董山曇(二)
じろじろと、ちょこちょこと、視線を感じる。今日お祭りあったっけ? おめでたいだけじゃない? 趣味? ただ注目されたいとか。春だからほら。あーそっか。などと思っていることが、不随意細胞を聴かなくともビンビン響いてくる。おまけに董山の両サイドもがら空きだ。まあ、人妻以外ならどう思われようとも構わないが。と懐からケータイを出して時間を確かめる。時間は、十二時十五分。順番としては次だから、本当にそうなりそうだ。
ヨガ、民謡、俳句、ピアノ、テニスなどのカルチャースクールが同じビルに入っているせいか、ファミレスはその帰りに寄ったらしき者たちで溢れている。
仙田未果との待ち合わせは、十二時三十分。
「董山様」
呼ばれた。いつも契約する時、その時の食べたい物によってファミレスを使い分けていた臼井や鈴架の言う通りに来てみたら、本当にちょうどいい時間帯に呼ばれた。
ハイと立ち上がると、董山を上から下まで見た女性店員に二名様でしたね、こちらへどうぞと案内されついて行くと、店の真ん中あたりにある四人掛けの席を指定された。
座るタイミングで、食事の注文は待ち人が来てからでいいですか、すぐ来ますので。と断りを入れ、ドリンクバーだけを注文する。店員は全然構いませんという営業スマイルだかこんな時間帯に待ち合わせしないでよと言いたいのかわからないそつがない受け答えをし、忙しそうに去っていった。あれはたぶん、人妻……。仕事終わりにお茶でも。と誘いたい思いを閉じ込める。昨日といい今日といい、大人になったもんだと自らを絶賛しながら席を立ってドリンクバーに行き、グラスをとって氷を入れ、グラスにコーヒーを注ぐ。ミルクもガムシロも入れず、ストローだけをとって席に向かう。
出入り口を一瞥しても、人妻仙田未果の姿はない。
うーん。待ち遠しい。歩きながら身体がくねってしまった。早く来ないかな人妻仙田未果。飯でも食って仲良くなって、危うく抱いてしまいたい。いや、危うくじゃなく絶対抱いてしまいたい。絶対抱ける、絶対抱けると席に座り、出入り口をチラチラ見ながらアイスコーヒーを飲む。
……時間は、十二時二○分。ダメだ。今どこかなーと董山は、腹に手をあてた。