第十五話 花見会
花見会当日になった。
外に出ると、屋台が並び、賑やかでお祭り状態だった。
また、桜の木にはイルミネーションやラメが付いていて、いつもより美しい。
どの神々もいつものラフな格好ではなく、ドレスを着たり、キラキラしたアクセサリーをつけたりなど、オシャレをして楽しんでいる。
そして異国の神々も訪れ、より賑やかになっている。
天光琳はどんな屋台があるのか見たくてたまらなかった。しかし、天家は異国の王一族と花見会をしなければいけない。
神界には、沢山の国が存在する。
神界は広いため、全国を招待することはさすがに出来ない。
今日は九ヶ国、明日は七ヶ国、明後日は八ヶ国の神々が訪れる。
各国の王一族は、桜雲天国の中心にある城の近くの広場に一卓の大きなテーブルが用意されているため、そこでお菓子やお茶を飲みながら花見会を楽しむ。
席は自由なため、人見知りの天光琳は天麗華の右隣に座った。
天俊熙は天李偉に連れていかれたため、席は結構離れてしまった。
天光琳の左隣には天万姫が座り、天万姫の隣には天宇軒が座っている。
「万姫、久しぶりだな」
ある異国の男性が天万姫の前の席に座った。
「あら、父上。お久しぶりね」
天万姫の父、美梓豪、玲瓏美国の王だ。
天万姫は元は美万姫で、玲瓏美国の神だった。
桜雲天国と玲瓏美国の仲を深めるため、今は亡き天宇軒の父、天俊杰と美梓豪が話し合って決めた、いわゆる政略結婚と言うものだ。
しかし天宇軒と天万姫は仲が良く、天万姫を溺愛している美梓豪は安心していた。
ちなみに、天光琳と天麗華からすると、美梓豪は祖父にあた
る。
「おぉ〜!麗ちゃんも久しぶりだなぁ......また可愛らしくなった気がするぞ!」
麗ちゃんとは天麗華の事だ。美梓豪はあだ名で呼ぶのが好きなのだ。
「ふふふ、嬉しいわ、お祖父様」
天麗華は嬉しそうに笑った。
「こっちは...琳くんか!随分大きくなって...ん?右手、それはどうしたんだ?」
美梓豪は天光琳の右手を見た。
美梓豪は天光琳のことを心配してくれている優しい神だ。
「これは...その...滑って怪我しちゃって...」
天光琳は天宇軒の方をちらっと見ながら苦笑いをした。
天宇軒は聞いていないようなので安心した。
「大丈夫か?痛くないか?」
「あ、もう大丈夫です。痛みは治まりました」
天光琳は右手を開いて閉じて、痛まない事を証明した。
それにしても美梓豪と話すのは何年ぶりだろうか...。
天光琳はまだ他国に行ったことがないため、美梓豪が桜雲天国に訪れた時にしか会えない。
そのため、少し緊張した様子だ。
「おぉ、それなら良かった!...ところで神の力の方はどうだ?」
「全然ダメなんです......」
天光琳は下を向きながら言った。
「そうか...わざわざ聞いて気分悪くさせちゃって申し訳ない」
「いえ!そんなことは!!」
天光琳は作り笑いをして平気だという姿を見せた。......平気では無いのだが。
「天国は確か舞だったよな......そうだ、琳くん。俺に舞を見せてくれんか?」
「えっ!?」
美梓豪の無茶ぶりに天光琳は驚いた。
天万姫と天麗華も驚いている。
花見会を盛り上げるため、広場では舞台が用意されている。
ちょうど今、玲瓏美国の女神が演奏をしている。
玲瓏美国は舞ではなく、演奏をして、人間の願いを叶えるのだ。
桜雲天国の舞と、玲瓏美国の演奏はとても相性が良い。
「この演奏に合わせて舞ってほしいなぁ」
美梓豪は天光琳にそこで舞をしてほしい...と言っているようだ。
「父上......」
天万姫は天光琳の気持ちを考え、首を振った。しかし美梓豪はどうしても見たいと言った。
「わ...分かりました」
揉め事になるのは嫌なので、天光琳は仕方なく舞を見せることにした。
人間の願いを叶える訳では無いため、扇は練習用の物を使う。
天光琳が舞台に向かうと、先程まで演奏していた玲瓏美国の女神達が演奏を辞めた。
(あ......)
天光琳は申し訳ない気持ちになった。王一族を優先するため、女神達は演奏を辞めたのだ。すると美梓豪が大声で言った。
「おーい、そこの女神ちゃんたちー!演奏を続けてくれ!」
「美王様...御意」
そして女神は再び演奏を始めた。
天光琳は舞台にあがり、一礼をした。
各国の王一族......いや、各国の神々が天光琳に注目する。
「あれ...光琳様じゃない...?」
「アイツ......こんな所で恥をかかせる気か?」
「大丈夫なの...?」
色々な話し声が聞こえてくる。
天光琳は一度深呼吸をして目を閉じた。
(大丈夫。落ち着いて...いつも通りに!)
