第百三十一話 お兄様
「お姉様!!」
二神がそこへ行くと、ドロドロの生物に掴まれ血を流している天李偉とそばでしゃがみこんでいる天李静の姿が見えた。
「......光琳......?」
「え......?」
天李偉がそう言うと天李静は振り返った。
そして天李静は立ち上がって走ってきた。
「光琳お兄様、助けて!!」
「......」
天李静は泣きながら天光琳の服の袖を引っ張った。
しかし天光琳は黙って天李静を見つめた。
「光琳お兄様......お姉様を助けて......」
天李偉は今にでも死にそうだ。
すると天光琳は天李偉の方へ歩いていった。
「光琳......」
「......」
天光琳が近づくと、ドロドロの生物は天李偉を離した。
天李静は助けてくれたのだと安心した。......が。
天光琳は近くで倒れていた護衛神や桜雲天国の神々の手足に糸を付け、操った。
既に死んでいるため、動きが人形のようだった。
そして天光琳は操っている者に悪神の力で作った剣を持たせた。
「......光琳お兄様......なにを......」
すると操られた護衛神は天李偉を襲いかかった。
天李偉は悲鳴をあげる。
「やめて!」
天李静は足が動かず目を閉じた。
今姉はどうなっているのだろうか。
「......光...琳.........あなたを...いじ、めて......ごめんなさい......」
「......」
天光琳はどうせ嘘なんだろう。とりあえず謝っておこうと思って謝っているのだと思った。
天李偉が謝るわけが無い。
そのため、天光琳は聞き流した。
すると天李偉は悔しそうに涙を浮かべた。
「...光...琳......」
そう言って天李偉は目を閉じた。
もう悪口を聞くことは無いだろう。
今まで悪口を言ってきた天李偉は死んだのだから。
そして次は天李静の方をむく。
天李静は酷く震えている。
「どう...して......」
天李静は"鬼使神差"という説話のことはあまり知らない。そのため天光琳が鬼神に操られているなど思っていない。
これはいつも通りの天光琳なのだと思っていた。
しかし違った。
目の前で姉を殺したのだ。
「光琳お兄様......どうしてこんなことをするの...?」
天李静がそう言うと、天光琳は右手を握りしめた。
すると天李偉を襲っていた操られている神々は天李静の方を目掛けて襲ってきた。
「いやっ!!」
しかしもう遅かった。
天李静は喉を剣で突き刺され何も喋れなくなってしまった。
「......、......、!!」
喋ろうとする度口から血が流れてくる。
そして苦しい。息が出来ないのだ。
天光琳は天李静に背を向け、ずっと黙ってそばにいた落暗と共に歩きだした。
天李静はゆっくり立ち上がりフラフラと天光琳について行こうとしたが、落ちていた護衛神の鎧に躓き転んでしまった。
転んだ時に口から大量の血を吐き出したが、それでも何度もついて行こうとする。
すると天光琳は天李静に背を向けたまま右手を動かすと、天李静の首元に糸が絡みついた。
そして......天李静は倒れた。
首を取る前に大量出血で意識を失った。
ここでトドメを刺さなくても時期に死ぬだろう。
天光琳は糸を消し、歩いていった。
目の前でどんどん建物が崩れていき、そこに隠れていた神はドロドロの生物たちに食べられたり殺されたりしていく。
しかし天光琳はなんとも思わなかった。
そしてある目的地へ進んでいる。
そこは......天桜山だ。




