第二十話 剣術
「次は何をするんですか?」
天俊熙は辺りを見渡しながら言った。
いつも舞をしている小屋から少し離れたところに、新しい小屋が出来ていた。室内でやる修行なのだろうか。
「剣術だ」「剣術だよー」
「剣術かー......け、剣術!?」
草沐阳と天光琳は声を揃えて言った。天光琳は場所的に何をするのか分かっているのだろう。天俊熙は驚いた。天光琳は最初なぜ驚いたのか分からなかったが、すぐに理解した。
「そっか!そういや昔は剣術なんてやってなかったね」
「あ、そうだったな」
天俊熙は頷いた。
草沐阳も思い出した。
「剣術なんて必要あるんですか...?」
天俊熙は首を傾げながら言った。
神は神を殺してはいけない。神であるのにそんな恐ろしいことは許されないのだ。殺してしまったら封印されてしまう。
そのため、人間界で存在する『剣術』は必要ないのだ。
「僕は皆みたいに神の力を使えないでしょ?
自分の身を守る能力もない。だから、使えないうちは自分の身を守るために、剣を使えるようになろう...って老師と決めたんだ」
「あー、そういう事か!」
天光琳が剣術を学ぶ理由は『殺すため』ではなく『自分の身を守るため』である。
神の力を使える天俊熙には、防御結界の能力や、火を出す能力、風を起こす能力などで身を守れる。しかし天光琳はそもそも神の力がないので身を守れないのだ。
世界は広いので、神ではない何者かが神界を襲ってくる可能
性もゼロではない。
そのため天光琳は草沐阳に剣術を教わっているのだ。
「......ん?剣術って修行なのか...?」
「修行...ではないな...」
天俊熙は気になったのだ。神の修行とは神の力を高めるためのものだ。しかし身を守るための剣術は修行ではない。
「ところで...草老師、剣術なんて分かるんですか?」
天俊熙は気になった。剣術という名前は誰だって知っている。
しかし神には必要ない剣術を教えることが出来るのか、実際に剣を振ることが出来るのか気になったのだ。
「あぁ。実は小さい頃、人間界の書物を見つけて読んだところ、剣術にハマってしまってなぁ......それで勉強したんだ」
神界では剣術は一般的に教わったりしないのだが、中には剣術にハマってしまう神も結構いる。桜雲天国にはないが、他の国では剣術の学校なんてあるみたいだ。
神を『殺してしまう』ことは禁止されているのだが、身を守るため、剣術を『学ぶ』...ということは禁止されていない。
「人間界では国によって使うものが違うんだぞ。ある国では刀を使ったり、剣を使ったり......剣も色々種類があって、片手剣や両手剣なんてのもある」
小屋の中に入り、草沐阳は様々な剣を指さしながら笑顔で言った。いつもより少し早口だ。相当好きなのだろう。
「なるほど......。じゃあ、天光琳は何を使ってるんだ?」
天俊熙は気になったため聞いてみた。
「僕は片手剣を使ってるよ、軽くて使いやすいから」
「確かに、重いのは使いにくそうだよな」
天光琳は小柄で細身の体型だ。両手剣なんて重くてまともに使えないだろう。
「そうなんだよね......。刀もいいんだけど、僕は貫く動きの方が得意だからやっぱり剣かなーって思って」
天光琳はいつも使っている自分用の剣を片手で持ちながら言った。
「ちなみに刀にも直刀、湾刀ってのがあって、ある国では短刀、脇差、打刀、太刀、大太刀って種類があり......」
「「...ははは...」」
天光琳と天俊熙は苦笑いをしながらながーい草沐阳の剣術話を最後まで聞いた。
「おぉ...つい語りすぎてしまった...さて、やるか」
「はい!...天俊熙はどうする?やってみる?」
「俺は面白そうだから見るだけにしておくよ」
天俊熙はそう言って小屋の近くの木にもたれかかった。自分には剣術を学ぶ必要は無いし、やったとしても天光琳が教わる時間が減るだけ。
だから天俊熙は見るだけにすると言ったのだろう。内心少しやってみたい気持ちはあったのだが......それはまた次の機会に...と思った。
「では、天光琳かかってこい!」
「はいっ!」
天光琳は剣を抜き、草沐阳に向かって剣を振るった。
草沐阳は天光琳が持っている片手剣と同じような形の剣でその剣を弾いた。
(待て待て、なんで真剣でやってるんだ!?誤って怪我をさせてしまったらどうするんだよ!)
天俊熙は目を大きく開いて驚いている。
怪我程度では封印されないのだが......大怪我をさせてしまった場合どうするのだろうか...。
「はぁっ!」
天光琳は草沐阳に弾かれても素早く攻撃をする。しかし草沐阳は軽々と剣を弾く。
ずっとその繰り返したった。
「はぁ...はぁ...やっぱり無理かぁ〜」
ようやく疲れきった天光琳は剣を置き、地面に寝転がった。
「お疲れ様、凄かった!」
「ありがとう」
木にもたれかかっていた天俊熙は天光琳のそばに行き、水筒を渡した。
「はっはっは、まぁ、隙は減ったな」
草沐阳は腰に両手を当てながら大きな声で笑った。
「まさか真剣でやってるとは思わなかった......大丈夫なんですが?」
「大丈夫だ、前は真剣でやってなかったのだが......慣れてきたようだから真剣でやるようにした。その方がより集中することができるだろう」
「あぁ、そういうの事だったのか」
真剣の方が相手を切ってしまわないように集中することができる。また、真剣は木剣や木刀より重いため、実際に使うことがあった場合に困ることはないだろう。
とにかく真剣を使うということは、お互い信用し合っているという事だろう。
この後、舞をする時に必要な集中力を高める修行、体力作り其の二など、様々な修行を終え三神はいつも舞の稽古をしている小屋に戻った。
 




