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鬼使神差  作者: あまちゃ
ー悪ー 第二章 想い
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第三十二話 不器用


次はいつ頃なのかすぐに分かった。



「アイツ神の力使えないんだってー!」

「王一族なのに使えないの?」



悪口を言われ、背を向けている天光琳。その様子を天宇軒が近くで眺めている。

これは十歳の頃だ。十歳になると王一族は皆の前で神の力を披露する祭りが開かれる。しかし天光琳は皆の前で使うことが出来なかった。最初は失敗しただけかと皆は思っていたのだが、何度試しても出来なかった。天光琳の後に天俊熙が披露したのだが、天俊熙は普通に使えていた。


将来の王でありながら失敗したのだ。従兄弟である天俊熙は使えているのに......。

そのせいか、祭りは台無しだった。


天俊熙は『お前に恥ずかしい思いをさせた』と謝っていたが、これは自分が悪いのだ。天俊熙が謝ることでは無い。


そして今天光琳が見ているのはその祭りの次の日だ。

外に出て、いつものように睿たちと遊びに行くところだった。



(この時、父上はそばに居てくれてたんだ)



天宇軒がそばに居たことは知らなかった。少し離れたところで波浪と共に天光琳を見守っている。



「光琳を助けるべきか?」

「そうですね」

「だが......急に助けたら......気持ち悪いと思われてしまうのではないか......?」

「そんなこと思いませんよ」



天宇軒は戸惑っている。今の天光琳はその様子を見つめている。気持ち悪いなんて思わない。



(助けようとしてくれていたなんて......)



「気持ち悪いって思われても、光琳を助けられたらそれでよいか」

「大丈夫ですよ。光琳様はそんな方ではないでしょう?」



天宇軒が一歩踏み出したその時だ。



「光琳ー!」



天俊熙が走ってきた。そういえばこの時、天俊熙が助けてくれたことを思い出した。天宇軒は立ち止まる。



「お前ら光琳をいじめるな!そういうのは俺に勝ってから言え!」

「すいません!」



「一足遅かったようですね」

「あぁ」



天宇軒は悔しそうに、そして天俊熙を羨ましそうに見ている。あんな風に助ければ良いのか......と。助けられた天光琳は嬉しそうにしている。

あの笑顔が見たい。いつも見るのは天光琳の泣いている顔。そんなのは全く見たくない。



(父上......)



これは天宇軒の記憶のため、天宇軒の思っていたことも全て聞こえてしまう。天光琳は胸が苦しくなった。



「会いたい......」




✿❀✿❀✿




また場面が変わった。

目の前には天宇軒と天浩然がいる。



「また怒鳴ってしまった......」

「きっとお疲れなんですよ。それ、手伝いましょうか」

「いや、いい」



書類の山に囲まれ伏せながら疲れきった様子だ。

かなりしんどそうだ。



「怒鳴ったって......一体何があったのですか?」

「また光琳は人間の願いを叶えられなかった。怒るつもりは無かったのだが......はぁ。つい強く当たってしまった。光琳はどうしたら神の力が使えようになるのか、考えれば考えるほど分からなくなってくる。あの子だって真剣に悩んでいるはずなのに、俺はつい責めてしまった」



(あの時か)



天光琳はいつのことか分かった。


『またお前は人間の願いを一つも叶えられなかったのかっ!?』

『申し訳ございません...』


この言葉が頭に浮かぶ。

あの時、天宇軒はやけにイライラしていたのだが、それは日頃の疲労が溜まっていたからであって、天光琳に苛立ちをしていた訳では無いという......。怒るつもりはなかったのか。

そしてこの時にはすでに、天万姫が禁断の術を使い、天光琳の力は全て天麗華に移されたということは知っているらしい。

そのため、『どうしたら使えるようになるのか』という言い方をしていた。天浩然は流していたが、そういう意味が込められているようだ。



「なぜお前のように上手くいかない。なぜ光琳はいつも泣いていて、俊熙たちはいつも笑顔なんだ」



別にいつも泣いている訳では無いが......と思ったが、そこはあえて触れないことにしよう。



「そうですね......。兄上を見ていると一つ気になることがあるのですが......」

「言ってみろ」



天浩然は言いにくそうにしていたが、気になることがあるなら言って欲しい。自分では分からないからだ。



「......兄上は、王として......いや、父として、ずっとかっこいい姿を見せようとしているように感じます」

「......?」

「あぁ、別に悪い意味ではありません。言い方が悪かったですね。なんて言えば良いのか......すごく難しいんですけど......」

「いや、別に怒っている訳では無い。ただよく分からなかっただけだ。思っていることを正直に言って欲しい」



天宇軒が首を傾げても、怒っているようにしか見えない。記憶の中の天浩然も天光琳も怒っているように見えた。

天浩然は気分を悪くしてしまったと思って焦っているが、天宇軒は別に気にしていない。むしろ正直に言って欲しいのだ。



「......分かりました。......兄上はいつ見ても王らしく、しっかりしている。気を抜いているところが少しも見られない......。家族の前なのですから、もう少し気を抜いても良いと思うんです。肩の力を抜いて、笑顔で話してみたり、面白い話をしたり......」

「面白い話......か...」



何も思いつかない。幼少期の時、楽しい思い出が一つもなかったせいか、周りのことに興味をもてず、話題が思い浮かばない。



「きっと光琳は兄上のことが怖いとって思っているのですよ。あまり話していないでしょう?今からでも遅くはないです。明日にでも何か思い出話でもしてあげれば良いと思いますよ」

