第二十五話 話
鬼神王はそろそろ帰ろうかと思い、立ち上がろうとした。その時、ルーシェは急いで鬼神王を止めた。
「待って、最後に。鬼神王、一つ聞きたいことがある」
「なんですか?」
「ヴェルと戦って、なにか気になることはなかったか??」
「気になること......」
ルーシェは右手を顎に当てた。気になること......今日の力比べのことを思い出す。......そういえば。
「......あ。でも......これは僕の思い込みかもしれないです」
「大丈夫だ。言ってみろ」
思い込みでも良い。ルーシェは鬼神王も同じことを思っているのではないかと思っている。二神とも意見が一致すれば思い込みでは無い可用性が高まる。
「手加減......しているような気がします」
「!」
一致したようだ。シュヴェルツェが手加減しているかもしれない。そう思って、ルーシェはずっと気になっていたのだ。
「アイツの戦い方、どうも本気を感じられない。俺はアイツに負けたが、あれが本気だとは思えない。俺もアイツは手加減しているように感じる」
ルーシェはシュヴェルツェに負けたが、手加減しているのだと思う。鬼神王は勝ったため、シュヴェルツェが弱く感じ、手加減しているように感じられただけなのかとどもっていたのだが......負けたルーシェが言うなら手加減している可能性がある。
「アイツの攻撃の威力にはばらつきがある」
「そうですよね。一撃が強い時もあれば、弱い時もある......」
鬼神王がそういうとこルーシェは頷いた。やはり同じだ。
「手加減しているのに俺は負けたって思うと、アイツの顔殴りたくなるな」
鬼神王は苦笑いをした。気持ちは分かる。負けた相手が手加減をしていたらかなりダメージを受ける。逆に勝ったが負けた相手が手加減していたらそれはそれで嫌だ。正直喜んでよいのかわからない。鬼神王だったら喜べない。
果たして今回のは喜んでも良いのだろうか。
「なぜ手加減しているのでしょうか」
「俺もずっと気になっている。鬼神王だけに手加減しているなら分かるが、俺にも手加減している。理由が全く分からない」
二神はしばらく真剣に考えた。しかしどれだけ考えても答えらしきものは思い浮かばない。
「ダメだなぁ」
「考えてると眠くなってきちゃった」
鬼神王はあくびをする。いつもは深い眠りについているころだ。それに比べ、ルーシェはまだ眠そうではない。さすがだ。
「そろそろ寝ろ」
「そうします」
鬼神王はもう一度あくびをし、目を擦った。時刻は午前二時三十分。かなり夜更かしをしてしまった。明日起きれるだろうか。
鬼神王は立ち上がると、くるっとルーシェのほうに振り返り、微笑んだ。
「ルーシェさんと話せて楽しかったです。また話しましょうね!」
「ああ」
最初は恐ろしいイメージしかなかったが、話してみると意外と話しやすい鬼神だ。
メリーナがあんなに気軽に絡んでいた理由がわかる。
鬼神王は手を振り、小走りで城に戻って行った。
その後ろ姿をルーシェはじっと見つめる。
「鬼神王......面白いやつだ」
ルーシェはフッと笑い、立ち上がる。そしてコツコツと音を立てながら、城とは反対向きへ向かって歩いていった。




