第百二話 佳宵星国
ついに佳宵星国へ行く日になり、天光琳はトランクと剣、そして新しい扇をもって天麗華と結界の上に立った。
皆がお見送りしてくれている。
「光琳。俺が言ったことは覚えているな?」
目の下にクマが出来ている天宇軒が言った。
昨日も夜中に塔に行っていたのだろうか。
「はい。覚えています......」
鋭い目で見てくる天宇軒と目を合わせるのが怖く、目を合わせずに言った。
一位の国にこんな無能神様が行っても良いのだろうか。
バカにされることが目に見えている。
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
天万姫は相変わらず心配そうに言っている。
二神は手を振り、佳宵星国へ出発した。
✿❀✿❀✿
目を開けると佳宵星国に到着していた。
白いレンガ作りの塔の中にいるようだ。
すると、扉をノックする音が聞こえた。
二神が返事をすると、扉が開いた。
「麗華さん、光琳さん。ようこそ」
「玉風様」
神王星連杰の息子、星玉風だ。
星玉風は身長が高く、整った顔をしている。とても美形だ。
他国の女神から人気で、『いつか星玉風様と結婚したい』と言っている女神もいるぐらいだ。
優しい声質で、あの神王星連杰の息子だとは思えない。
「光琳さんは初めてですよね?初めまして。私は星連杰の星玉風と申します。短い間ですがよろしくお願いします」
微笑んだ顔が爽やかで、女神たちに人気の理由がよく分かる。
天光琳も挨拶をした。
挨拶をした後、三神は神王星連杰のいる大広間へ向かった。
向かっている途中、天光琳は外の景色を眺めていた。
外は明るいというのに、星々が輝いている。
太陽はなく、月が太陽のように眩しい。
人間界ではありえないのだが、神界ではこんなことも有り得る。
夜になるともっと綺麗になるだろう。
大広間に到着すると、豪華な椅子に星連杰らしき神が偉そうに座っていた。
天光琳は背筋を伸ばし、緊張しながら星玉風に着いて行った。
「麗華。...お前は光琳だよな」
「は、はい」
星連杰がそういうと、天光琳はお辞儀をした。
まるで見下しているように天光琳を見つめている。
天光琳はなにか言えばいいのか...と焦ったが、星玉風は察したのか小さな声で「大丈夫です」と言ったため、天光琳は何も言わずに黙って過ごした。
そしてしばらく見つめたあと、天麗華の方を向いた。天麗華を見る目は優しかった。
「よく来てくれた」
「この度もお招きいただきありがとうございます」
天麗華はまるでこの日をとても楽しみにしていました......と思っているかのように、笑顔で言った。
しかし本当は思っていないだろう。
「玉風。二〇五号室と二一七号室に案内してやってくれ」
「分かりました」
星玉風は先程より少し低い声でそういい、「行きましょう」と言って早歩きで歩いていったため、二神も着いて行った。
あまり会話をせず終わってしまったのだが、良いのだろうか。
そして星玉風は先程とは違い、暗い顔をしている。
二神の間に何かあったのだろうか。
「こちらが二神のお部屋です」
(...あれ?)
星連杰が言ってい部屋は確か二つだった気がする。
しかし星玉風が案内してくれたのは三〇六号室。二神部屋だった。
「あ、別々の部屋が良かったですか?......父上は別々の部屋を言っていましたが、光琳さんは初めていらっしゃったのに、離れている部屋は嫌かと思いまして......」
「いえ、同じ方が助かります...!」
天麗華はどちらでも良いという顔をしたため、天光琳がそう言うと、星玉風は安心した。
とても気が利く男神だ。
二神が部屋に入り荷物を置くと、外で待っている星玉風の話し声が聞こえた。
『玉風様、いいのですか?』
『父上には..................って伝えてくれ』
『りょ......了解です』
星玉風が何を言ったのかは聞き取れなかった。
『あと......私たちが光琳に案内するので、玉風様は麗華様と過ごしてください』
『光琳"様"、だろう?失礼すぎるぞ』
外の声がしっかり聞こえるため、天光琳は苦笑いした。
そして天麗華は複雑そうな顔をしている。
(姉上......?)
『父上が言ったのか?』
『あ...はい。そうです』
『分かった。......いいか、光琳"様"だぞ。呼び捨ては失礼だからな』
『はい......』
会話が終わると、扉をノックする音が聞こえた。
天麗華は扉を開けた。
「疲れていませんか?おつかれではなければ、麗華さんに来ていただきたいところがあるのですが......」
「えぇ。大丈夫よ」
天麗華がそう言うと、星玉風の後ろに立っている先程星玉風と話していた護衛神が天光琳に言った。
「光琳様はこちらへ。私たちが星国を案内いたします」
「あ......はい。ありがとうございます」
本当は天麗華といたかったのだが、これも星連杰の命令だと思い、素直に着いていくことにした。
「光琳......」
天麗華が心配そうに天光琳の後ろ姿を眺めた。
その様子を見て星玉風は小さくため息をついた。