「話せるような良い思い出は無い」

「あ.........あぁ......」



天浩然は反応に困った。



「まぁとにかく。父だから、王だからって無理しなくてもよいのです。少しは親として情けない姿を見せたって、息子や娘たちは笑ってくれます。俺みたいに自分の息子の前で池に落ちたって......」

「い......池...?」



天浩然はしまった。と口を抑えた。こんな情けない話、兄に聞かれたくなかったのだが......まさか自分から口を滑らせて言ってしまうとは。



(これ前に俊熙が言ってたやつかな)



天光琳は思い出してクスッと笑った。



「あー......ははは」

「何があった」



苦笑いをする天浩然。そして心配する天宇軒。その姿はとても兄らしい。



「......俺の不注意です。よく、李偉と李静が誘ってくれて市場に行くことが多いので、たまには男二神で行こうかって話になりまして......。やっぱり歳頃の女神二神と行くより、男神と行く方が話が合うわけですよ。それでつい話に夢中になってしまい......ドボンといきました」

「ふ」

「あれ?今笑いました?」



笑ったというか、鼻で笑ったというか......。

天宇軒は顔を逸らした。



「そうですよ。今みたいに笑えば良いじゃないですか。その方が光琳も嬉しいと思いますよ。ほら、口角を上げて!」

「......こうか...」

「あー......怖い」

「......ふん」



ただ笑うだけというのになぜこのような恐ろしい顔をするのか分からないと天浩然は思っているようだが、天宇軒はこれが本気だ。



「それにしても、お前は変わらんな」



天浩然はしっかりしているように見えて実は抜けているところがある。


天光琳が玉桜山で負傷し、わざわざ宿まで来て様子を見に来てくれた時は、天宇軒と同じくしっかりしている神のように見えたが......このように天宇軒と並ぶと、弟らしさが伝わってくる。


昔はすごくドジな性格だったそうだ。草沐阳からいつものように失敗話を聞かされた。舞をしていたら脚を捻って負傷したり、よそを向いていて池に落ちたり......。天語汐と結婚してからしっかりしたように思ったが、やはり中身は変わらない。



「それで、俊熙の反応は?」

「腹抱えて手叩いて笑ってましたよ。酷くないですか?助けてくれなかったんですよ。父親が落ちたって言うのに、まるで蜘蛛の巣に引っかかって慌てている蝶々を指さして笑っている人間みたいに笑うんです」

「例えが分かりにくい」



独特な例えで天光琳は思わず笑ってしまった。

仲の良い兄弟だ。そういえばこの二神が話しているところはあまり見た事がなかった。

こんなに仲が良いとは思っていなかったため、少し驚いている。



「でも笑ってもらえたなら、父としてそれで良いと思うんです」

「......まぁ、確かにそうだな。しかし俺はお前のように誘われないし、誘い方も分からない」

「突然誘うと逆に驚かれてしまうかもしれないですね。やっぱり少しずつ、光琳と話していけば良いと思いますよ。家族なのですから、難しいことではありません」



家族だから......と言うが天宇軒にとってどれほど難しいことか。

天宇軒は頭を抱えた。



「それに俺は兄上のように父上のことをよく知っているわけではありません。沐阳さんに育てて頂いたので、どうすれば笑顔になるのか、何となく分かるんです」



天俊杰が亡くなった時、天浩然は三歳だった。天俊杰のことはよく知らない。母親は天浩然が産まれる前にこの国から逃げたため、顔も名前も知らない。

草沐阳が城に来て手伝ってくれるようになったのは天俊杰が亡くなってからだ。そのため、当時三歳だった天浩然は草沐阳に面倒を見て貰っていたが、六歳だった天宇軒は面倒を見てもらう必要は無くなった。仕事のこと、国のことなど、それを教えてもらうだけで充分の歳だ。

そのため天浩然のように子育てというものが分からない。


自分が三歳ぐらいの時、母親は天宇軒立ちを捨て、他国へ逃げだ。天俊杰は子供の面倒など見る暇はなく、子供が苦手な護衛神に面倒を見てもらっていた。まだ幼いと言うのにマナーだの読み書きだの叩き込まれ、正直愛というものを感じなかった。


どうしたら子供が笑うのか分からない。自分が子供の頃、笑ったことがない。されてこなかったことは、いくら考えても分からないのだ。



「簡単に親を嫌う子供はいません。兄上は嫌われるんじゃないかって思ってやらないことが多いのです。なんでもやってみれば良いのですよ」

「お前は軽々しく言うが、俺にとっては難しいことなんだ」



天宇軒はため息をついた。





あと十万文字ぐらいで完結まで持って行けそうなので、そろそろ新作を考えております。


次は後宮系にするか、ガチの中華ファンタジー(漢時代)で行くか、また神系で、神が八岐大蛇と契約をする話か......って考えております!

後宮系はやっぱり恋愛ですよね......恋愛苦手なのです。でも一度は書いてみたいです。

ガチの中華ファンタジーとは、今回みたいな和風なのか中華なのか分からない中途半端なものではなく、ちゃんと中華風なお話です。

中華ファンタジーと言えば恋愛系かBL系が多いですよね......。バトルものにしてみたいです。

神が八岐大蛇と契約するのは、鬼使神差と内容が結構被りそうなので、没になるかもしれません。

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