第百十六話 尊敬
「尊敬......?なんで......」
これも罠ではないかと疑ってしまう。
天光琳は尊敬されることなんて何もやっていない。
「僕さ......知ってるかもしれないけど、本当は鳳条国の神だったんだよね。天国に来たばかりの時......僕は周りの神々と馴染めなかった。鳳条国にいた時もそうだった。唯一話せたのが庵と伽耶斗さんだった。......でも天国に来てからは誰とも話せずに、家族が居ない昼間はずっと一神だったんだ。......でもある日、光琳が一神でいた僕に声をかけてくれたでしょ?一緒に遊ばない?って」
確かに言った気がする。あの時、千秋は一神で湖の前で座っていた。とても寂しそうだった。
そのため、天光琳は一緒に遊ばないかと聞いた。天俊熙や睿立ちには何も聞いていないが、仲間が増えて賑やかになるためダメとは言わないだろう。
そして千秋が仲間になった。
その日だけではなく、ずっと......いや、天光琳が神の力を使えないと分かり皆が離れていった時まで。
「あの時光琳が僕を誘ってくれたから、今はみんなと話せている。光琳のおかげで話すことの楽しさに気づき、今だって普通に色んな神と話すこともできるようになった。......それに、光琳は神の力が使えなくても努力し続けている。......僕だったら諦めているのに、ずっと続けている。......そこがすごいなって思ったんだよ」
千秋は手に持っていた毒針を半分に折り、捨てた。
そして天光琳の近くまで行った。
「ごめんなさい。本当はアイツらと一緒に居るんじゃなくて、光琳や俊熙といたい。周りに合わせなきゃって思って......アイツらと一緒にいたの。それに光琳と遊んでいたら笑われるって言われたけど、笑われてもいい。だって光琳は良い神なんだもん。笑ってきた神の方が悪い神だ」
千秋は天光琳の手を握った。
天光琳は驚いたあと、嬉しくなって目から涙が溢れてきた。
「許してくれないと思うけど、もうアイツらとは居ないから......仲直りがしたい。そして前みたいに光琳と俊熙と遊びたい......」
「いいよ。僕も仲直りしたい。前みたいに仲良くなりたい......!」
そう言うと千秋は安心し微笑んだ。
「ありがとう、光琳」
京極庵が言っていた。千秋は周りに流されやすい......と。
恐らく睿や填可、明貴が天光琳から離れようと言っていたのと、周りの神々が天光琳をバカにしたり笑ったりするようになったことにより、周りの影響をうけ、千秋は睿たちと一緒に天光琳をいじめることを選んだ。
本当は嫌だった。しかし合わせなければまた一神になってしまうかもしれない。
そう思ったのだ。
そして最近、睿たちは天光琳を殺すと言い始めた。
理由は睿たちも天光琳と昔遊んでいたため、それを理由に馬鹿にされることが増えてきたからだ。
毎日のように周りの神々から言われ、ついに我慢できなくなった睿たちは天光琳を殺せば済む......と思ったのだろう。
千秋はいけないことと分かっていた。
しかし周りに合わせることを選んだ。
だが、天光琳を殺したくはなかったため、天桜山であった時も今も、この針の毒針抜いているし、刺す気は一ミリもなかった。
そして前天桜山で出会った時も睿たちといたのだろう。
しかしこの前燦爛鳳条国に行き、京極庵と話した時、京極庵は天光琳のことを話していた。
そこで改めて天光琳の凄さに気づいたのだ。
天光琳はすごい神なのだと。
そして千秋は睿たちといるのはやめよう......そう誓った。
そして今に至るのだ。
「でも......大丈夫なの?僕を殺してないって睿くんたちに怒られたりしない......?」
「んー......するかも」
千秋はそこまで考えていなかったようで微笑した。
これはまずいのではないか?
「でも大丈夫。光琳を逃がしちゃったって言うつもりだし、睿たちの前では今まで通りにする」
「それで大丈夫なの......?」
「多分...ね。だから光琳はなるべく睿たちとは会わないようにして欲しい......」
光琳は頷いた。
自分のためだけではなく千秋のためにも、会わない方が良いだろう。
その時も恐らく千秋は睿たちと一緒にいるはずだ。
睿たちの目の前で殺せと言われた場合、大変だ。
「......でも良かった。改めて...よろしくね」
「うん、よろしく」
光琳と千秋がそう言って握手をしようとした瞬間、街の方が急に騒がしくなった。
「......なに...?」
神々の悲鳴の声が聞こえる。
天光琳は白い布を被り直し、二神は声が聞こえるところまで走っていった。
そして騒ぎの原因を見た瞬間。天光琳の全身は震え始めた。
「なんで......ここにいるの......!?」
なんと燦爛鳳条国の焔光山にいた、京極伽耶斗を殺したあのドロドロの生物が一体歩いていた。
そして地面や壁には大量の血がベッタリとついていた。
「い...いやだっ!食べられたくないっ!!」
「みんな早く逃げて!」
街にいた女神たちは慌てて逃げ回っている。
攻撃するものはいなかった。
恐らく既に何名か食べられてしまったのだろう。......京極伽耶斗のように。
「......はぁ...はぁ......」
「光琳......?」
天光琳はあの時の記憶が蘇ってきて、震えが止まらなかった。
そして腰に差している剣を震える手で握っている。
「ダメだよ、僕たちも逃げよう!?剣は効かなかったって、庵が言ってた!」
「でも!このままだったらみんなが......!!」
と言っていると、また一神食べられたようだ。
グシャッと生々しい音と悲鳴が聞こえ、見た頃には既に血しか残っていなかった。
すると、ある女神がドロドロの生物の前で転んでしまった。
あの女神には見覚えがある......天李静だ!
そう言えは天李静は今日、街に買い物に行くと言っていた。
これはまずい!
ドロドロの生物は天李静に向かって走ってくる。
「......李偉姉様......俊熙......助けて......」
天李静は震えて立ち上がれないようで、目を閉じた。
そしてドロドロの生物が天李静に触れそう......とその瞬間。ドロドロの生物の両腕が飛んだ。
ドロドロの生物が顔を上げると、そこには剣を構えた天光琳がいた。
天李静は天光琳の姿をみて驚いた。
しかし手は直ぐに再生される。
天光琳は何度も斬り続けた。
「光琳か......?」
「剣...使えるのね......」
白い布が取れてしまい、天光琳だとみんなにバレてしまっているがそれどころでは無い。
「李静、今のうちに逃げて!」
「......光琳......」
天李静は立ち上がり、天光琳の方をチラチラと見ながら逃げていった。
ドロドロの生物の攻撃は重い。
小柄な天光琳は飛ばされそうになりながら必死に足に力を入れ耐えた。
「......光琳!」
千秋は持っていた扇を取りだし、先程天光琳に使った麻痺の能力を使った。
......が、ドロドロの生物には通用しなかった。
「やっぱり......庵が言ってた通りだ......」
どうすればよい。
天光琳は重い攻撃を何度も受け止め、そろそろ体力の限界だ。
天光琳の動きも鈍くなっていく。
これでは天光琳が危ない。......そう思った次の瞬間。
「なぜ光琳様に攻撃をしている?」
低くて怪しい声が聞こえた瞬間、ドロドロの生物は真っ二つに切り裂かれて灰のように消えていった。
「お前は......っ!」
光琳は安心出来なかった。
そこには......死んだはずの鬼神が立っていたのだ!
「お久しぶり」
鬼神はニヤッと微笑んだ。
「...なんで......」
「俺は光琳様がいる限り消えることは無い」




