仙田未果(二)
忘れ物は、うん、ない。と、何回確認したかわからない。ハンドバッグの中には言われたものや、もしかしたらすぐに支払わなきゃいけない時のために、普段は持ち歩かないキャッシュカードもお財布の中に入っている。暗証番号も、忘れていない。
未果はエンジンをかけ、ギアをDに入れ、パーキングを解除して、車を発進させる。ガレージから出て、庭の道を通って、自動で開いた門をくぐり、車が来ていないか確かめてから、待ち合わせの場所へ車を走らせる。
今日はとってもぽかぽかしていて、春らしい陽気だと言える。少し風を入れようと、運転席側の窓を開けるボタンを押す。あれ? カチッとちょっと押しすぎてしまったせいか、指を離しても窓は止まらずにウイーンと下がっていってしまう。運転しながら、窓を戻すためにボタンを引き上げるように押すと、それも押しすぎてしまったのか、止まらずにどんどん閉まっていく。それを止めるためにボタンをまた押し、それも強く押しすぎてしまったせいで止まることなくどんどん開いていってしまう。また止めようとして押しすぎてしまい、また止めようとして押しすぎてしまい、窓はウインウインウインウイン上下運動をし、もうお願いだから止まってって押したら、適度に押されたのか、ピタッと窓は四分の一くらい開いた所で止まった。止めたい位置とちょっとずれていたのは気にしないようにして、同じ位置になるように助手席側の窓も開ける。
……緊張しているのかもしれない。自分で感じているよりも、たくさん……。
『リトルキャンディー』に電話をするのにも、すごく時間がかかってしまった。沙友里と会って、名刺をもらって、もらった勢いですぐ電話をすればよかったのに、沙友里から名刺をもらった瞬間、沙友里に聞かれたら恥ずかしいことを『リトルキャンディー』の人に聞かれないだろうかということが脳裏に浮かんでしまい、帰ってから掛けてみると言っていざ帰ったら、電話をする勢いは消え失せてしまい、沙友里が言っていた、この名刺はもしかしたら私たちしかもらっていない貴重なものかもしれないことや、持っているといいことがあるかもしれないということを思い出しても、一向に緑色のボタンをタップすることができず、持っている人は莫大な調査代をとられるんじゃないかとか、なんでこの番号を知っているんだとか、あの時の名刺の奴か、探していたんだこらしめてやるとか言って、怖い思いをするんじゃないだろうかという不安が強くなって余計電話できなくなり、番号を押しては消して押しては消してを繰り返して、ダメだできないと思ってケータイを置こうとしたら、手が滑ってケータイが落ちそうになってあわあわとしてケータイを掴んでセーフと思ったら、あれ? ケータイを持ってるのにどこからかケータイが振動する音が聞こえてくると思った瞬間目が覚めて、気づかないうちに寝ちゃってたんだと思ったらケータイは本当に振動していて、なんで振動しているんだろうと画面を見たら、勤務先の歯科医院から電話だった。
あ、と時間を見て始業時間がとっくに過ぎていることに絶望しながら慌てて電話に出て、咄嗟に声を擦れさせ、インフルエンザになってしまって辛くて寝てしまっていた。という嘘を吐いた。言ってから、この時期にインフルエンザ? なんて自分で思ったら、院長の奥さんは疑うことなくそれは大変、つらいでしょ。おでこに貼るやつとかある? 病院に行ける? もしよかったらいい病院教えるよ。薬の副作用とかあるみたいだから気をつけてね。栄養はとったほうがいいよ。なにか欲しいものとかない? 安静にね。無理しないでね。お大事にね。と未果を怪しむ感じもなく、いっぱい心配してくれて、電話を切った。
普段真面目に働いていた甲斐があったかもしれない、とホッとしてケータイを置いてトイレに行こうとしてすぐ、依頼の電話ができずに一夜明けてしまったんだという現実が、未果の身に降りかかってきた。夢であってとほっぺを軽くつねる。……痛い。夢じゃない。これは現実。
