第十四話 外出禁止
天宇軒は急に歩くのを辞め立ち止まった。
天光琳は天宇軒の背中にぶつかりそうになったが、ギリギリで止まれた。
ここは部屋でも大切な場所でもない、ただの廊下だ。
「......」
「あの...父上...用と言うのは......」
天光琳はなぜ呼び出されたか、だいたい分かってはいるが、天宇軒が何も喋り出さないため、あえて声をかけてみた。
(ん?...いや待てよ...やばい...間違えた!)
天光琳は言葉選びを間違えた。
(普通は失敗したことについてだって分かるものだ。僕はなぜ聞いた!!)
冷や汗をかいた。
「その...えっと......」
「光琳」
「はいっ!」
天宇軒がやっと口を開いてくれた。
「...今日は外出を控えること。ずっと城の中にいろ。」
「...え...?」
(うわぁ......これはめちゃくちゃ怒ってる......)
予想外の内容だったが、恐らくこれはかなり怒っているだろう。
外出禁止とは......遊ぶなってことなのだろうか。いやしかし、外出出来なければ修行も舞の稽古も出来ない......。
(もしかして......天家の恥の僕は隠れてろってことか...!?)
天光琳は気づいてしまった。そうだとすると辻褄が合う。外出禁止という事は、天光琳は国の人に見られることは無い。
昨日天宇軒が言っていた、いくら頑張っても無理だ...というのは諦められているってことだろう。
修行と稽古をしても無理ならば、天家の恥は隠れていろ。これ以上天家に恥をかかせるな......という意味なのではないか!?
「分かったか?」
「は...はい......分かりました...」
天光琳が返事をすると、天宇軒はその場から去ってしまった。
「はぁ...」
天光琳は深いため息を吐いた。
(今は李偉様と李静さんに会いたくないから...大人しく部屋にいよう)
そう思い、天光琳はゆっくり歩いて自分の部屋に行った。
✿❀✿❀✿
天光琳は部屋で舞の稽古をすることにした。
大きな鏡を自分の前に置いて、自分の姿を見ながら舞う。
(舞は悪くないと思うんだけどなぁ)
神の力が出ない...という事は修行が足りていないのかもしれない。
神の力は舞をしなくても使えるのだ。しかし、国によって様々だが桜雲天国では舞ををしないと人間まで力は届かない。
(でも部屋では修行出来ないし......)
修行は神の力を高める。ある程度高くならないと、神の力は使えない。
十歳になり、神の力が使えるようになると修行は必要無く、人間の願いを叶えて、更に力を高めていく...これが普通なのだ。
(あ...そういえば包帯変えなきゃ......)
天光琳は舞をしている時に傷口が開いたことを忘れていた。血は止まっているが、血が滲んでいる包帯のままだと不清潔だろう。
天光琳は引き出しから包帯を取り出し、血が滲んでいる包帯を外し、ゆっくりと巻いた。
(これでよし)
やることが無いためゆっくり巻いたが、そこまで時間はかからなかった。
「あぁ暇っ!」
やることが無い。天光琳はベッドで横になった。
いつも皆は何をしている?
天光琳はほぼ毎日修行と稽古で一日を終わらせているため、外出禁止になった今、何をやればいいのか分からなかった。するとその時。
「光琳、いるかー?」
この声は天俊熙だ。天光琳は勢いよくベットから下り、直
ぐに扉を開けた。
「いるよっ!」
「おぉ...やけに嬉しそうだな...」
そりゃそうだ。やることが無く暇だった。
話し相手が増えると誰だって嬉しいだろう。
「どうしたの?」
「やることなくなったんだ。お前の姉ちゃんが俺の仕事全部持ってっちゃってさぁ.....酒持ってきたし、話そうぜ!」
天俊熙は嬉しそうにお酒二升を抱えていた。
きっと天麗華は天光琳が外出禁止になったことを知っていて、あえて天俊熙の分の仕事を貰ったのだろう。さすがは姉だ。
「やった!入って入ってー」
天光琳は笑顔で天宇軒を部屋に入れた。
とりあえず暇では無くなったため良かった。
二神は座り、お酒を飲みながら話を始めた。
「いいな...僕も国の仕事したい......」
「結構大変だけどな...」
天光琳はコップを両手で持ちながら言った。
天家の神は国の仕事をしなければならない。
国の神々の意見を聞いたり、国の年間スケジュールを考えたり。
一番面倒な仕事は、誰がいつ、どこの神社の、どのような人の、どの願いを叶えたかまとめる仕事らしい。
一日に数万件もくるのでかなりしんどいそうだ。
国の仕事は人間の願いを五十回以上叶えた国王一族しか出来ない。
しかし手伝う程度ならば誰でも出来る。......と言っても、書類分けだったり、お茶を運んだり......国の仕事を手伝う...というよりは、国の仕事をしている神を手伝うという事だ。
天光琳も昔は少し手伝ったりしていた。
今は十八歳になっても神の力を使えない焦りから余裕がなく手伝えていないのだが......。
「あれ、そういやお前、その手どうしたんだ?」
「あー...これは...滑って岩で切れちゃった」
天光琳は苦笑いしながら言った。
本当のことを言おうとしたが、『湖に落ちて流されそうになり、岩に掴んだら滑って切れた』とは、さすがに恥ずかしくて言えない。
「昨日の夕食の時は包帯巻いてなかったよな...」
「そうだけど...」
天光琳はドキッとした。
「...まさか夜中にも修行しに行ったのか!?」
「あー、...そう、舞の稽古だけどね...」
バレた...と天光琳は思った。いや、バレないのにも無理があるだろう。恐らく天万姫と天麗華も気づいているだろう。
「どっちも同じだわ!なんで夜中にも......あ...いや、なんでもない」
天俊熙は続きを言うのは辞めた。「なんで夜中にも詰め込む必要があるか?」と聞きたかったのだろう。でも答えは聞かなくたってわかる。
天光琳はかなり焦っている状態だ。それに昨日天俊熙が遊びに誘ったのが原因かもしれない。修行と舞の稽古の時間を奪っておきながら、聞くのは良くないだろう。
「ごめん...」
「えっ、何が!?」
天光琳にはさっぱり分からなかった。
天光琳は、天俊熙が遊びに誘ってくれたことは嬉しかった。
修行と舞の稽古の時間を奪われた...なんて一切思っていない。
「あっ、そうだ、この間さ!」
天俊熙はこの場を盛り上げようと、話題を変えた。
「城の近くの池に落ちたヤツがいるんだよ!」
「え、どうして!?」
天光琳も表情を変え、話に興味津々だ。
「......誰だと思う?......それ、俺の父上なんだよ...」
「ホントに!?」
「もー、腹抱えてわらっちゃってさぁ」
何とか話は盛り上がり、この後、二神は夕食の時間までのん
びり話した。
そして天光琳は何とか楽しく一日を終えることができた。
 




