第二十三話 天家から三神
「それってこの中から三神行けってことでしょう?」
「何があるのか分からないのに......」
「怖い......」
天語汐、天李偉、天李静が震えながら言った。
天光琳も手を強く握って下を向いた。
自分があの男神の妹妹を殺した犯神ではない...と思ってもらえるだろうと安心したが、『明日天家の神を三神連れてこい』とは...恐ろしくて安心している場合では無い。
それに『この国はお終い』ということは、この国を支配するのか...滅ぼすのか......どっちにしろ恐ろしいことだ。絶対に起こってはならない。
「......父上は行かない方がいいと思うわ」
「何故だ?」
「天国の王でしょう......もし何かあったら、この国は大騒ぎよ」
天麗華が言った。その通りである。
王である天宇軒は行かない方がいいだろう。
もし天宇軒が殺されてしまったら、次王になるのは天光琳だ。天光琳はまだ神の力を使えないため桜雲天国は大変なことになるだろう。天光琳も天宇軒は行って欲しくないと強く頷いた。
「そうね......私も麗華が言う通り貴方は行かない方が良いと思うわ」
「そうだな...兄上。」
天万姫と天浩然も納得している。
「そうか...」
天宇軒は自分が行こうと思っていたのだろう。さすが王だ。
「......」
皆行きたくないのだろう。殺されてしまうかもしれないからだ。花見会の時の事件のことを考えると生きて帰れないかもしれない...と誰もが思っている。
すると、誰かが手を挙げて言った。
「じゃあ......僕行きます...」
天光琳だ。皆は驚いた。
「お前、大丈夫なのか!?」
「貴方は...行かない方がいいと思うわ...!」
天俊熙と天麗華は言った。
二神が言っていることはよく分かる。
それは......
「光琳、貴方は......あまり言いたくないのだけれど、自分を守れるような能力がないでしょう?」
「そうよ...死にに行くようなものじゃない...」
天万姫は心配しながら言った。天麗華も頷きながら言った。
天光琳は神の力が使えないため、自分を守るような能力は......いや、ある。
「能力はないけれど、自分の身を守ることはできます」
「あ、そうだったな...!」
天俊熙は思い出した。
「どういうことだ?」
天宇軒は天光琳の方を見て言った。
「僕はほぼ毎日、修行と舞の稽古をしに行っています。その時に、草沐阳老師に剣術を教わっています。神の力を使えず、自分の身を守る能力がない僕でも、剣を使えるようになればいざと言う時に自分の身を守ることが出来るかもしれない.....なので...!」
天光琳は真剣な顔で皆に言った。
「僕が行きます!」
「光琳......」
母である天万姫は心配で行かせたくないのだろう。
「僕は神の力を使えないせいで桜雲天国の評価を下げ皆さんに迷惑をかけています。そんな僕ならもし殺されてしまっても問題はありません!それに......」
「光琳!!」
天万姫が珍しく大きな声で言った。天光琳はびっくりして喋るのを辞めた。
「そんなこと言わないで。問題ないわけないでしょう......」
「母上......」
天万姫は天光琳の目をしっかり見ながら言った。天光琳は目から涙がこぼれそうになったが、我慢してまた真剣な顔をした。
「ですが母上、あの犯神は僕の名前を使ったんです。何か理由があるのかもしれません。もし今回目撃された神が同じ神だとしたら......僕は行くべきなのではないでしょうか...!」
天万姫は何か言いたいことがあるようだが、天光琳が真剣に言ったため、何も言わず下を向いた。
「そうね......光琳は行くべきだと思うわ」
天李偉は納得したように言った。
......助言しているのか、天光琳は無能神様だから行かせて、自分が行く可能性を下げるために言っているのか分からないが...。
「じゃあ、俺も行きます。万姫様が心配しているのなら防御結界を張る能力がある神が一神でもいた方が良いでしょ
う。」
そう言って天俊熙は手を挙げた。
天家の中で防御結界を張る能力があるのは、天俊熙そして天宇軒なのだが...天宇軒は行けない。そのため天俊熙は自分が行くしかないだろうと思った。
「でも...」
「光琳。言いたいことは分かるけれど、俊熙の言う通り防御結界を張る能力がある神は一神でも必要だと思うわ」
天語汐が言った。天語汐は天俊熙と同じようなつり目で、真面目で絡みにくそうな雰囲気を出しているのだが、優しく面倒見が良い神だ。
天光琳は自分を守るために防御結界を張る能力がある神が行くなんて...自分のせいで命を落としてしまったらどうしようと不安なのだ。
「俊熙、気をつけて。絶対に命を落とさないこと。危険を感じたらすぐに逃げなさい」
天語汐は天万姫のように否定はしなかったのだが、言葉から心配しているのだと分かる。
「分かりました」
天俊熙は強く頷きながら言った。
そしてあと一神だ。すると...