沙友里に頼んでみれば、と言われてから換算すると、三ヶ月以上は経過している。理のことを知ろうと決心したのに、なにやってんだ。理を知りたい気持ちはそんなものなのか? 名刺までもらったんだぞ。と自分を鼓舞してケータイを手にして覚えてしまった番号を押しても、緑のボタンをタップすることができない……。
トイレを済ませてまたクイーンベッドに戻って寝転がったままぐじぐじしていると、ケータイがふるえた。理からのメッセージだった。〈今日の昼はみんなでBBQ〉という。
写真も貼り付けられていて、楽しそうな理のアップ顔と、その背景には楽しげにしている人や、お肉や野菜が焼かれている画が写っていた。
これは嘘なのか、本当なのか、それを確かめる術が、未果にはない。理、あなたは今なにをしているの? 知りたい。知りたいよ。暴力的なニオイにつながるなにかでもいい、理のこと知りたい。と未果は電話のアプリを表示させて番号をおもいきって押し、目を瞑って勢いを止めることなく緑の通話ボタンをタップした。
トゥルルルル、トゥルルルル、トゥル──。
二回と少しで呼び出し音はやみ、「はい、リトルキャンディーです」と聞いてすぐ、あの時の記憶が呼び起こされた。この声はきっと、あのギラリと光っていた男の人だと。
窓を開けて、車内の空気が入れ替わったおかげか、とっても気持ちがいい。T字路に差し掛かると、未果は右にウインカーを出し、ブレーキを踏んで、停止線で止まる。カーブミラーと左右をよく見て車が来ていないことを確かめ、右に曲がる。
まだ、理と付き合っている頃、家でテレビを観ていたら、CMになって、パッと車の映像が流れてきた瞬間、かわいい。とそのフォルムに一目惚れして買った新車の軽自動車。お洒落にそれほど興味がなく、友達とわいわいするタイプでもなく、デートに出費はなく、大学卒業後は実家に帰っていたこともあり、稼いだお金のほとんどが貯金に回っていた。そのおかげか、キャッシュで車を一括購入することができた。燃費もいいし、乗り心地もいい。小回りもきいて、とっても気に入っている。今日は日射しも心地よくて、ドライブ日和だ。
という気分に無理矢理なろうとしてもなれない。リトルキャンディーに頼んだら、いくらぐらいになるんだろうという心配がけっこう気持ちのウエイトを占めちゃっている。結婚してからの未果の稼ぎ分は、理と話し合った結果、子供ができた時とか、自分で買いたいものができた時とか、急な出費とか、そういう時に使うことになっていた。結婚してから使ったのは、理の誕生日やクリスマスプレゼント、それと理に内緒で沙友里に依頼した時の分だけ。沙友里に頼んだ時は成功報酬がなかったことや、着手金も相場の半額以下にしてくれたから、思っていたよりもかからなかった。だから今ある貯蓄額で充分足りるとは思っているけれど、もし足りなかったらどうしよう。沙友里も金額については想像がつかないと言っていた。家や車みたいにローンを組んでくれるんだろうか。この車を売ったら、いくらくらいになるんだろう。ついこの間、最初の車検をお願いした時、整備士さんにきれいに使ってますねと褒められたこの車。できれば手放したくない。真面目にこつこつと働いてきた証でもある……。真面目にこつこつと働いてきた……。過去形になっている。真面目にこつこつが途絶えてしまった。今日でずる休み二日目。リトルキャンディーに会うために会社を二日続けて休んだというより、休んだ理由がインフルエンザだから、しばらく出勤する必要がない。思いの外、罪悪感もない。
小学生の頃はほんとに風邪をよくひいて学校をよく休み、図工の工作が遅れがちになったり、授業が進んで先生の言っていることがちんぷんかんぷんだったり、さらには友達の会話についていけなかったりで、プリンをたくさん食べられるとか、親がやさしいとかっていう良いことよりも、悪いことのほうが断然多く、もっと学校に行きたいという思いが強かった。