そして扇をバッと開いた。
演奏に合わせて舞う。
玲瓏美国の曲は聞いたことがない。もちろんその曲に合わせて舞ったことすらないのだ。
そのため、振り付けは全て天光琳がその場で考えたものだ。
全身を大きく伸ばし、アドリブだと言うのになめらかに美しく舞う。
慣れた手つきで扇を回したり、飛ばしてキャッチしたり......扇を落とさず華麗な技を見事にこなしていく。
天光琳が動く度、桜の花びらがふわっと舞い上がる。桜がまう度、桜に付けられたラメがキラキラと輝く。
やまない桜吹雪と美しい舞。そして女神達が演奏する音色は天光琳をより美しくする。
演奏に使われている曲は知らないが、どういう雰囲気なのか考え、合わせて舞っている。
終盤になると曲のテンポが早くなった。
それに合わせて、激しめの振り付けをする。
今まで多くの舞をしてきたため、振り付けが被ることはない。
そして、無事に舞い終わった。
天光琳は扇を閉じ、また一礼をした。
すると......大きな拍手が聞こえた。同時に、舞を見ていた神々の声も聞こえてくる。
「アイツ......舞が下手くそなんだと思ってた...」
「なんて美しい舞なの...」
「凄い...」
天光琳は多くの神々に、修行や稽古をサボっていたから、神の力がない......と思われていたのだ。
今の舞を見て、恐らくその考えをする神は減っただろう。
天光琳の舞は桜雲天国の中で一番美しい...と誰もがそう思った。
普通ならば十歳で舞の稽古を終える。しかし天光琳は十八歳になった今でも必死に続けている。努力の塊だ。
しかしそんな天光琳をまだ悪く思う神もいた。
「舞だけ綺麗じゃねぇ...」
「どうせ修行サボって舞の稽古でもしてたんだろう」
「こういう舞台だから綺麗に見えるだけじゃないか。本当に綺麗だったら失敗なんてしねぇよ」
やはり国の評価を下げた神だ。そう簡単には変わらないだろう。
「光琳ーーー!!最高だぁーー!!」
「素敵よー!!」
「ふっ......」
天俊熙と天麗華の声が聞こえた。天光琳は思わず笑ってしまった。
天光琳はゆっくりと舞台をおり、自分の席に戻った。
「琳くん!!本当に素晴らしかった...ありがとう!!」
美梓豪は大きな拍手をしながら言った。
「いえいえ!こんなに褒めていただけるなんて思ってませんでした...こちらこそ感謝いたします」
天光琳は嬉しそうに言った。
そうか。美梓豪は、あえて天光琳の舞を神々に見せたかったのだろう。天光琳の舞は美しい、ただの無能神様ではない......と信じて。
その結果、予想を遥かに超えるレベルの舞だった。美梓豪も驚いていた。
すると天俊熙が走ってきて、天光琳の肩に手を置き、天光琳を揺らしながら喋った。
「お前の舞久しぶりに見たけど、マジで凄かった!あんな綺麗に舞えるなんてな!!」
「俊熙、わわ、分かったから...手...手を止めて」
「あ、悪い」
天俊熙パッと手を離した。
天俊熙は力が強いため、天光琳は揺らされて少し痛かった。が、天俊熙には悪気はない。
「光琳...あなた私よりも美しいじゃない、姉も顔負けよ」
天麗華は手を叩きながら言った。
(そういえば、舞をみんなに見せるのは久しぶりだったな......天家以外の神には見せたこと無かったし...)
天光琳は思った。
天光琳は天宇軒の方をちらっと見た。
天宇軒は遠くを眺めている。賑やかなのは好きでは無いのだろう。天光琳は内心、「今の実力をちゃんと見て欲しかった...」と言う気持ちがあったのだが、「舞はできるのになぜ人間の願いを叶えられない」と聞かれたら、答えることが出来ないので、見られてなくて良かった...と思った。
......が。
(ひっ......)
天光琳は背筋が凍った。
遠くの席に座っている天李偉が睨んでいるではないか!
その目は獲物を見つけたワニのようだ。
天光琳は顔を前に戻し、見なかったことにした。
(あれ......?)
気のせいだろうか。天万姫の方を見ると、天万姫はずっと黙り込んで暗い顔をしていた。
「母上...体調が悪いのですか?」
「え?...いや、大丈夫よ。...光琳、舞凄かったわ」
天万姫はパッと笑顔になり、天光琳の手を優しく握りながら言った。気のせいだろうか。
きっと疲れていて、ボーッとしていたのだろう。
「ありがとうございます」
天光琳は笑顔で言った。
この後天光琳はゆっくりと花見会一日を楽しんだ。
異国の名物を食べたり、お話をしたり。
たまに神の力が使えないことを遠回しにバカにしてくる神もいたが、その時は美梓豪や天麗華が助けてくれたので無事楽しむことができた。
お爺様→お祖父様
に変更しました。
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