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鬼使神差  作者: あまちゃ
-闇- 第一章 アタラヨ鬼神国
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第二十六話 秘密

「おはようございます。鬼神王様」

「あ...おはよう」



朝、着替えの手伝いに来てくれたメリーナとともに部屋を出ると、廊下でシュヴェルツェとすれ違った。シュヴェルツェはいつもと変わらず、微笑んでいる。



「ごめんなさい。昨日変なこと言っちゃって」

「変なこと......?ふふ、別に気にしていませんよ」



シュヴェルツェは鬼神王の肩に手を置く。そんなこと気にしなくて良い。と言っているかのようだ。

鬼神王は安心して微笑んだ。やはりシュヴェルツェは優しい鬼神だ。そんなことで怒ったり避けたりはしない。



「さて。今日は久しぶりに人間を不幸にしに行きましょうか」

「そうだね」



今日は特にやることがなかった。暇で一日ダラダラ過ごす訳にはいかない。

......というか、王であるのにこんなに暇でよいのだろうか。アタラヨ鬼神国は平和すぎる。少し事件が起きても良いと思うのだが......まるで絵本の中の世界かのように平和な日々が続いている。



「なんでこんなに平和なの?」



城を出て、塔へ向かう途中。歩きながら鬼神王は聞いた。すれ違う鬼神、皆笑顔で楽しそうだ。世間話をする女鬼神。戦いごっこをしている子供鬼神。日向ぼっこをしている年老いた鬼神たちなど。赤子の泣き声すら聞こえないこの平和な空間。少し違和感を感じてしまう。



「全ては鬼神王様のおかげです」



この平和な世界の中で、大怪我をし、右手を失ったのは鬼神王だけだ。昔はこんなに平和ではなかったのだろう。自分は神々と戦い、勝利したのだが、鬼神の力を使いすぎて眠りについた......そういうこと考える。となると、今は敵が存在しない。平和以外ありえない。



「それに鬼神は神とは違い、喧嘩をしたり、殴りあったりはしない。皆自分以外の誰かのことを大切に思っている。まれに"例外"がいるが......神と比べて少ない。思いやる心が強いのですよ」



へぇ......と鬼神王は二回頷きながらいった。隣でメリーナはそうそうと小さな声で言う。

力比べの際、サイフォンの口を抑えていたウェルシャはシュヴェルツェの言う"例外"に入るだろう。それ以外はみな優しい。

相手と意見が合わなかった際は自ら譲り合う。

それに比べて神は人間たちと同じで......



(同じ......?)



なぜ神と人間が同じだと思ったのだろうか。神や人間のことはまったくと言っていいほどしらない。

分かるはずがない。恐らく適当にそう思っただけだろう。



「鬼神様ーー!!」

「遊ぼー!」



突然目の前に八神の鬼神が現れた。そのうち一神は手にボールを持っている。誕生してから六年〜八年ぐらいの鬼神たちだ。

この鬼神たちとはよく遊んでいる。街で歩いているとよく声をかけられ、一緒に遊ぶのだ。その様子を見て鬼神たちは微笑む。まさかこの国の王が庶民と一緒に遊ぶなんて、普通はありえないだろう。しかし鬼神王は泥まみれになるほど思いっきり遊んでいる。そのため、鬼神王の好感度は爆上がりだ。



「ヴェル、少しだけ......」

「良いですよ」



シュヴェルツェがそう言うと、八神の鬼神たちは飛び跳ねて喜んだ。

シュヴェルツェは近くのベンチに足を組んで座り、メリーナはその近くで立つ。

鬼神王は楽しそうに遊んでいる。その様子を見つめながら、シュヴェルツェは話し始めた。



「最近鬼神王様の元気がない」

「えっ?そうですか?」



今も楽しそうにしている。元気がないようには見えない。



「何か言っていなかったか?」

「特になにも」



メリーナは鬼神王をじっと見つめたが、やはり元気そうに見える。シュヴェルツェが何を言っているのかよく分からない。適当なことを言ってんじゃねぇ。そう思った。



「何か気になることを言っていたら直ぐに報告しろ。隠したら直ぐにバレるからな」

「鬼神王様が秘密だと言っても......?」



シュヴェルツェは少し間を取ってから言った。



「言え」

「酷いですね。なぜそこまで聞きたいのですか?」



メリーナがシュヴェルツェを睨みながら言うと、シュヴェルツェはため息をついた。



「全ては鬼神王様のためだ」

「何を言っているのですか。私には可哀想だとしか思いませんよ。誰しも秘密にしたいことはあるはずです。私は鬼神王様との約束は絶対に守ります。なので言いませんよ。貴方に何を言われたって、絶対に言いません」



メリーナはいつもより低い声でシュヴェルツェにそういった。メリーナが言っている間、シュヴェルツェの表情はじわじわと暗くなっていった。



「ほぉう。ではお前をクビにすると言ったら?」

「......」



メリーナはなにも返せなくなった。それだけはやめて欲しい。

大丈夫だ。鬼神王が泊めてくれる......そう思ったが、鬼神王は止めてくれるのだろうか。だんだん不安になってきた。



「お前は雇われてる側なんだ。俺はいつでもお前をクビにすることができる。元々俺がお前を勝手に選んだんだ。なら勝手にクビにしても問題は無い。鬼神王様が好む側近をまた連れてこればよいだけだ」

「......はぁ。......分かりましたよ」



メリーナは小さな声でそういった。しかし、返事をしたものの、どうするべきなのか困っている。鬼神王との約束を破り鬼神王の側にずっといられるのか......鬼神王の約束を守りクビになるのか。



(私は鬼神王様の側近......)



メリーナは楽しそうに遊んでいる鬼神王を見つめ、手を強く握りしめた。

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