中学生になって、運動がそれほど得意ではないのに、血気旺盛な友達についていくようにバレーボール部に入った。それなりに強かった部の練習は厳しく、ついていくのがやっとで、家に帰って夜ご飯を食べながら寝ちゃうとか、お風呂に浸かりながら寝ちゃうとか、ながら寝は当たり前で、どうやって布団に入ったのかわからない朝をけっこう迎えてた。それでも辞めたいとは一度も思わなかった。仲の良かった友達がいたからというのもあるけれど、今思えばたぶん、動物的な勘が働いていたような気がする。続けていれば、身体が慣れて、健康で丈夫な身体になれるよっていう。その甲斐あって、部活を続けていくうちに風邪で休むことが減っていき、進級して自分たちの代になった頃には、風邪というものを一切引かなくなった。毎日学校に行けるから、友達に授業のノートを見せてもらわずにすんだり、友達との話題も知らないことがなくなっていったりと、疎外感を味わうことも徐々になくなっていった。それは自分にとって、とっても大きなことだった。
高校生になってもそんな生活が続き、より丈夫な身体へと成長したせいか、学校を一度も休むことなく皆勤賞をもらい、卒業式の時に名前を呼ばれ、うれしいのと恥ずかしいのとで、照れ臭かったのを今でも覚えている。
大学ではテニスサークル、社会人になってから運動は一切していないけれど、歩くことを心掛けて理と散歩したりしているからか、丈夫な身体は今も健在で、風邪を引いても軽い風邪で治まり、家から出られないほどひどくなった覚えがない。
そう考えていくと、『ずる』がつく休みは生まれて初めてのことになる。大学生の時、二日酔いで休んだことはよくあったけど、それは『ずる』してないから、やっぱりそうだ。
ふふっ、と未果は微笑んでしまった。
約二十七年間の短い人生とはいえ、真面目に生きてきたものだと鑑みる。
あ、危ない。未果はブレーキをおもいきり踏む。危うく信号無視をする所だった。ずる休みはしても、交通ルールはしっかり守らなければ。
今日はカーナビの設定をせず、昨日アプリで行き方を調べて、覚えた経路を進んでいくという感じだから、尚更気を引き締めないと。と未果はぽんぽんと軽く自分のほっぺに触れる。
こんな時に慣れないことをするもんじゃない。とも思う。けど、こんな些細なことでも変えないと、これから日常生活とかけ離れた人物に会うという変化に、絶対ついていけない。会うだけじゃなく、契約が成立すればその場で報告できることもあるみたいなことを言っていたから、理のなにかしらを知ることにだってなる。その時の予防策にと思ったんだけど……、なって、ないかな……。
理はどういった人生を歩んできたんだろう。あまり自分から過去のことを話す人じゃないから、未果も自分から聞くようなことをしてこなかった。もし可能なら、ついでにそういうことも調べてもらっちゃおうかな。と、未果は忘れていた方向指示器を上にあげる。
チッコチッコチッコ、と左のウインカーが点滅している表示が出ている。
これから入ろうとする橋は、片側一車線で駅が近くにあるからか、ほぼどの時間帯も混雑している。今日は交差点付近まで車が列をなしていなくて、一応一安心。余裕をもって家も出ているから、少し早く着くかもしれない。
目前の信号が青になり、左右を確認してプレーキを離し、交差点に横断歩道はないけれど、一応自転車や人とかに気をつけながら、ゆっくりと左折する。
橋に入ると、左側に鉄道が走っているのをちらっと見てから、ゆっくりとアクセルを踏み込んで加速する。橋の中央付近に、車のお尻が見えている。空気がほんと、気持ちいい。
理と出会った当初は理と沙友里の仲が良かったからかもしれないけれど、理を男として見ていなかった。だから理から二人で会おうと言われた時は、すごくびっくりした。
