第十三話 失敗
結果は全て天宇軒がいつも国の仕事をしている部屋に送られらる。
天宇軒の机の上に置いてある水晶玉に名前と結果が送られる。神である限り失敗などありえない。しかし失敗をすると水晶玉が赤く光る。
そのため、天光琳が失敗すると天宇軒には名前を見なくても結果が分かってしまう。
今日も赤く光った。
赤く光ると、書類に書き込みをしていた天宇軒はペンを置き、不機嫌そうに水晶玉を見た。
"《天光琳》
○○神社 二十代の女性の願い 失敗
△△神社 六十代の男性の願い 失敗
☆☆神社 三十代の男性の願い 失敗"
「......」
結果を見た天宇軒は頭を抱えた。
✿❀✿❀✿
「あ、ほら出てきた、天光琳よ」
「天光琳様...今回ももダメだったみたいね...」
「アイツ本当に天家の神なのか...?」
「評価下げやがって」
「俺の方が強い自信ある...なーんて」
「あはははは、それはそうだな!」
塔から出た天光琳は下を向きながら歩いた。
結果は城にある水晶玉に映し出されるだけではない。塔の最上階にも水晶玉がある。ガラス張りのため、外からも見えるのだ。
しかし塔の上にある水晶玉は、名前は映し出されない。
人間の願いを叶えると、透明な水晶玉が光り、その部屋は光で映し出された桜が散る。
だが、願いを叶えられなかった場合、城と同じで水晶玉は赤く光る。
もちろん、失敗するのは天光琳しかいないため、赤く光ると天光琳が失敗した......と分かってしまうのだ。
これは、とても可哀想なことなのだが、桜雲天国で決められたことではなく、神界で決められたことなのでどうすることも出来ない。
今日は異国の神々を呼ぶ花見会に向けて国全体が準備中のため、いつもよりバカにしたり、笑ったりする神は少ないのだが、それでも天光琳の心は痛む。
(仕方ない...こう言われるのも当たり前だ)
神の力を使えない自分が偉そうに言えない。天光琳はそう思った。
「光琳様...」
「......?」
天光琳は誰かに名前を言われ振り返った。......が後ろには誰もいなかった。
(きの...せい......?)
声は真後ろから聞こえたような気がした。恐らくあの声は男性の声だ。...気のせいなのだろうか。
(きっと疲れてるんだ...)
天光琳はそう思いながらゆっくりと歩いて城に戻った。
✿❀✿❀✿
城に戻った天光琳は、廊下で天李偉と天李静の二神とすれ違った。
天光琳は会釈をして、そのまま通り過ぎようとしたその時。
「あら光琳。あなた今日も失敗したのね」
天李偉はオシャレ用の扇子で口元を隠しながら言った。天李偉の見た目はとても美人で人気が高いのだが、実は性格がものすごく悪い。
特に天光琳には......いや、天光琳だけに冷たいのだろうか。天李偉は天光琳が嫌いなのだ。
天李偉の弟である天俊熙や末っ子の天李静にはとても優しい。
そのため、小さい頃から仲の良い天俊熙でさえ、天李偉が天光琳だけに冷たいことに気づいていないのだ。
「可哀想〜。天家の神として恥ずかしくないのかしら?」
「......」
天光琳は下を向いたまま何も言わない。言わない方が良いだろう。
「あら、黙っちゃって。年下のくせに偉そうじゃない?宇軒様の息子だからって偉そうにしないでよねぇ、天家のクセに国の評価下げちゃってさぁ〜」
天李偉は扇子をパタパタしながら言った。
天李偉は二十歳。天光琳より年上なのだが、この国の王である天宇軒の息子、天光琳の方が位は高いのだ。
しかし神界は人間界より身分の差は小さく、特に桜雲天国ではあまり見られない。
普通の神、王一族の二つしか存在しないのだ。
ちなみに桜雲天国では、昔から普通の神と王一族の距離が近い。
そのため、王の言うは絶対...という決まりは無く、普通の神々も意見を出すことが出来る。また、自分が正しい!と言い張る神はいないため、神同士の争いも起きない。
そして、王一族の中でも王、王妃、王の息子、王の娘、王の親戚......と位がある。
女神は女王になることは出来ず、男神は将来王になると決まっている。
しかし、本当は天麗華より天光琳の方が位が高いのだが、桜雲天国ではその位を気にしてはいない。
なので天李偉が言う、『宇軒様の息子だからって......』とは、この国では関係ない話だ。
しかし天李偉だけは位を強く意識しているのだ。そこが性格の悪い一つでもある。
「僕は別に偉そうにはしていません。"李偉様"の言う通り、僕は天家としてとても恥ずかしいです」
本来ならば、天李偉が意識している位では天光琳の方が上なので『様』は付けなくて良い。
しかし、桜雲天国の"普通"として天光琳は位を意識していないため、天李偉が自分より年上という事で『様』をつけて呼んでいる。
「ふーん。分かってるなら、なぜできないの?」
「それは僕の修行が足りていないからです」
「そうよねぇ。私はー......」
(また始まった......)
天李偉はすぐに自分と比べてくる。自分の方が神の力が高いことを自慢しているのだろう。いつも真剣に話を聞く天光琳だが、天李偉の自慢話はいつも聞き流している。
(内容がいつも同じじゃないか!)
始まったらなかなか終わらないので、とりあえず適当に返事をしておくのだ。
...とその時。前から天宇軒が歩いてきた。
天李偉は自慢話をやめ、ひらひらしていた扇子を口元の前に持ってきて、さっと可愛らしい笑顔を作った。
「宇軒様〜!お疲れ様です!何がお手伝いすることはありますか〜?」
「いや、今はない」
さっきまでの冷たい態度はなんだったのだろうか......別人のようだ。
ずっと喋らず隣にいる天李静は天李偉のことをどう思っているのだろうか。口数が少ないため分からないのだが......。
「でも、光琳に用がある」
「えっ?......あ...はい......。」
天光琳は一瞬分からなかったが、今日も人間の願いを叶えられなかったことだと気づき、小さな声で返事をした。
「来い」
そう言って天宇軒は早歩きで前へ進んでいくため、天光琳は天李偉と天李静に会釈をして、早歩きでついて行った。
(怒られるなぁ......まぁ、李偉様のながーい自慢話は途
中で終われたけど......)
良いのか悪いのか分からなくなった。




