表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼使神差  作者: あまちゃ
ー悪ー 第二章 想い
185/185

第三十五話 隠し事

(何時だろう......)



天宇軒はベランダに置かれている長椅子に座り、一神で遠くを見つめている。

天光琳は天宇軒の隣に座った。天宇軒の顔を見ると、とても寂しそうな、不安そうな様子が伝わってくる。

ヒラヒラと舞う桜の花びらが天光琳の体をすり抜けていく。触れたくても触れられない。天宇軒にすら触れられない。天光琳は悲しくなり、膝を立てて座った。



(本当は行かせたくなかった)



天宇軒は天光琳が行くと言った時、止めなかった。しかし、本当は行かせたくないと思っていたのだろう。



(神の力が使えなくても剣をきちんと使うことが出来れば大丈夫......光琳も沐阳さんも言っていたが、この世界は力が命だ。神の力が使えなければ自分の身を守りきれない。......しかし、神の力を使うことが出来るあの二神が何も出来なかった。......もし光琳一神だけあそこに居たら......死んでいただろう)



天宇軒は額に手を当てた。



(思い出す。光琳が血だらけで倒れていた姿を......。俺がもう少し早く助けに来ることが出来ていれば、あんな深手をおうことはなかっただろう)



天宇軒はため息をついた。

すると、後ろから声が聞こえた。



「宇軒さんも眠れないのね」

「......君か」



天万姫だ。天万姫がこちらへ歩いてきていることに気づき、天光琳は急いで立ち上がった。

天万姫は天光琳の思った通り、先程まで天光琳が座っていたところに座った。



「光琳はまだ目を覚まさないのね...」

「......あぁ」



(僕が目を覚まさない......?あぁ、あの時か)



ということはこの記憶は......かなり飛んでいる。恐らく天光琳と天麗華、天俊熙の三神が玉桜山へ行った時のことだろう。そこでシュヴェルツェ......落暗(ルオアン)と戦い、天光琳は二神を守って深手を負った。その時のことはよく覚えている。今もまだ傷は残っているのだから。



「光琳...」

「どうした?」

「あっ......何でもないわ......!」



天万姫の手が震えている。天宇軒は眉間に皺を寄せた。



(万姫は光琳の力のことを俺に隠している。もし俺に"隠し事が分かる能力"がなければ、今の俺は光琳が神の力を使えない理由は知らないはずだ。おそらく光琳に酷いこと言っていただろう)



"隠し事が分かる能力"......だと?そんな能力は初めて聞いた。能力には色々な種類がある。その中でも、簡単に手に入り、多くの神が持っている能力もあれば、稀少性の高い能力もある。更にその上もある。この世で一、二神しか持っていない能力も存在する。

そのレアな能力は沢山使える訳では無い。一回しか使えないものもあれば、数ヶ月に一回、数年に一回しか使えないものもある。

おそらく"隠し事が分かる能力"は数年に一回しか使えないものだろう。ちなみに天俊熙の"未来が分かる能力"も同じで数ヶ月に一回しか使えない。


なぜレアな能力ほど制限されているのか分からないが、言い伝えによると、この世界を作ったとされる始まりの神が、能力を作り出す際、他神のことが分かる能力の場合、簡単に分かってしまうとプライベートが守られないと思ったため、制限した......と言われている。

それが本当か分からないが、レアな能力はほとんど他神のことが分かる能力ばかりだ。そう思うとこの言い伝えは正しいのかもしれない。


話を戻すと、天宇軒は"隠し事が分かる能力"を持っているというところだ。おそらく、なぜ天光琳は神の力を使うことが出来ないのか確かめるため、天万姫この能力を使い、全てを知ったのだろう。



「何か隠していることはないか?」



せめて自分から言って欲しい。天宇軒が隠し事が分かる能力を一番最初に使った神は......愛する妻の天万姫だ。それは妻を一番最初に疑った......ということになる。天光琳の面倒をよく見ていた護衛神や天麗華などではなく、天万姫だ。

天万姫は天光琳の力の話をすると下を向いて黙り込む。天宇軒はその行動に違和感を感じていた。


そのため、一番最初に使った。予想は当たり、天光琳の力が使えなくなった理由は天万姫であった。


もしあの時、力を移すと余計なことをしていなければ......天光琳はこんなことにならなかった。

人間の願いを叶えられず、皆から笑われることはなかったはずだ。

天麗華に関しては、皆に禁断の術力消しの術を使われ、力を全て消されたのだと説明すれば、力が使えなくとも、笑われることはなかったはずだ。


天万姫は今どのような気持ちなのだろう。自分のせいで天光琳が苦しんでいるのだと知っているのか?反省しているのか?

