8話 結界
カルラのほぼ中心部にある丘の頂には無人の神殿がある
その神殿に向かって馬が2頭、それぞれ2人を乗せて坂を登っていた
先頭を行く馬には、昨夜突然現れたキースと名乗る男と、その後ろにルアが乗っている
後を歩む馬には、手綱を握る腕の中にナナイを守るようにして馬を操るマルクスがいた
先を行くキースは後ろから矢のように刺さる視線にため息をこぼした
「そんな殺気だった視線で睨むなよ」
後ろを振り向きながらキースが言うと
「うるさい
俺たちだけで来てやったんだ
ありがたく思え」
と怒りを込めたマルクスの返事が返って来た
キースはやれやれといった感じで、もう一度ため息をついた
診療所の正面玄関ホールに現れたキースは自分達を主の元へ案内すると言ってきた
マルクスが部下の騎士達に出発の準備をするよう指示を出すと
「案内出来るのは君とそこのお嬢さんだけだ」
キースが冷ややかな視線で言った
「俺だけならまだしも、女性を連れて行くのに護衛を付けれないなんて無理だ」
しかもお前は人殺しだ
マルクスは声には出さなかったが、当たり前だろ!?と心の中で怒鳴った
「ダメならルアだけ連れて帰る
でもなー、そっちの治療師のお嬢さんには来てもらいたいんだけどなー」
キースのこの言い方にナナイが反応した
「ケガ人がいるの?」
「そうだ
君に診てもらいたい」
ナナイは一呼吸、考えてから返事をした
「わかったわ」
マルクスは慌てて
「ダメだ!ナナイ!!」
とナナイの腕を掴むが、ナナイは
「マルクス、ケガ人がいるの
あなたが護衛をして」
そう言うとマルクスの身体からヒョイと覗くような仕草で
「どんなケガなの?」
とマルクスで見えなくなっていたキースに問い掛けた
キースは右手の人差し指を使い
「斬りキズだ」
と自分の右目の上あたりをつーっとなぞった
ナナイは「準備して来るから待ってて」と言うと奥に消えてしまった
このやり取りを黙って見ていたフィスタルはマルクスに
「よろしいのですか?」
と問い掛けると
「ナナイを止めれる奴がいるなら連れてきてくれ」
と手で両目を押さえながらため息をついた
こんなやり取りがあり、今のこの状況だ
もうじき丘の頂上に着く
そこからは道なりに行けば下りになるが、頂上では右側に入って行く道がある
この道を進むともう何百年も前に建てられたという古い神殿がある
キースは神殿のある方へと曲がった
マルクスも後に続く
少し馬を進めると神殿が見えてきた
ここに来るのは久しぶりだ
石造りの神殿はかなり古い上に無人の為、所々壊れている
マルクスは壊れた箇所を見て少し寂しい気持ちになりながら視線を前にいるキースに戻した
するとさっきまで前にいた2人がいない
マルクスは「なっ!?」と言って馬を止めた
ナナイもマルクス同様、神殿に目が行っていたので、マルクスの驚きでようやく事態に気が付いた
「どこに行ってしまったの?」
ここは開けた場所で馬ごと隠れるような場所はない
マルクスとナナイは辺りを見回した
するとさっきまでキースとルアがいた辺りがゆらりと歪むと、そこから馬に乗ったキースとルアが表れた
マルクスとナナイは目の前で起きた事が信じられず、言葉を失った
「ここに結界がある
ここから先は許された者だけが通れるんだ
俺とルアは許されてるから結界の中に入れるが、あんた達は入れない」
キースが説明をする
ルアも記憶はないが、彼にとってはそれが当たり前なので驚く事はない
ただマルクスとナナイは説明されても言葉が出なかった
ようやくマルクスが
「では俺たちは行けないのか?」
と聞いた
キースは馬をマルクス達の馬に並べるようにつけると
「だから俺達が連れていく」
そう言うと右手をナナイに差し出した
「手を繋ぐんだ
そしたら俺に引っ張られて中に入れる」
キースがそう言うと、後ろのルアもマルクスに向かって手を差し出した
ナナイは恐る恐る手を伸ばし、キースの差し出した手に自分の手を乗せた
キースはそっと握る
ナナイがキースを見ると、キースはニッコリと微笑んだ
マルクスもルアと手を繋ぐ
男同士で手を繋ぐとは…と少し残念な気持ちになってしまった
「行くぞ」
そう言うとキースは軽く馬を蹴った
マルクスも同じように馬を蹴る
2頭は並んで進みだした
先程まで青空で目の前に神殿が見えていたのに、突然霧の中に入り周りが全く見えなくなった
馬は真っ直ぐ進むが、あたり一面真っ白だ
だが先が明るくなってきた
次の瞬間、目の前にどこまでも続く草原が現れた
キースは繋いでいた手を離すと馬を数歩進め
「ここが結界の中だ」
突然、目の前に草原が現れてマルクスとナナイは言葉を失った
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