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鬼使神差  作者: あまちゃ
-光- 第一章 神の力
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第二十六話 出発

食事部屋に行くと皆揃っていた。

今日は揃うのが早い。天光琳と天俊熙は早歩きで自分の席に座った。



「それが...あなたの剣なのね...?」



天万姫は天光琳が抱えていた剣を指さしながら言った。



「あ、そうです!」



天光琳は剣を一旦部屋に置いてから食事部屋に行こうと考えていたのだが...忘れていた。



「素敵ね...!光琳が剣を使っているところを見てみたいわ!」



天麗華は両手を合わせながら笑顔で言った。

天光琳はあることを思い出した。



「あ、そういえば姉上、昨日は...その......ありがとうございました......姉上は眠れましたか...?」



(あ、しまった...)



天光琳は今言うべきではなかったと後悔した。天麗華と天俊熙を除く天家の皆が、意味がわからないという顔で見ている。



「あはははは」



天俊熙は一神だけ笑っている。

天麗華も一瞬なんの事か分からなかったが、すぐに気づいた。



「ええ、眠れたわ。安心して」



天麗華は天俊熙につられて笑いそうになったが、何とか我慢しながら言った。



「良かった...」



天光琳はホッと息を吐いた。

自分だけよく眠れて、天麗華は眠れなかったなんて言ったら...申し訳なさすぎる。



「ねぇ、何があったの...?」



すると天万姫が天麗華を見ながら言った。

みんなも気になっているようだ。


しかし天光琳は恥ずかしくて知って欲しくないため、天麗華の目をよく見ながら全力で首を横に振った。



「ふふ、なんでもないわ。昔話をしていただけよ」



実際は昔のように膝枕をしてもらっていた...なのだが。

食事室の扉が開き、料理が運ばれてきた。


料理のいい香りが部屋中に広がる。



(これが最後のご飯になりませんように...)



天光琳は心の中でそう思った。




料理が揃い、食べ始めた。

今日は何があるか分からない。しばらく帰ってこられないかもしれない。


そう思うと緊張してきて、食事が喉を通らない。

しかししっかり食べなければ体力は長く続かない。

天光琳は朝食のパンを小さくちぎりながら食べた。



皆朝食を食べ終わり、いつもなら解散なのだが、今日は皆残っている。


料理を運んできた六名の神は食器を下げ、テーブルを拭き、一礼してから部屋を出た。


今は天家だけだ。

天宇軒は口を開いた。



玉桜山(ぎょくおうざん)という山の中で現れたそうだ。詳しい場所は聞けていない。きっと玉桜山のどこかにいるはずだ」



昨日『連れてこい』と言ったということは、目撃された場所にいるだろう。


玉桜山とはここからかなり離れた場所にある。歩きだと六時間ほどかかる。そのため馬車で行くのだ。馬車だと三時間ほどで着く。



「三十神護衛神をつける。中には玉桜山に行ったことがある

神も数名いる」



三神は玉桜山に行ったことがない。


少しでも玉桜山のことを知っている神がいてほしかったため、三神は安心した。


身分差を好まない天家は、『護衛』といえども大切な仲間の一神として接している。


天光琳、天俊熙、天麗華の三神は絶対に命を落としてはいけない神なので当然、三神の身の危険を感じたらすぐに守りに行く。しかし三神も護衛のことを守ったりする。



「昨日も同じことを言ったが、誰一神命を落とさずに、生きて城に帰ることだ。怪我も許さない」



天宇軒は力強く言った。


『誰一神』とは護衛神三十神も含めているだろう。

『怪我も許さない』という言葉はキツく感じるが、『無事で帰ってきて欲しい』という願いも込められているだろう。



「分かりました。全員、無事に帰還するわ!」



天麗華は天宇軒の目をしっかりと見ながら言った。

天光琳と天俊熙も強く頷いた。



「そろそろ行きましょうか」



天麗華のその言葉を聞き、天光琳は一気に心臓の音が大きくなった。



「もう行くの...?」



天万姫が心配そうな顔をしながら言った。




「ええ。そうでないと、今日中に帰れないわ」



天麗華は笑顔で答えた。この笑顔はなんだか安心する。

天光琳も天俊熙も今日中に帰りたいと思っている。心配させたくないからだ。



「そう......」



天万姫はそう言いながら下を向いた。手に力を入れている。心配なのだろう。



「光琳、俊熙、荷物は整っている?」


「「はい」」



天麗華が聞き、二神は大きな声で答えた。

昨日の夜に準備をしておいたのだ。もう出発は出来る。



「ではこの後すぐに荷物を持って、馬車の前で集合......

で大丈夫かしら?」



二神は頷き、立ち上がった。


そして、三神は食事部屋を出て、荷物を取りに自分の部屋へと向かった。


荷物は動きやすいように少なくしている。

天光琳は小さなポシェットを右腰に着け、飲み物や薬、包帯などを入れている。


左腰には剣を差した。

食料などは護衛が持ってくれるので持つ必要は無い。

これで準備完了だ。


天光琳は部屋を出て城の出入口前に止まっている馬車へと向かった。



✿❀✿❀✿



もう既に全員集まっていた。

馬車は一台六神乗りで六台止まっていた。

そのうち一台は食料などの荷物用だろう。



「遅くなりました!」


「うんん、ちょうど今揃ったところだから大丈夫よ」



天麗華は微笑みながら言った。

天家の神は皆見送りに来ている。



「気をつけて......無事を祈るわ...」


「......」



天万姫は心配そうに言った。天宇軒はいつものように黙っているが、先程から手の動きに落ち着きがない。そこから心配している様子が見られる。



「生きて帰ってこい」


「無理は絶対にしないで」


「待ってるわよ」


「...気をつけて」



天浩然に続けて天語汐、天李偉、天李静も言った。



三神は微笑みながら頷いた。



「それでは行ってくるわ!」


「行ってきます」


「待ってろよー!」


三神は手を振りながら言い、馬車に乗った。


天光琳は座った途端、さっきまでおさまっていた大きな心臓の音が再び聞こえ始めた。


天光琳は下を向き手に力を込めた。



(怖い...緊張してきた...)



天光琳は首を横に振って、頬を二回叩いた。



(大丈夫。大丈夫。絶対に大丈夫!!)



そう思い、顔を上げた。そして馬車から見送ってくれている天家の神を見た。


心配そうな顔をしている天万姫。

黙ったままの天宇軒。

無事を願い真剣な表情をしている天浩然。

三神なら大丈夫という顔をしている天語汐。

扇子で口を隠し、心配そうにしている天李偉。

手を強く握りながら見つめてくる天李静。


天光琳はこの表情をすべて笑顔に変えて見せよう...そう思った。


そして馬車がゆっくり動き出した。


三神は手を大きく振った。

天家の皆が見えなくなるまで。ずっと振り続けた。

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