「私が行くわ」
天麗華だ。
「えっ姉上は...」
「麗華ちゃんは奇跡の神でしょう!?行ってはいけないわ...!」
天光琳が言おうとしたことを天李偉が被せて言った。
桜雲天国では天麗華は居なくてはいけない存在だ。天光琳が人間の願いを叶えられず下げていく国の評価を天麗華は何とか上げている。
そのため、桜雲天国は神界の中で上位を保てているのだ。評価が高く、上位に入ればより国が豊かになる。下の方にいる国は貧しい訳では無いが、上位にいた方が良いのだ。
なので天光琳がいる限り天麗華はいなくてはいけない。
天光琳もその事はよく分かっている。そのため迷惑をかけている...といつも思うのだ。
「私が......奇跡の神だからよ。もし光琳と俊熙が命を落としてしまったら......私は行けばよかったと絶対に後悔すると思うの」
(...ん?)
天光琳は一つ気になった。天麗華は『私が奇跡の神だから』言う時に何故か言いづらそうにしていた。
奇跡の神だと自慢しているように聞こえてしまうのではないか...と思っているからなのだろうか。
しかし一瞬顔色が悪くなった気がした。
「だから私も行くわ。父上、よろしいでしょうか...」
天麗華は天宇軒の方を見て言った。
「...あぁ。」
天宇軒は少し不安そうな顔をしていたが頷いた。天麗華はパッと笑顔になり、また真剣な顔をした。
「天光琳、天俊熙、天麗華の三神が行くんだな......。アイツは危険な神だ。何があるか分からない。だが誰も怪我せず無事に帰ってくること。いいか?」
「「「はい!」」」
三神は真剣な眼差しで返事をした。
天万姫はずっと不安そうな顔をしている。
「大丈夫よ、母上。私がしっかり二神を守りますから」
天麗華は天万姫の手を両手で包みながら言った。
「貴方も無理しないでね...」
「ええ」
天万姫が言うと、天麗華はいつもの可愛らしい笑顔で答えた。
「さぁ、食べましょう!料理が冷めないうちに!」
天麗華は気分を切りかえて言った。
「そうですね、お腹空いた!」
天俊熙も笑顔で言った。
(老師にまた明日って言っちゃったけど......明日は修行と稽古出来なさそうだな...。朝早く起きて小屋に剣を取りに行くついでに老師に言わなきゃ...)
天光琳は心の中でそう思った。
(明日......どうなるんだろう...)
自分から行くと言い出した天光琳だが、内心怖くてたまらない。明日殺されてしまうのではないか...知らないところに連れていかれるのではないか......天光琳は不安でいっぱいだった。
特に花見会の犯神だった場合...天光琳の名前を使われていたのだ。きっと天光琳には何か起こるに違いない。
...だが、味方には天俊熙と天麗華がいる。
この二神がいれば大丈夫だ...と天光琳は心の中で強く思った。




