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鬼使神差  作者: あまちゃ
-光- 第一章 神の力
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第十一話 思い

「光琳おやすみー」


「おやすみ、また明日」



夕食が終わり、皆はそれぞれ自分の部屋に戻る。天俊熙は天光琳に手を振って部屋を出た。


天光琳も自分の部屋に戻ろうとしたその時。後ろから声をかけられた。



「光琳」



ずっと黙っていた天宇軒だ。



「......はい」



天光琳は今怒られるのか...また何か言われると不安でいっぱいだった。



「明明後日から三日間、この国に異国の神々を呼んで花見会をする予定だ。明日、明後日は準備で国全体は忙しくなる。そのため、人間の願いを叶えるために舞をする神は少ない。だから少ないのを狙って、今週の分の舞を明日終わらせてきたらどうだ」



怒られなくて安心した天光琳だったが、話の内容を聞き、安心してはいられなくなった。

今日から新しい週が始まったため、また三回舞をしなければならないのだ。


天宇軒が言っていることは、桜雲天国の神々は明日から桜の木や建物に飾りつけをしたり、清掃したりなど、様々な準備で忙しくなり、舞をする暇がない。


桜雲天国の神々は恐らく、花見会の期間中に人間の願いを三回以上叶えることになるだろう。


しかし、天家は、花見会の時は異国の神々が来るため、花見会を抜けて、舞をするのは禁じられている。そのためやるなら明日、明後日しかないだろう。


恐らく、明後日より明日の方が、舞をする神は少ないだろう。

明後日だと、準備が早く終わった神が、舞をしに来る可能性が充分ある。なので、準備一日目の方が少ない可能性が高い。



「分かりました...」


「あと、今日の夜、修行と稽古をするのはダメだ。今日はもう寝るといい」


「え......あ、はい......」



さすが父親だ。天光琳は今日修行と舞の稽古をしていなかったため、この後やろうと思っていたのだ。そのため、しょんぼりとした顔をして言った。

すると、天宇軒は眉間に皺を寄せ、『やっぱりな』と思っているような表情をした。



「話は以上。では。」



そう言って天宇軒は長いマントをなびかせ、早歩きで部屋を出た。


親と子の関係でも余計なことは話さない...それが天宇軒だ。話すのが苦手なのか、そもそも他神たにんと関わるのが嫌なのか......。


どちらにせよ、良い気分にはならない。

子供の頃、どのような感じで育ったのか気になるものだ。





(期待は...されてないんだろうな。)



朝、天宇軒が言っていた言葉を思い出し、天光琳はボーッと下を見つめた。胸が苦しくなる。


『お前はいくらやっても変わらない』...と。

もう諦められてるのだろう。期待なんてされるはずがない。


そう思いながら天光琳は部屋を出て、自分の部屋へ......いや、城の裏出口へ向かった。



(次こそは......絶対。)



天宇軒に言われたが、やはり舞の稽古だけでもしなければ気が済まない。誰かに見られていないか当たりをキョロキョロとみながら、早歩きで城から出た。


明日こそは成功させたいのだ。

また失敗なんてするものか―――。



✿❀✿❀✿



天桜山についた。


木々に天灯が吊るされているため、辺りはしっかりと見える。


いつもは草沐阳と小さな小屋で稽古をするのだが、夜遅いため、草沐阳には迷惑をかけないようにと一神で、小屋から離れた滝の近くにある大きな岩の上で舞の稽古をすることにした。



滝の近くには蛍が沢山とんでいる。

人間界では桜が咲いている時期に蛍が見れることはとても珍しいのだが、桜雲天国は年中桜が咲いているため、珍しくはない。


天光琳は修行や稽古をする時の動きやすい服装に着替えず、そのまま私服で舞の練習を始めた。


扇を使って舞を舞う。桜がひらひらとまい、蛍もふわふわと飛びまわる。


その姿は実に美しく神々しい。

しかしいくら舞っても、神の力は出てこない。だんだん天光琳の顔が曇っていく。



(どうして...)



でも諦めない。何度も何度もやり直し、練習を続けた。






軽く二時間続けて稽古をし、疲れきった天光琳はその場で座り込んだ。



(明日......成功させなきゃ......これ以上、人間の悲しむ顔を見たくない。国の評価を下げたくない......。)



いつになったら神の力を使えるようになるのだろうか。

自分が失敗する度、人間達は苦しむことになる。神を信頼し、祈っていく人間達が、神に願いを叶えて貰えず悲しい思いをする。



(まだまだだ)



天光琳は立ち上がり、もう一度練習を始めた。



(何度でもやってやる。今、ここで神の力を使えるようにしてやる!!)



集中して舞う。夜遅く、静かな天桜山の中で一神、美しく舞う。しかし美しくても神の力が使えないと意味が無い。


時々、水面に映る自分をみながら舞ってみたが、特に気になるところは見つからない。やはり他神(たにん)に見てもらわないと見つからないものなのだろうか...。それとも完璧なのだろうか...。



(完璧だったら、神の力は使えるはずだ)



天光琳は首を横に振った。






そして更に一時間が経過した。

流石にもう疲れて動けない...。汗だくになり、その場で座った。



(明日も...無理なのかな......)



