第二十八話 悪神
三神は警戒しながらゆっくり進んでいる。
天麗華、天俊熙は扇を手に持ち、天光琳は剣をずっと握っている。
悪神が襲ってくるなら、前からか...後ろからか...真上からか...いや、下からも有り得る。
天光琳は下から手が出てきて足を掴まれることを想像してしまい、余計に怖くなった。
「なぁ...みんなはぐれないように、もう少し近づかないか?」
天俊熙は三神が少し離れた位置にいることに気づいた。確かにはぐれると危険だ。
一神であの悪神を倒すなんて難しいだろう。
「そうだね...」
「皆近くにいた方が安全よね」
天光琳と天麗華はそう言って、天俊熙の近くまで歩いていった。
「でてこないね...」
天光琳は辺りを見渡しながら言った。
「俺、緊張しすぎて死にそうだ...」
「僕も...」
天俊熙は胸をトントンと二回叩きながら言った。
「姉上は...大丈夫なのですか?」
「いいえ...私も緊張しているわ...すごく...」
天麗華も平気では無さそうだ。
すると風が吹いた。
木々が風によって揺れ、桜の花びらが舞う。
本来ならば桜が舞う姿は美しいのだが......今は不気味にしか見えない。
すると......。
『......様......て.........様』
「...?」
天光琳は何が聞こえたような気がして、歩くのを辞めた。
『......てん......様.........天光琳様......』
「!?」
聞こえる声が自分の名前を呼んでいることに気づき、天光琳は剣を抜いた。
手が震えている。怖くてたまらない。これから何が起こるのか......。
「...光琳?どうしたの?」
「何かあったのか!?」
天麗華と天俊熙は心配そうな顔をしながら天光琳に言った。
「え......?こ...声が......!!」
「声?聞こえなかったわ...」
「俺も...なんて言ってるんだ?」
「...二神には...聞こえてないの...!?...天光琳様って...何度も...」
天光琳にしか聞こえないのだろうか。天光琳は一気に怖くなり、鳥肌が立った。
「光琳を狙っているのね...!?」
天麗華の目付きが変わった。天俊熙も天光琳のすぐ近くまで来て、いつでも防御結界を張れるようにしている。
『...天光琳様......天光琳様......』
「......っ」
声はだんだん大きくなっていく。低い声が何度も天光琳の頭の中に響く。
『...天光琳様......天光琳様......!!!』
「......うぅ......」
天光琳はしゃがみ耳を塞いだ。しかし耳を塞いでも変わらず声は聞こえてくる。
能力で直接天光琳に聞こえるようにしているのだろうか。
「光琳!?大丈夫か!?」
天俊熙はしゃがみ込んだ天光琳の肩を揺すりながら言った。
「光琳......」
天麗華は天光琳のことが心配だが、悪神が襲ってくるかもしれないと思い、天光琳のことは天俊熙に任せて、辺りを見渡し警戒している。
『あははは、天光琳様!!やっと...やっと.........君に会える時が来た!!!!』
「......!?」
すると突然、目の前が暗くなった。
心臓がドクンドクンと鳴っている。
天光琳は震える手で、再び剣を握った。
(何も...見えない...)
音すら聞こえない。
「!?」
天光琳は先程まで天俊熙が自分の肩に手を置いていたことを思い出した。
しかし、手を置かれている感覚がない。肩に手をやると、天俊熙の手は置かれていなかった。
「......、...、......!?」
(声が出ない!?)
天光琳は天俊熙と天麗華の名前を呼ぼうとしたのだが...何故か声が出なかった。
怖いのだが、怖すぎて声が出ない...という訳では無い。まるで『声』を失ったかのような感覚だ。
『天光琳様、そう怖がらなくても良いぞ』
(......く...来るな!!)
声は聞こえるが暗すぎて姿は見えない。
『ははは、来るな...とは。傷つくなぁ』
(!?)
天光琳は声が出せないはずなのだ。
...なんと、心を読まれているのだ。
『大丈夫さ、安心しろ。天光琳様には手を出さない......まぁ、君の大切な仲間の二神には死んでもらうがな』
(...!?やめろ!!)
