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鬼使神差  作者: あまちゃ
-光- 第十章 鬼使神差
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第百四十話 懐かしい

「さて......次の国は.....」



シュヴェルツェは両手を広げ、術を使いながら言った。

隣には天光琳、後ろにはべトロたちがいる。

風が強く吹き、髪やマントがなびく。

そして隣にいるというのに声が少し聞こえにくい。



「......"燦爛鳳条国"ですね」



そう言うと天光琳は頷いた。

燦爛鳳条国は......昔行ったような気がする。

もう覚えていないのだが。


ここ四年で神界の国は何カ国も滅ぼされており、現在残っている国は片手で数えられるぐらいになってしまった。

どの国の神々も弱い。散々バカにしてきたのに、弱いとは......恥ずかしくないのだろうか。



「準備は良いですか?」


「うん」



天光琳が返事をすると、シュヴェルツェは光を上へと放った。

すると黒い霧で覆われ、目の前は真っ黒に染まった。







「......つきましたね」


「......」



やはり見覚えがある。

来たことがあるようだ。

天光琳たちは燦爛鳳条国の城の前にいるようだ。

空が曇りだし、燦爛鳳条国の神々の不安そうな声が聞こえてくる。

そしていち早く天光琳たちを見た神々は大声を上げ、二神が現れたことを知らせた。

すると神々は流れる水のように素早く逃げ出した。


天光琳たちの後ろにはべトロたちの姿がない。

恐らく燦爛鳳条国の各地に散らばっているのだろう。



「やりますか」



シュヴェルツェが言ったのと同時に、天光琳は忍びのように素早く走り出した。

そして走りながら扇を作り、神々が集まる広場へ行くと、大きく飛び、くるりと一回しながら扇を右から左へ動かした。

すると無数の小さな針が出てきて、神々に刺さっていく。


それだけではまだ死に至らないだろう。天光琳は地面へ着地すると扇を下から上へ動かした。

下から大きな針が出てきて、神々に突き刺さる。


一瞬のことだった。十秒ほどだろうか。



「やりますね」



シュヴェルツェは後ろで手を叩きながら言った。

すると城からたくさんの護衛神が出てきた。

シュヴェルツェはくるりと向きを変え、護衛神を攻撃し始めた。

天光琳はそのまま市場にいる神の命を奪っていく。


ベタ......ベタ......と返り血が飛んでくるが、気にせず攻撃していく。


そして耳障りな悲鳴や鳴き声はもう聞き飽きた。

容赦なく命は散っていく。



(......楽しい)








しばらくすると、周りから生きている神々の姿が見えなくなった。

天光琳は城へ向かおうと、護衛神たちと戦っているシュヴェルツェの横を通り過ぎ過ぎると、シュヴェルツェに声をかけられた。

天光琳は少し離れたところで立ち止まり、振り返った。



「これを持っていてください」


「なにこれ」



リンっと音を立てて、何かが飛んできた。

天光琳は片手で受け取った。

随分と余裕なシュヴェルツェだ。

戦いながら天光琳に話す余裕もあるようだ。



「お守りです」


「へー」



渡されたのは紐がついた黒色の鈴だった。

鈴には蓮の花と蓮の葉が刻まれている。

そして紐は紫色で一定間隔に黒色のビーズが着いている。

それにしてもなぜ今更お守りを。

よく分からないが、天光琳は鈴を右手首にまきつけ、城に向かって走っていった。



「さぁて、そろそろ本気を出すか」



シュヴェルツェはニヤリと微笑み、先程より激しく攻撃をした。






城に着くと自然とある場所へとたどり着いた。

そこは......病室だ。

なぜここへ来たのか分からない。

けれどすごく見覚えがある。


病室の扉を一つづつ開けていき、中にいた神を確実に仕留めていく。

どの神も見覚えは無い。

やはり見覚えがある......というのは気の所為なのだろうか。


すると、ある部屋の扉を開けて天光琳は立ち止まった。

そこには......どこかで見たことがあるような顔の男二神がいた。

一神はベッドで寝転がっており、もう一神はベッドのの子の椅子に座っていたらしく、急いで立ち上がった。



「......光琳......?」


「......光琳!!」



(......あ)