断っても、理は冗談半分で何回も誘ってきてくれた。理と沙友里がただの友達だということがわかっても、なんとなく断り続けた。でも、メッセージアプリで話すうち、未果からドライブに誘ってしまった。未果の運転を怖がって誰も助手席に乗ってくれないことを理も知っていたから、さすがに断ると思ってのことだったのに、喜んで、いついつ? とうれしいスタンプがとってもうれしそうだったから、冗談だったのにと言えなくなってしまい、未果が行ってみたかった湖畔までドライブをすることになった。
当時は親の車を借りて運転していた。初めての遠出でちょっとどころじゃなく緊張しながら止まったり曲がったりしていたら、助手席に座っていた理が、運転下手じゃないじゃんと言ってくれた。そのおかげで緊張が少し和らぎ、山道もなんとか乗り越え、無事に目的地の湖畔に着いた。
感動を味わって満喫して帰ろうという時、理がこの近く、確か遊園地があったよねと。せっかくだから行こうよとなって遊園地にも行き、喉が枯れるほど二人で絶叫した。
理と共通の趣味があったわけでもないのに話が尽きることはなく、あっという間に時間は過ぎ、名残惜しく帰り道を運転していたら、また遊んでくれる? と理が誘ってきてくれて、その日を境に理と遊ぶことが多くなり、しばらくして、理のことが好きだなと気づいた。
理は今まで何人の女性と付き合ってきて、何人の女性を泣かせてきたのだろうか。友達は何人いて、どんな感じの人たちがいるんだろうか。理と初めて会った時に同席していた二人とは、その時以来会っていないし、学生時代の友人とかにも会ったことがない。ほんとにそういうことまで調べてもらうといくらになるんだろう。絶対、支払えなさそう。
渋滞のため、橋の中央付近で停車する。右側に見える一級河川、河川敷にある野球場、その先にはマンションや一戸建てが立ち並び、またその先には国道の橋も見える。
この景色を見ると、ああ、いつ見てもいい景色だな、好きだなって思って、子供ができたらここで野球をやらせたいね。って理が言った時、ほんとだねって未果が言って、必死にプレーする自分の子供を応援席で見ながら、理と微笑み合っている姿が浮かんで、幸せな感情がどんどん膨らんでいって、この道を通る度にそのことを思い出したりして幸せを感じていたのに、今日はそのことを思い出しても、想像しても、ちっとも幸せ感がやってこない……。空だって雲がなくて、とってもいいお天気なのに……。
沙友里に尾行をしてもらった一件から、未果のどこかが変わりつつある。どこがどう変わっているのかよくわからないけど、理との間にはもう溝ができていて、それがどんどん広がっていっているのは確かな気がする……。理と、別れることになる……。それでいい。もう、後戻りすることなんてできない。
ゆっくり進んでは停車し、ゆっくり進んでは停車しを繰り返し、次の青信号で橋を抜けられそうな所まできた。橋を渡り終えてすぐの交差点を、今日は右折して国道方面に向かう。
青になり……、ウインカーを出して……、右折、できた。
右側に見える、一級河川を横目に車を走らせる。この道まで来ると、不思議と混雑はなくなっている。しばらく進み、片側二車線になり、左折する車は左側のレーンをという標識があるので、左側のレーンを進む。遠くにあった国道の橋が、だんだんと近くなってきた。距離が近くなるにつれ、心臓のドキドキが初めて遠出した時とは比べ物にならないくらい大きくなってきているのがわかる。顔も少し、こわばってきているかもしれない。ハンドルを握る手も、汗ばんできたのがわかる。こんな調子じゃ、待ち合わせの場所に行く前にきっと事故を起こしてしまう。理のことを知れないまま事故で死ぬのは、絶対にイヤ。
車高の低い未果の車でも、三台ぐらい前の車が橋の下のやや手前で左折したのが見えた。後続車も左折していき、未果も左折する。右上には、国道の橋が架かり、未果が走る道と並行に連なっている。緊張感がより、高まってきた。手の汗は増量し、ドキドキが全身にまで広がっている。この先に待っているのは、国道との合流地点……。