天光琳は暗闇の中で剣を抜き、剣を振り回してみた。
しかし何も当たらない。
『ここは君の夢の中なのだ。いくら剣を振り回したって意味がないぞ』
(僕の...夢の中...?!)
『そうだ。君は今気絶している。...そうだな、今は......天光琳様の仲間の男神が結界を張って守ってくれているが...ふふふ、壊してやろう』
(!?)
音は声しか聞こえない。天俊熙達は今どうなっているのか分からない。怖くてたまらない。心臓が口から飛び出そうだ。
『はははは、簡単に壊れた!』
(やめて!)
天光琳は心の中で必死に叫んだ。
すると、しばらく声が聞こえなくなった。
とても静かな空間。しかし何が起こるか分からない。
(まさか...)
嫌な予感がする。声が聞こえない...ということは、今悪神は、二神と戦っている最中なのではないか?天俊熙の結界を簡単に壊すことが出来た...というのとは、かなり強いはずだ。
(姉上...俊熙......どうか無事で...!!)
心の中で強く祈った。
『あはは、祈っても無駄だよ、そろそろ終わるから』
(!?)
悪神の声が再び聞こえた。心を読まれるとは実に気味が悪い。
『結界を何度も壊してもあの男神は何度も結界を張り、必死に君と女神を守ろうとする。だから、結界を壊し、そのまま飛ばしてあげたよ、しつこく攻撃してくる女神も一緒に』
(...うそ......やめてっ!!)
天光琳は意味が無いと分かっていても剣を振り回した。
悪神を早く倒さなければ......あの二神の命はないだろう。
『体のあちこちから血を流して弱っているぞ。はは、このまま楽に殺してやろう』
悪神は笑いながら言った。
しかし笑い事では無い。このままでは二神が殺されてしまう。天光琳は全身に力を入れて、現実世界の自分を起こそうと必死に頑張った。
「無理だぞ。どんなに頑張っても天光琳様は起きれない。俺が天光琳様を起こすまで、一生目を覚ますことは無いのだ」
それでも天光琳は力を入れ続ける。起こし方は分からない。しかし無理やりでも目を覚ましてやろう...と思い、全力で力を入れる。
(諦めろ、どれだけ頑張っても無駄だぞ)
苦しくなってきた。目の前はチカチカしてきたが、それでも続ける。大切な仲間が殺されないように。早く目覚めなければいけない。
......今すぐに!!
......突然、目の前は白くなり、一枚の桜の花びらが目の
前でヒラヒラと落ちていく。
下は水になっていた。水は透き通っているが、白い板が下に敷かれているかのように浅く、下は何も見えない。
花びらがゆっくりと水の上落ち、浮かんだ。そして浅いため、深くは沈まないはずなのに、何故かゆっくりと深くまで沈んでいった。
天光琳はその様子をずっと眺めていた。すると、ゆっくりと沈んでいく花びらと一緒に天光琳もゆっくりと沈んでいった。
(!?)
どんどん沈んでいき、ついに胸の所まで沈んでしまった。そして顔も沈んでいく......しかし苦しくはなかった。
目元まで沈むと、水の中が見えた。目の前にはなんと......
大きな桜の木が立っていた。
水の中へと沈んでしまったはずなのに、足元はしっかりしている。下を見ると、地面は花畑になっていた。上を見あげると、青空が広がっていた。
天光琳はこの状況を理解出来ず、とりあえず桜の木の近くまで行こうと一歩踏み出した......その時。
風が吹き、桜の木が揺れ、沢山の桜の花びらが散った。その花びらは天光琳を包み込み、辺りは見えなくなってしまった。
そして急に眩しくなり、天光琳は目を閉じた。
目を閉じると、周りは静かになった。風によって揺れる桜の木の音などは聞こえてこなくなった。
しばらくして、眩しさは消えた。
そして天光琳はゆっくりと目を開いた。
頑張れ阿琳!!!(作者心の声)