天光琳の目から涙が流れてきた。しかし泣いても意味が無い。頬を二回叩き、気分を切り替えた。



(まだ......やれる...)



天光琳はあともう少しだけ...とゆっくりと立ち上がった。その時だった。



「光琳」



後ろから声がした。振り返るとそこにいたのは.....天宇軒だった。


天宇軒は眉間にシワを寄せ、細い目で天光琳を見ている。

天光琳は心臓が口から飛び出るほど驚いた。



「ち...父上!?」


「お前......俺の言うことを聞いていなかったのか?」



天宇軒は怒っている...というより、呆れているようだ。



「...ごめんなさい」



天光琳は天宇軒と目を合わせず、下を向きながら言った。


先程までの舞の練習は意味がなかった。結局何一つ変わることがなかった。


なので、できるのであれば、今すぐ時間を戻して天宇軒の言った通り、素直に部屋に戻って寝たい。

しかし時間を戻すことは不可能だ。



「今日は稽古をするなと言ったはずだ。...なぜ言ったことを守らない」


「それは......その...」



天光琳は小さな声でボソっと言った。


今日は遊んでしまった為、修行と稽古が出来なかった。

だから少しでも練習しようと思ったのだ。


しかし、いくらやっても意味が無いと言う天宇軒には、『そんなの無駄だ』と鼻で笑われてしまうだろう。



(あれ...?)



いや、でも天宇軒は『詰め込みすぎるな』と言っていた。毎日やらなくても良い...と言っているのではなか?......しかし失敗すると怒るではないか。



(どうすればいいの...!?)



天光琳は何が正解なのか分からなくなった。



「......はぁ。思ってることをはっきり言え」



天宇軒は眉間を押さえながら言った。


今思えば、今まで天宇軒に褒められたことはなかった。いくら頑張っても笑って『頑張ったな』と言われたこともない。


自分は天宇軒にどう思われているんだ...と天光琳は考え込んだ。


恐らく、頼りになる、いなくてはならない存在...ではないだろう。むしろいない方が国の評価は上がる。

ではいらない神だと思われているのだろうか。


そう思うとだんだん心臓の血が沸騰しているかのように心がモヤモヤしてきて、天光琳は我慢ができなくなった。



「......父上は......なぜここにいるんですか...」


「どういうことだ?」



天光琳はつい、先程天宇軒が聞いた質問とは違うことを言ってしまった。呆れたような顔をしていた天宇軒の顔が一気に暗くなる。


いつもなら怖い、っと一歩目下がるのだが...今回は違った。



「僕が...稽古をしていないか見に来たんでしょう......そんなの僕の自由じゃないですか」



天光琳は声を震わせながら言った。そして顔を上げ、天宇軒の目を見て言った。



「父上は僕が人間の願いを叶えられなかったら怒るのに、なぜ修行と稽古をするなって言うんですか!?」


「光琳!」



天宇軒は怒鳴った。何か言いたいのだろうしかし天光琳はそのまま言い続ける。



「じゃあ僕はどうすればいいのですか!?ここからいなくなれば良いのですか!?」



天光琳は目に涙を浮かべながら言った。



「なぜ僕は...」



天光琳が言いかけたその時。



「......!?」


「おい!?」



天光琳は足元を滑らしてしまい、勢いよく湖へ落ちてしまった。大きな水しぶきをあげ、天光琳は深くまで沈んでしまう。


滝の近くで水が流れてくるため、水流はとても早い。そして冷たかった。



(やばい!)



天光琳は必死に泳ぎ、なんとか顔を出すことができた。大きく息を吸い、近くの岩に捕まろうとした......が、滑ってしまい、右手の手のひらを切ってしまった。そしてそのまま流されていく...。



(息が...できない...!)



水は天光琳を押しつぶしていくかのように流れ、天光琳はどんどん沈んでしまう。


泳ぎが得意な訳では無いため、天光琳はパニックになり手足をバタバタとさせた。



(...でも...父上はこれでいいのかな...このまま流されれば...)



嫌なことを考えてしまった。

いや、でも案外良いかもしれない。

これで天家のお荷物がいなくなる。


それに天宇軒は助けては―――



「光琳、捕まれ!」



なんと、天宇軒が手を差し伸べてくれた。

天光琳は目を大きく見開いた。助けてくれるとは思っていなかった。

しかし今は驚いている暇はない。


手を一生懸命のばし、何とか天宇軒の手に捕まることができた。そして

そのまま持ち上げてくれたため、天光琳は流されずにすんだ。



「ゲホゲホ...」



水を沢山飲んでしまったが、意識はちゃんとある。しかしずっと俯いたままだ。


天光琳は全身水浸しに、天宇軒も天光琳を持ち上げた時に濡れてしまった。



「大丈夫か...?」



天宇軒は天光琳に聞いたが返事はない。


しかし天光琳の肩が震え、雫がぽたぽたと垂れている。川の水の水滴か......いや、涙だ。


天光琳はゆっくりと顔を上げ天宇軒の方に顔を向けた。



「...なぜ僕は...こんなにもダメな神なのでしょうか......」



天光琳の目からは大粒の涙が流れていた。


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