まだここに越してきて間もない頃の記憶が蘇る。この先の合流地点で、大きなトラックにパパアアアーーッ! と耳が痛いほどのクラクションを鳴らされた。そんなに長く鳴らさなくてもいいじゃんというくらい鳴らされて、それまでは合流地点なんて全然平気だったのに、それ以来トラウマのようになってしまい、この先の合流地点を避けてきた。
でも、これくらいのトラウマを乗り越えないと、この先に待っているであろうことは絶対に乗りきれない気がして。こつこつ貯金をして車を買ったのとおんなじで、こつこつ変化に慣れていかないと、どんとした変化について行けないって、なにを言っているのか自分でもよくわからなくなってきた。
合流地点に向かって平坦な道を進んでいく。視界の右側には徐々に橋が下ってきているのが見えている。国道に車がいるのかいないのか、ある程度まで行かないとわからない。
進んで、進んで、右側の橋も下って、下って、柱がなくなって、未果の車の屋根辺りになって、こちら側と同じ平坦な道になった。合流する側の国道を確認する。
少し離れた前辺りと、ちょっと前辺りに車が走っていて、サイドミラーにはやや小さめに車が映っている。国道は、適度に空いていて、ちょっと合流には気を遣うタイミング……。
そうだよね、そんな気はしてた。じゃなきゃトラウマを乗り越える意味ないしね。うん、しっかりしなきゃと真横を見て死角となる範囲を確かめても車は走っていないから、このまま車一台分ぐらい前を走っている国道の車に気をつけながら行けば、止まる必要もなくスムーズに合流できるとは思うけど……。
パパアアアーーッ! と鳴らされた記憶がちらついている。大丈夫、それまではちゃんと安全に合流していたじゃないか。していたのだろうか。うんしていた。していてもしていなくても、もう合流するしか道はない。
すでに三台前の車は合流していた。羨ましい。
二台前の車は、国道から来る車と並ぶように走っていたけれど、止まることもなくその後方にスムーズに合流した。端から見ていても慣れているとすぐわかる。
一台前の車は、ちょうど二台の間ぐらいを走っていたから、特に技とか必要ない感じでスムーズに合流した。
大丈夫、相変わらず手汗はすごくても、ちゃんと周囲の状況は把握できているじゃないか。未果だってできる。と未果は大きくなっている自分の鼓動を感じながら、カチッと右のウインカーを出して、やや減速して、慎重に、慎重に、今後戻りしたら事故るだけと今一度バイクとかを見逃していないか死角も確かめて、大丈夫、バイクも車もない、行けるよね。と車一台分ぐらい前を走っている車の後ろに、え、あ、え、あ、ん? おっ。
で、できた……。はあー。と未果は息を吐く。車が当たった感じはもちろんないし、パパアアアーーッ! というクラクションの音もない。後ろの車との距離は充分。でもこのままじゃちょっと前の車を煽っちゃってる感があるからもうちょっと減速して距離をとり、ふー。とまた息を吐く。
未果は、国道を走っている。実感があまりないけど、幼稚園の時にできなかった逆上がりができた時のことがふと蘇っているから、大丈夫だと思う。ふー、とまた息を吐く。
よかった。これでなんとかトラウマに感じていたことはクリアーできた。できた? うん、できた。思ったよりも簡単にクリアーできたから、トラウマを乗り越えたという気もあんまりしていないけど、ちゃんとできたと思っていい。
開いている窓から入ってくる風が手汗を乾かし、ドキドキで熱せられた体を冷やしてくれている感じで、気持ちも正常に戻ってきている気がする。
こんな感じで理のことも、なんだ、なんでもなかったじゃないか、なんてならないかな……。ならないだろうな……。なるかな……。
どっちにしてもがんばらなきゃ。未果は、強くハンドルを握った。