5話 満月の夜
今回より新たな登場人物がいます
明るいキャラなのでよろしくお願いします(ꈍᴗꈍ)
少年はベットに大の字になって寝転がっていた
この診療所に運び込まれて5日経った
たった5日でケガはほとんど治ってしまい、ナナイはあまりにも早い回復力に驚いていた
だが記憶だけは戻らない
頭の中に霧がかかっているような、手が届きそうで届かない、何とももどかしい感じだった
天井を見つめながら自分の名前を思い出そうと一生懸命考えいたその時、不意に呼ばれた気がした
ガバッと上半身を起こして部屋を見渡すが誰かいる訳ではない
呼ばれた感じと言っても声がした訳でもない
そもそも名前も思い出せないのに呼ばれるとは変な感じだ
部屋からテラスに出る窓が開いていて、海からの風が入ってくる
少年は吸い込まれるように部屋からテラスへと出た
テラスからはカルラの街並みを一望でき、海まで眺める事が出来る
このテラスにテーブルや椅子を置いて景色を眺めながらお茶を楽しめるようになっているため、テラスはかなり広い
少年はテラスの先まで行き、手すりに手を置いて海を見た
今日は満月だ
月の光がまるで海に道を作ったかのように写り、真っ直ぐ陸まで続いている
ふとその光の道で何かが動いた
海に船が出ているのだろうか?そう考えたが次に見えた時は、小さな黒い点が下から飛び上がりそして落ちて消える、また飛び上がり落ちて消えるを繰り返した
何度かそれを繰り返すと、黒い点は徐々に大きくなってきた
更に何度か繰り返すと、それが人の形をしているのがわかった
飛び上がる人の影はどんどん大きくなる
そして少年の目の前の木々が
ザッと音をたてたと思ったら、人影が木よりも高く飛び上がり3階のテラスに、先程まで少年が手を置いていた手すりにふわりと着地した
少年は数歩下がって、突然現れた男を凝視した
茶色の肩までありそうな髪を後ろでひとつに結び、褐色の良い肌が月明かりでもハッキリわかった
「ルア、探したぞ
なんで戻ってこない?」
男が少年に話しかけた
ルア?僕の名前か?この人は僕を知っているのか?
少年が思考をフル回転させていると、男は「ルア?」と声を掛けた
「僕を知っているんですか?
僕、何も思い出せなくて…それが僕の名前ですか?」
「ん?」
「何も…思い出せないんです」
少年がそう言うと、男は手すりの上でしゃがみ込み、少年と目線の高さをほぼ同じくらいにして少年の顔を覗き込み「思い出せない?自分の名前も?俺の事も?」
そう問われ、少年はうなずいた
男は手を顔に当てながら
「マジかー
どうりで戻って来ない訳だ」と言うとガックリと項垂れた
ルアと呼ばれた少年は「すいません」と謝るしかなかった
マルクスは少年の部屋の前まで来ていた
少年が生きている事を知った犯人がまた襲いに来ないとも限らないので、少年がこの診療所に来てからマルクスや部下の騎士達が交代で警備をしていたのだが、マルクスは今日は帰る事を伝えようと、ナナイと共に少年の部屋に来ていた
今まさにノックをしようとした時に部屋の中から話をする声が聞こえた
ナナイはここにいる
では誰と喋っている?
マルクスの動きが止まったのでナナイがどうしたのか尋ねようとした時、マルクスがナナイを見ながら人差し指を口の前で立てた
マルクスは音をたてずにそっとノブを下ろしてドアを開けた
ドアの隙間からはいつも少年が眠るベットが見えるが、少年の姿はない
マルクスは更にドアを開け、そっと身体を部屋の中へ滑り込ませた
マルクスの補佐官のフィスタルはマルクスに声は掛けないがマルクスの動きを見て何か異変があった事を察して、剣を抜きマルクスに続いて部屋に入った
フィスタルはナナイを制するが、ナナイは首を横に振り一緒に入ってきた
男は手すりから降りるとルアの腕を掴み
「とりあえず行こうぜ
戻れば何とかなるかもしれないし」
言ったと同時にマルクスの剣がルアを掴む男の腕に向かって振り下ろされた
男は手を離し、ふわりとバク転し再び手すりの上に戻った
マルクスは左手で少年を自分の背後に移動させると
「何者だ!?」
と言い放つ
恐らく、この物語が始まってから一番凛々しい顔つきのマルクスだった
ルアという名も愛称です
次回は本当の名前を紹介出来るかと思います