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鬼使神差  作者: あまちゃ
-光- 第十章 鬼使神差
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第百四十二話 不器用

数日後。



『そういえば眞秀様最近物忘れが多くない?』


『あーわかる。この前なんて俺の年齢間違えてたし』



千秋は毎日病室に来て、京極庵と話をする。

そして日が暮れると今度は四時間ほど修行と稽古をしに行き、家に帰るという生活を送っていた。


京極庵の言った通り、千秋は息子のように可愛がられた。

しかし千秋はなんだか申し訳ない気持ちになった。

そのため、朝早くから城へ向かい、病室へ行き話をする。迷惑をかけないためにも、京極庵のためにも家にいる時間は少なかった。


京極の両親は毎日病室へ来てくれるのだが、来るのは一時間ほど。

愛されていない訳では無い。お見舞いにしてはこれが一般的、むしろ少し長いぐらいなのだ。

しかし一生動くことが出来ない京極庵にとっては短く感じた。


親ではなく友人の千秋は何時間もいて、話をしてくれるのに比べ、両親は一時間程度だ。

さらに、千秋は両親に可愛がられている。

少し心がモヤモヤとしていた。



(こんな体ならあの時、伽耶兄と一緒に死んだ方が幸せだったかもしれない)



しかし千秋は京極庵の気持ちを察している用で、家にいる時間は少なく、何も出来ない京極庵の傍で話して楽しませたり、励ましたりしていた。


そしてある日のことだ。



『庵、千秋(ちあき)!桜雲天国が滅びたそうだ......!』



ばんっと扉が開き、二神は驚いた。

京極の両親だ。



『......え?』


『き...聞き間違え......では』



二神は信じられないという顔をした。

しかし京極の父は首を横に振った。

隣にいる京極の母は......いい気味だと言っているかのような顔をしている。恐らく息子をめちゃくちゃにした天光琳が死んだと思っているからだろう。



『天国に鬼神が現れ......天国の神々は皆亡くなったそうだ』


『......』



千秋は下を向いた。

両親には何も言わずにここに来てしまった。

嫌いだと思っていた両親だが......亡くなったと聞くと心が痛む。

眉間に皺を寄せ、手を強く握っている。その手は震えている。

京極の父は千秋の父と仲が良かったため、暗い顔をしている。

また会えると思っていたのに、もう会えない。


千秋に燦爛鳳条国にいると秘密にして欲しいと頼まれたため、言わなかったのだが、もし燦爛鳳条国にいると教えていれば......助かっていた可能性がある。



『鬼神はこれだけでは終わらないと思う。もしかしたら......他国も滅ぼす...いいや、神界ごと滅ぼすつもりなのかもしれない。......そうなると、鳳条国も例外では無い』



京極の父は外を眺めながら言った。




そして今日のことだ。



『なんだか外が騒がしいね』


『暗くないか......?』



二神は異変に気づき、千秋は窓を開けた。

すると、外は曇り、街の方は騒がしい。



『......えっ』



千秋は目を丸くした。

恐ろしいものを見たようだ。



『どうした......?』


『あれは......鬼神......』



鬼神と聞いた瞬間、京極庵の心臓の音が大きくなった。

鬼神が現れたら終わりだ。



『逃げよう』


『逃げる......?俺はどうやって......』


『か......担いでく』


『無理だろ』



千秋は京極庵より身長は高いが、痩せ型体型で担ぐにしても難しそうだ。


外からは悲鳴が聞こえてくる。もう時間が無い。どうするべきなのだろうか。千秋が焦っていると、京極庵は口を開いた。



『いいよ。俺はここに残る。お前だけ逃げろ』


『......え?』



そういえば京極庵は焦っている感じがない。最初から逃げないつもりなのだろう。



『なんで......?』


『俺は逃げたって何も出来ねぇし、このまま生きていても神としてどうなのかなって思ってな。......それに...伽耶兄に会いたい』


『......』



生きるのが幸せとは限らない。

間違えなく京極庵にとって、何も出来ないのに生き続けるのはきついことだろう。



『それに......光琳が鬼神に取り憑かれてるって......聞いたからな』



千秋はゆっくり椅子に座り、眉間に皺を寄せた。

京極庵は動けなくなってしまったため、神の力が使えない。

そのため、どの神とも連絡が取れず、他国の情報も聞くしかない。


千秋は天光琳が鬼神に取り憑かれた......と言うことは、桜雲天国が滅んでから三日後に知った。

しかし京極庵にはあえて言わなかった。

これ以上、辛い思いをさせたくないからだ。



『いつ知ったの......?』


『最近だよ』



どうやら千秋が修行と稽古をしに行っている間、両親に聞いたようだ。

両親は天光琳のことが嫌いだ。

殺されてたまるかと歯を食いしばりながら言ったそうだ。



『俊熙も麗華様も光琳に殺されたってことだから、俺が何を言っても意味がないと思うが、やってみなければ分からない。オレが光琳を止めてみせる』



やってみなければ分からない......というものの、失敗したら命は無い。

それでもやるのだ。

成功したら英雄。失敗したら......天国。

京極庵にとっては......良いことなのかもしれない。



『分かった。僕も残る』


『え...?お前は逃げろよ』


『逃げない。光琳を助けたいんだ』



千秋は外を見た。



『僕......光琳をいじめてたんだ......』


『え?』



千秋は今までのことを全て話した。

睿たちといじめていたこと。

心のどこかで良くないと分かっていたのだが、睿たちが怖かった。

そのため一緒にいじめていた......ということも。



『お前は周りに流されやすいもんな』


『もう少し......器用に生きられたら......』



自分は不器用な神なのだと心の中で強く思っている。


桜雲天国に来たばかりの時、周りの目を気にしすぎて馴染めず、ひとりぼっちだった。

そんな時、声をかけてくれたのが天光琳だった。

それから千秋の生活は変わった。

仲間が増え、毎日が楽しくなった。


天光琳が神の力さえ使えれば......変わることは無かった。

けれど天光琳は(ひと)一倍努力していた。

神の力が使えないのは天光琳自身が悪い訳では無い。


それなのに虐められていた。

それを止めなかった。見ていることしか出来なかった。......というより、いじめていた。


しかし天光琳を庇えば自分もみなからいじめられるかもしれない。


恩神(おんじん)よりも自分のことを優先してしまった。天光琳は自分を犠牲にして他神を助ける性格なのに......。


どうすれば良かったのか......今考えたって意味がない。


もしもっと早く天光琳に声をかけていれば......

そう考えていた次の瞬間......扉が開いた。


そこに居たのは......天光琳だ。



















四神は息を飲んだ。

そうなると一番危険なのは..




グサッと骨を通る音と、べちゃっと液体が飛び散る音が病室内に響いた。京極の心臓はどくんと大きく鳴った。


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