第百四話 毒
その日の夜、夕食の時間はとても静かな時間だった。
星連杰は一神だけ遠くに座り、三神は近くで固まって食べた。
昔は王一族は沢山いて、大勢でここに集まり食べていたそうだ。
それなのに今は......とても寂しい感じがする。
星連杰はめんどくさい男神と聞いていたが、普段はあまり話さないそうだ。
天光琳もだんだん緊張が和らいでいき、星玉風と天麗華と話しながら楽しい時間を過ごした。
......しかしこの後。
天麗華は湯浴みに行き、天光琳は一神で部屋に戻っていた。
すると、近くから星玉風と星連杰の話し声が聞こえてきた。
天光琳はサッと隠れ、二神が過ぎるのを待つことにした。
「玉風。なぜ光琳を途中で呼び出した?......"計画が台無しになった"じゃないか」
(......計画...?)
盗み聞きをするつもりでは無かったのだが、自分の名前が聞こえ、つい聞いてしまった。
「申し訳ありません。......しかし、こうするしかなかったのです」
「なぜだ?」
星玉風の声は朝、星連杰と話していた時のように声のトーンが低かった。
「麗華さんが光琳さんと一緒に食べたいと申しておりましたので......」
一つ引っかかる。
本当に一緒に食べたいと言っていたのだろうか。
確かに天麗華なら言いそうだが、なぜ呼び出した時、その事を言わなかったのだろう。
また天光琳の食べられない食べ物がある......と行っていたことも気になる。
「そんなの断れば良い。なぜ俺の計画というのにそれを邪魔した?お前は俺より偉いのか?......はぁ...」
星連杰はため息をついた。
「もう少しで"光琳を殺せそうだった"のに」
(......!?)
天光琳は驚いて思わず声を出してしまいそうだった。
『殺せそうだった』......聞き間違えではない。はっきり聞こえた。
天光琳の手足は震え始めた。
もしかしたらあの料理には本当に毒が入っていたのか?
「なぜ光琳さんを殺すのですか?」
「光琳は"麗華を我が国の神にするという計画に邪魔な存在"なんだ」
(......姉上を......?僕は...邪魔......?)
訳が分からない。一体星連杰は何を考えているのだろうか。
「最近、二位の国、玲瓏美国が力を上げてきた。恐らく美梓豪は神王になりたいのだろう。我が国はいつ美国に追いつかれるか分からない。だから、お前と奇跡の神である麗華を結婚させれば麗華は我が国の神となる。そうすれば我が国の評価はさらに高くなり、美国に追いつかれることはないだろう」
「そういうことだったのですね」
星玉風はまるで知っていた......かのように軽く返事をした。
まさかそんなことを考えていたとは。
「しかし前回麗華が来た時、俺がお前との婚約の話をしたところ麗華は断った。まだ天国にいたいと。......きっと光琳が国の評価を下げているから、それを何とかするためにまだいたいのだろう」
天光琳は天麗華に婚約の相談をされたなんて聞いたことがなかったため、驚いた。
本来ならば上位の国の神になれるなんて良いことだ。しかし天麗華は断った。
「だから光琳は邪魔なんだ。光琳がいなくなれば麗華は我が国の神になるだろう。今回麗華だけではなく、光琳も我が国に呼んだのはそれが理由だ」
天光琳はだんだん腹が立ってきた。
天麗華を自分の国の評価をあげるために使うとは。
それに......
(姉上には伽耶斗さんがいるんだから)
今でも天麗華は京極伽耶斗のことを想っているだろう。
確かに星玉風はかっこよくて女神から大人気だ。しかし天麗華はそんな簡単に惚れたりはしない。
「とりあえず今日はもういい。明日だ。明日、朝食に毒を混ぜる。今度は邪魔をするなよ?」
「......分かりました」
星玉風は止めることなく、低い声で返事をした。
天光琳はどうすれば良いのか分からなくなった。
明日死ぬのか......?死にたくない。どうすれば逃げられる。
星連杰と星玉風はそのまま通り過ぎ、天光琳は走って部屋に戻った。
部屋に戻ると既に天麗華が居た。
「光琳......?」
「姉上......」
天光琳は泣きながら天麗華のそばで座り込んだ。
「やだ......僕...死にたくない......」
天麗華はなんのことかよく分からず、目を大きく見開いて驚いたあと、天光琳の頭を撫でた。
「ゆっくりでいいから話してくれる......?」




