第百二十九話 鬼使神差
「......鬼神が世界を滅ぼしたのではなく、鬼神に取り憑かれた神界の神が世界を滅ぼしたという......」
「い......いやしかし!あの様子じゃ光琳は......取り憑かれたりなんてしてないんじゃないか!?多くの神々に虐められ、嫌になったから鬼神と手を組んだ......!!」
そういうともう一神も頷いた。
神が鬼神に取り付かれるなんてあるか......?
天光琳は神々に対して恨みがあったのだろう。恨まれるようなことしかしてこなかったのだから。
そのため自分の意思で殺しているのだと二神は思った。
「くそっ、光琳め......」
男神は下唇を噛んだ。
まさか天光琳がこんなことをするとは思っていなかった。
無能神様は何も出来ない。だからいじめたって笑ったって仕返しさえできない弱い神なのだ。......そう思っていた。
しかし今、天光琳は神々を多く殺している。
桜雲天国を滅ぼす気なのだろう。
国のお荷物である散々無能神様と皆から馬鹿にされてきた天光琳に殺られるなんて死んでも嫌なものだ。
情けない、そして恥ずかしい......そう思った。
「あのクソチビ、鬼神と手を組んで良い気分か?」
「俺たちの家族や仲間を殺して......許さねぇ。アイツを殺してやる、地獄へ叩き込んでやる!」
「おや?また光琳様の悪口か?」
突然耳元で低く怪しい声が聞こえ「ひっ!」と二神が驚いた時には遅かった。
二神の首と体は離れ、同時に赤い生暖かい液体が飛び散った。
「まだ光琳様の悪口を言うんだな」
殺したのは落暗だった。
落暗は鬼神の力で作り出した剣に付いた血を拭き取りながら言った。
そして転がった二神の体を蹴飛ばした。
ここに天光琳の姿は無い。
天光琳は一神で声が聞こえる方向へ向かっているのだろう。
落暗は心配そうな顔をした。
「さて、戻るか」
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「麗華様!」
「...うそ...でしょ......」
天光琳を探していた天麗華と天俊熙は息を飲んだ。
いつの間にか目の前にドロドロの生物がいた。......その数は十体ほどだ。
二神は逃げようと振り返った瞬間、後ろにも両隣にもドロドロの生物はいた。
「ちっ......光琳はどこだ!?」
「光琳に手を出していたら許さない!」
二神は扇を持ち、天俊熙は結界を張り、天麗華は攻撃を始めた。
二神はくるくると舞いながら協力して見を守っていく。しかしドロドロの生物には攻撃は全く聞かなかった。
これでは神の力が無駄だ。
天麗華は戦いながら解決策を必死に考えた。
......思いつくのは...一つしかない。
天麗華は天俊熙の方を見た。
「俊熙!貴方は逃げなさい!」
「えっ!?」
天麗華は攻撃をしながら天俊熙に言った。
「ダメです、俺も残ります!じゃないと麗華様は......」
「私は偽りだけれど、奇跡の神よ。簡単には死なないわ!」
天麗華はそう言うと、神の力を使い、風を呼び起こした。そして天俊熙を遠くの方へと移動させた。
「麗華様!!」
「貴方は光琳を探して!その間私はその生物たちの囮になる!」
「囮!?」
防御の能力がないのに囮など自殺行為だ。
しかし天麗華は恐れなかった。
「大丈夫、後で合流しましょう!」
結界が無くなり、天麗華はドロドロの生物から逃げながら大声で言った。
天俊熙もこの場で迷っている暇はない。
「わかりました......絶対ですよ!絶対後で合流しましょう!!」
天俊熙は涙を浮かべながらそういい、その場から立ち去った。
涙が止まらなかった。
あんなに囲まれていれば危険だ。それに神の力を大量に消費する。
神の力を使い切れば倒れてしまう。
しかし天麗華は既に大量に神の力を消費している。
となると......天麗華はもう少しで死んでしまう。
天麗華は『後で合流する』と言っていたものの、もう自分は死ぬのだと覚悟しているのだろう。
天俊熙には何となく分かっていた。
せめて天麗華が命をかけて庇ってくれたことを無駄にはせず、天光琳を見つけ出したい。
天俊熙はそう思い走っていく。
もう体力は限界だ。
しかし立ち止まってはいられない。
(光琳......どうか無事でいてくれ!)
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「はぁ......はぁ......」
天麗華はフラフラになりながら攻撃したり避けたりしている。
攻撃は効かないが、どこかに弱点があるかもしれない。
その弱点さえ見つければドロドロの生物を倒すことが出来るかもしれない。
......が。
「......っ!」
天麗華は背後にいたドロドロの生物に気づかず、腹部を突き刺されてしまった。
天麗華は口から血を吐き出し、倒れ込んだ。
しかし直ぐに立ち上がった。
「ゲホ...ゲホ......っ。光琳は......どこ!?光琳を見つけるで...私は死なないわよ!」
「ここだよ」
「!?」
ある声が聞こえると、ドロドロの生物は攻撃を辞めた。
目の前には......いつもとは違う、天光琳が立っていた。
天麗華は大量出血で立っていられなくなり、倒れ込んだ。
「光...琳......なの......?」
「そう」
天麗華は倒れながらも驚きを隠せなかった。
これは天光琳なのか。
服には大量の血が付いているが、天光琳は怪我をしていない。全て返り血だろう。
そしてこの殺意のある表情......。
「......だめよ光琳......。アイツと一緒にいちゃダメ......」
「なんで?皆助けてくれなかったのに、落暗は助けてくれたんだよ?」
「いいえ、助けてなんかいないわ......光琳、目を覚まして......」
すると天光琳は目を細めた。
「なんで言ってくれなかったの?なんで僕が神の力が使えないって焦っている時、本当のことを言ってくれなかったの?」
「......知っているの...?」
天光琳は下を向き、両手に力を入れている。天光琳の周りには黒い炎が激しく燃えていた。
天麗華は天光琳が力のことを知っているとは知らず、驚いた。
「僕の力を返せ......」
「光琳......」
「返せっ!!」
天光琳がそう言うと、周りで燃えていた炎が針の形に変わり、無数の針全て天麗華の方向に飛んで行った。
天麗華は避けることが出来ず、全て食らってしまった。
天麗華は身体中に針が刺さり、意識が朦朧としている。
しかしそんな状況でも天光琳に謝りたい。
「ごめんな...さい......」
「......」
天麗華はゆっくりと目を閉じた。
天光琳は目を閉じた天麗華を見つめた。
花のように微笑む天麗華は今、血まみれになり目を閉じている。優しい姉は......天光琳が殺したのだ。
すると頭の中に天麗華との思い出が流れてきた。
天麗華に面倒を見てもらっていた時のこと。
天麗華に膝枕してもらった時のこと、おぶってくれた時のこと......など。
何故だろう。目からあたたかいものが流れてきた。
(おかしい......)
涙だ。なぜ泣いているのだろう。
するといつの間にか後ろに落暗がいた。
「大丈夫ですか?」
「うん」
天光琳は目を擦り、前を向いた。
天光琳の視線の先は......城だ。
「多くの神々は城の方に逃げました。行きましょうか」
天光琳は頷いた。




