百二十三話 見つからない
「光琳はまだ見つからないのかっ!?」
「はい......」
城中は大騒ぎになっていた。
天麗華が天宇軒に報告し、天宇軒は護衛神に探せと命令した。
天宇軒も波浪とともに城中探し回った。
しかし二時間たっても見つからない。
すると外で探していた護衛神が一神慌てた様子で走ってきた。
「宇軒様っ!!」
「何事だ!?」
天宇軒は何となく嫌な予感がした。
護衛神の顔色は悪かった。恐ろしいものを見てきたようだ。
「先程、街で神々が何者かによって殺されたようです!!」
「どれぐらいだ」
「ざっくり三十名ほどかと......」
天宇軒は眉間に皺を寄せた。
何者か......それはもう誰なのか分かるようなものだ。
「鬼神か......?」
「恐らく......!」
周りにいた護衛神は息を飲んだ。
三十神も一度に殺されたなんて神界では初めてとなるだろう。
「......そこに光琳の姿は?」
「ありませんでした」
天宇軒は安心したのかそれとも焦っているのかよく分からない表情をした。
天光琳は一体どこへ行ったのだろうか。
天光琳がいなくなった直後にこの事件が起きた。
......ということは天光琳に関係する可能性が高い。
「光琳が殺したんじゃ......」
近くにいた護衛神がそう呟いた。すると天宇軒はその護衛神を睨んだ。
「何を言っている!?」
「ひいっ!?」
その護衛神は驚き、一礼してから走って逃げて行った。
天宇軒はため息をついた。
「......ですが...亡くなった神には無数の切り傷がありました......。光琳様は絶対に殺していない......とは言いきれません......」
先程外から戻ってきた護衛神が天宇軒の様子を疑いながらゆっくりと喋った。
天光琳は剣を使っている。
神の力を使えないため、剣を使うだろう。
......しかし神の力が使えない天光琳が一度にあんなに神を殺すことはできるのだろうか。
「いいえ、光琳ではないわ」
天麗華と天俊熙が戻ってきた。
天麗華の手には剣があった。......天光琳のものだ。
「あの子は剣も扇も......何も持たずに行ってしまったの......。亡くなった神々の体に切り傷があったと言っても、光琳の剣はここにあるのだから、光琳ではないはずよ」
天俊熙も隣で頷いた。
そこで天宇軒はあることに気づいた。
「剣も扇も持っていないのか?!」
鬼神が再び現れているというのに剣も扇も持っていないとはあまりにも危険すぎる。
身を守れるものがないのだから。
すると天俊熙はしゃがみ込んだ。
「俺のせいだ......俺があの時......」
「俊熙のせいじゃないわ。自分を責めないで......」
そう言っているが天麗華も自分を責めている。
あの時、部屋に行き天俊熙と話さなければよかった。
そうすれば天光琳は聞くこともなく、今頃いつも通りに過ごしていただろう。
「光琳兄様がいなくなったって本当!?」
天李静が走ってきた。
先程その情報を聞き、走って来たのだろう。
天麗華は悲しそうに小さく頷いた。
「光琳兄様!!」
天李静は振り返り、天光琳を探しに行こうとした......が、しゃがんでいる天俊熙が天李静の腕を掴んだ。
「待て、既にもう三十神ほど殺されている。そんな状況の中一神で歩き回るのは危険すぎるぞ!」
「でも光琳兄様が危ないんでしょ?!次は李静が助けなきゃ!」
天李静は天俊熙の言うことを聞こうとしなかった。
恩神の天光琳が危険にさらされていると知り、じっとしていられないのだろう。
天李静は天俊熙の手を払い、走っていった。
「おいっ!」
天俊熙は天光琳がいなくなってからずっと走り続けていたため、もう体力が残っていない。しかし天李静が危ないため、フラフラになりながらも立ち上がった。
「俊熙、大丈夫。私が行く!」
天李偉だ。
天李偉はそう言って天俊熙のすぐ横を通り過ぎて行った。
「ありがとう、姉様」
「えぇ、俊熙は無理しないで!」
とても優しい姉だ。天光琳を嫌っていたなんて嘘のように思える。
しかし天光琳と天李静が言っていたのだから嘘ではないだろう。
だが今はそんなことなんてどうでも良い。
天俊熙は窓から外の景色を眺めた。
「どこにいるんだよ......」
天俊熙が心配そうに外を眺めていると天麗華も後ろに立ち外を眺めた。
「......はやく見つけなければ光琳が......」
「............」




