...?!」
天麗華は優しく答えた。天俊熙は一日しか経っていないと思っていたため、目を大きくして驚いた。
「恐らく神の力を使いすぎたのよ。結界を張るのに結構使うでしょう...?」
防御結界を張る能力は、神の力を大量に消費してしまう。
神の力は一日に使える量が決まっていて、一日経てばまた元通りになるのだが、使いすぎてしまうのは危険だ。
それなのに天俊熙は何度も結界を張った。
そのため、神の力を使いすぎてしまったのだろう。
神の力を使いすぎると、エネルギーも消費される。また使いすぎると、倒れてしまったり、動けなくなってしまう。
天俊熙はただ疲れて眠ってしまったのではなく、神の力を使いすぎて倒れてしまったのだろう。そのため、目覚めるのに時間がかかった。
「俊熙、傷はどうだ?まだ痛むか?」
天浩然がそう言うと、天俊熙は体を動かしてみた。
「少し痛みますが、大丈夫です」
人間なら、まだ動くことが出来ない程の大怪我をしてしまったが、神は治りが早い。また、医術に長けている神が回復の
能力を使ったため、今は痛みは少ない。
天麗華も少しは痛むが、普通に動けるほど回復したのだろう。
「そういえば父上、なぜ俺たちを助けに来ることが出来たのですか?」
天俊熙は気になって聞いてみた。
「護衛神の一神が城に戻ってきて、状況を伝えてくれたのだ。それで、このままでは危ないと思い、俺と天宇軒はすぐに玉桜山へ向かった。もし護衛神の一神が状況を伝えに来なかったら......」
「俺たちは死んでましたね...」
「あぁ...」
天浩然は小さく頷きながら言った。
外はもう暗くなった。天光琳はまだ眠っている。
「今日もゆっくり宿で休みなさい。俺は一旦城に戻って、兄上にこの状況を報告してくる。また明日の朝来るからな」
「あ、分かりました」
天俊熙は頷いた。兄上とは天宇軒のことだ。
天浩然は天麗華にも言った。
「麗華、今日も二神を任せたぞ。......まだ怪我が治ってないのに悪いな...」
「いいえ、大丈夫ですよ」
天麗華は微笑みながら言った。
「ありがとう。...それでは」
天浩然はそう言って、部屋を出た。
「明日...目が覚めると良いけれど...」
天麗華は眠っている天光琳の横に座り、再び天光琳の頭を撫でながら言った。
「俺が...もう少し強ければ...」
天俊熙は力不足だったと自分を責めた。
天麗華も同じことを思っているだろう。
「痛かったよね......ごめんね......」
天麗華は涙を流しながら言った。
天俊熙もつられて涙が流れてきたが、両手で顔を隠した。
そしてしばらく沈黙の時間が流れていった。
「あの...麗華様、疲れていませんか?何日もちゃんと寝ていないですよね......」
「え...?なんでわかったの?」
天俊熙は宿屋の女将さんから貰ったお茶をテーブルに起きながら、天麗華に言った。天麗華は驚いた。
「いや...なんとなくです。俺が寝ている間、ずっと俺たちの面倒をみてくださったのかな...って思いまして......そうですよね...?」
「ふふ、そうね......少しは寝たけれど、ちゃんとは寝てないの。でも、嫌ではなかったわ。......ちょっと疲れちゃったけど」
天麗華は微笑みながら言った。しかし、その笑顔は疲れと天光琳が目覚めない不安が混ざっていて、いつもの明るい笑顔ではない。
「休んできても大丈夫ですよ。今夜は俺が代わりに天光琳のそばに居ますから」
「でも...貴方は今日目が覚めたばかりでしょう...?」
「麗華様だって全然休んでないじゃないですか。俺は沢山寝たんで、大丈夫です。......むしろ寝すぎて眠れないかもしれないですし......」
天光琳は苦笑いしながら言った。
「なら...頼んでも良いかしら...?」
「大丈夫ですよ!」
天麗華は天光琳の頭を撫でるのをやめて、立ち上がった。
「ありがとう。でも、貴方も完全に怪我が治ったわけではないのだから、少しは寝なさい。私は隣の部屋にいるから、何かあったらすぐに呼んでね」
そう言って天麗華は部屋の扉を開けた。
「分かりました。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
そして天麗華は天光琳をちらっと見てから、部屋を出た。
「......」
部屋は静かになった。
天俊熙は先程テーブルに置いたお茶を両手に持ち、ゆっくり
と飲んだ。
(久しぶりにお茶を飲んだ気がする)
お茶は冷たく、全然飲んでいなかったため、とても美味しく感じた。
天俊熙は時計を見た。午後十一時を過ぎていた。
天俊熙は部屋の明かりを消し、ベッドに横になった。
...しかし全然眠くならない。
天俊熙は起き上がり、座った。天光琳に変化は無い。
夜は冷えるので天俊熙は天光琳に掛布団をもう一枚かけた。
そしてもう一度横になった。
しばらく眠れなかったが、一時間後、天俊熙はやっと眠りにつくことが出来た。