そうだ、思い出した。この二神は......京極庵と......千秋だ。

千秋は桜雲天国の神だったような気がするが......。

それにしても、どんどん記憶が消えていく。

家族のことや他国のこと......色々のことが記憶から消えていき、今や自分が本当に神だったのかどうかすら忘れかけている。



「光琳......殺しはやめて......」



千秋は天光琳の方へゆっくりと歩きながら言った。

そして千秋はあることに気づいた。

天光琳の手首に目を向ける。

ついているものはなんだろう......。

見たところ、その鈴には力が宿されているようだ。



「ねぇ......その手首のもの、外して」


「どうして?」



天光琳は手首を見た。

これはシュヴェルツェが先程くれた守りの鈴だ。

なぜこれを外せと言うのだろうか。

すると廊下からバタバタと足音が聞こえ、天光琳は振り返った。



「母さん父さん!」



見覚えのある女神と男神......京極庵の両親だ。

天光琳はある記憶が蘇ってきた。

階段から突き落としれたり......頬を殴られたり。

特にこの女神には良い思い出がない。


自分は悪くない。全く関係何のに責めてきた。

他神(たにん)のせいにして少しは気が楽になったか?


天光琳は扇をだした。

そうだ思い出した。



「ずっとお前を殺したかったんだ」


「......っ!!偉そうに......この神殺しがっ!!」



そう言って京極の母は扇子を二つ取り出した。

隣にいる京極の父もだ。



「母さん、父さん、待って!!」



遅かった。

京極の両親は扇子を使い、攻撃を放つと同時に天光琳も攻撃を放った。

京極庵の声は放った攻撃の音でかき消されてしまい届かなかった。


天光琳が出した無数の針が勢いよく飛んできて、咄嗟に千秋は防御結界を張った。

そういえば......千秋は扇子を持っている。

しかし結界はすぐに壊された。

京極の両親は二神を庇うように前へ立ち、針が体全身に刺さった。

ドサッと大きな音を立てて二神は倒れる。


千秋と京極庵は目を丸くした。

京極庵は首から下が麻痺しているため、下で倒れている二神の様子がよく見えないが、天井や壁飛び散った血の量を見ると......それは二神の死を表している。



「父さん...母さん......?」


「......庵......見ちゃ...ダメだ......」



即死だろうか。刺されたなら、直ぐに死ぬ訳ではなく、数秒ほど意識はあるだろう。苦しそうな声が聞こえたり、弱々しい声が聞こえたりするはずだ。

しかし今は二神の声は聞こえてこない。

......ということは、頭と体が離れてしまったのだろうか。


千秋の顔は真っ青だ。

見てはいけないものを見てしまったかのような表情を浮かべている。


そして天光琳は扇を消し、頬に飛び散った血を左手で拭き取ると、千秋と京極庵の方へと目を向けた。



「...光琳......」


「お前......」



千秋はゾッとした。

そして京極庵の声は震えている。怒りが混じっているようだ。



「お前、いい加減にしろよ......」



このような状況でもよく天光琳に怒りをぶつけられるな......と千秋は驚きを隠せず、京極庵の方を向いた。

京極庵の目には涙が溢れていた。



「どれだけ俺から大切なものを奪ったっ!?伽耶兄も俺の自由な体も母さんも父さんも!!」



天光琳のせいでは無いと言っていたものの、心のどこかでは天光琳のせいだと憎んでいたところもあるのだろう。

自由に動けなくなり、兄も死に、平気でいられるはずがない。

四年経った今でも京極伽耶斗は戻ってこないし、動けない。

神であるのに何も出来ず、寝たきり状態の京極庵にはストレスが溜まり続けてしまう。

日に日に天光琳を憎む気持ちが高くなってくるのも無理は無いだろう。



「嘘つき。僕のせいじゃないって言ったのに」


「お前のせいだ!!お前のせい、全部お前のせいなんだよっ!!!」


「庵......」



千秋は止めようとしなかった。

その通りである...という意味では無い。

どうすれば良いのか分からないのだ。正解が分からない。



「全ては悪神のせいだって......思ってた。それなのに、お前があの悪神と手を結び、お前が悪神になっちゃったら......お前を責めちゃうじゃないか......」



京極庵は鼻をすすり、小さな声で言った。

目を擦りたくても手が動かない。

涙は流れ続けるばかりだ。



「光琳......言ったよな......今度、また遊びに来るって......次は俊熙も一緒にって......約束したよなぁ......」


「......」



そんな約束したのか?

思い出せない。記憶にない。

俊熙......誰だろう。友人だったのだろうか。

もう桜雲天国のことは全て忘れてしまった。



「なんで二神とも死んでんだよ......」



死んだ?天光琳は死んでいないが......。

一体何を言っているのだろうか。

京極庵の目の前にいるのは、天光琳だ。

死んではいない。



「光琳、その鈴を外して。そうすれば楽になるから。僕たちは光琳を殺したりしないし、傷つけたりもしない」







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