反省の色が全く見えない。この前、天宇軒が天光琳に怒鳴ってしまった時、天万姫はなんと言った?


『...光琳は沢山努力しているのよ。貴方も知っているでしょう?』



何を言っているんだ?



『今日もダメだったみたいだけれど、貴方の頑張りは無駄にはならないわ。...いつかきっと...結果に繋がる時がくるわ』



いつかきっと......?



『この調子で頑張りなさい。応援してるわ』



なぜ応援しているんだ?一生使えないのだ。これ以上無理をさせるつもりか?


天宇軒はその言葉が信じられなかった。そして思い返す度、怒りが込み上げてくる。

天光琳を庇い、応援する。これは何も知らない天光琳にとっては嬉しいことかもしれないが、全てを知ったらどうなる?許せないだろう。


天光琳はその日、修行と稽古をしに行き、帰りが遅くなって夕食の時間、姿を表さなかった。疲れきって眠ってしまったのだ。

いくら頑張っても無駄なのに、疲れ切るまでやらせた。


また天光琳の舞はこの世で一番美しいレベルだ。この前の花見会では舞台に立って美しく舞った。天宇軒はその姿を途中から見ていられなくなった。今までどれぐらい頑張ってきたのか。あの舞で全て分かる。はやく神の力を使えるようになりたいと、詰め込んできたのだろう。

その努力は天万姫が言っていた『いつか結果に繋がる』という事はない。絶対にだ。

そう思うと胸が痛くなり、自分まで苦しくなってくる。そのため、途中から目を逸らしてしまった。本当は最後まで見ていたかった。そして......『よく頑張ったね』と頭を撫でて褒めたかった。


許せない。不器用な自分も、幸せを奪った天万姫も。



「あるなら今すぐ言え」



事実を自分の口で全て言って欲しい。天宇軒は強く言った。



「何も...ありません...」



これでも言わないのか。と天宇軒はおもった。ならもう良い。失望した。




「......そうか。...俺はもう部屋に戻る」



天宇軒は立ち上がり、中に入っていった。戸惑う天万姫。



天光琳は小走りで天宇軒について行く。

天光琳は複雑な気持ちになった。自分のせいで......いや、これに関しては天万姫のせい......違う。力消しの術を使ったものが悪い。天万姫はただ天麗華を助けようとしただけなのだ。やり方が良くなかったが、悪気はなかった。


天万姫は、決して天光琳を嫌っている訳では無い。力を移すのに失敗し、自分が無能神様にさせたのにも関わらず、いつか使えるようになると応援したり、励ましたりしていたのも、別にからかっているわけでもない。


天万姫自身も一神で悩んでいた。どうするべきか。しかし何も思いつかない。方法は何も無い。そのため、せめて天光琳の気持ちを和らげようとしてくれていたのだ。しかし事実を知っている天宇軒からすると、信じられないことなのだろう。


今の天光琳は天万姫を責めていない。天万姫が失敗さえしなければ無能神様にはならなかったのだが、失敗したおかげで天麗華は奇跡の神となり、あの優しい姉がいる。もし、天万姫が力移しの術を使っていなければ、あの優しい天麗華はいない。今の天光琳のように苦しみむこととなるだろう。苦しむのが自分だったから良かった。


しかし自分は皆を殺してしまった。もし苦しんでいたのが天麗華だったらどうだったのだろう。



(姉上だったら......殺さなかったのかな)



そもそもなぜ自分は皆を殺したのか分からない。今まで殺意など一つもなかった。

......やはりシュヴェルツェのせいだろうか。

草沐阳や美梓豪と戦った時のことを思い出す。

『目を覚ませ』と言っていた。自分は洗脳されていたのかもしれない。

とはいえ、殺したのは自分だ。更に今日、多くの人間を不幸にし、殺した。もう少し早く自分は神なのだと思い出せば......人間たちは死ななかっただろう。



(僕は悪神なんだ......)



一生神々から嫌われていくだろう。......が、神々は自分の手によって滅んだ。



(どうすればいいのか分からないよ)



そう呟くと、また場面が変わった。

(追記)しばらく更新お休みさせていただいてます。

実はアルファポリスさんの方で出版申請をしていたのですが、2ヶ月半経っても結果のお返事が来ておらず、出版優先権を取られたまま放置状態になっていまして......。運営さんにお問い合わせてみても何も帰ってこないのです。とりあえず、出版優先権が帰ってくるまでコンテストに応募できないので、しばらく更新をお休みさせて頂いています。

楽しみにしてくださっている方には申し訳ないです。もう少しお待ちください!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