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董山曇(一)

 尿意を我慢しながら電話をしていた董山は、用件が済むと電話を切り、やや前傾姿勢でトイレに向かう。昨日久々にこっちの食物を暴飲暴食したせいで、絶対腹にくると思っていたが、ほんとに体質改善したのかもしれない。と、ジョジョジョジョジョーっとしょんべんを放出する。ふー、間に合った。

 董山はトイレから出て洗面所で手を洗いリビングに戻ると、ガラステーブルの上にあるリモコンでまたクラシック音楽を再生する。一人用のソファーに座って、グラスに三分の一程残っているビールをすべて飲み干すと、ソファーの背もたれに寄り掛かって目を閉じ、クラシック音楽に耳を傾ける。

 いやーほんと久しぶりだ。この曲も懐かしい。交響曲第五番ハ短調。よく聴いたもんだ。

 よく考えてみれば、この曲が入っているCDだけでよかったのかもしれないが、必死だったんだろうな。練習するために買ったCDは部屋の壁を覆いつくすほどになり、捨てることもできず、今も事務所の壁を覆いつくしている。

 クラシック音楽は董山を死の淵から蘇らせ、聴く喜びを教えてくれたといっても過言ではない。

 最初は、ぶつぶつと他人が訳のわからない言葉を話しているような感覚がなんなのか、理解できなかった。それは常にじゃなく、時々現れ、呪文のように聞こえてくる。まだ小さかった董山は親にも友達にもあることだと思い、今聞こえてるのって、なんなのって聞くと、は? なに言ってるの? と不思議がられるのが常で、やがてそれは自分にしか聞こえないものなんだということに気づいた。それは月日を重ねるうちに意味がわかる人間の言葉として聞こえてきて、その言葉がその人間の『身体』から発せられている言葉だということに気づいた。一人の人間が口を動かして声に出し、「好き」と言っているのに、その人間の身体から聞こえてくる声は『嫌い』と言っていたり、反対に「嫌い」と言っているのに、身体の声は『好き』と言っている。その矛盾さに董山は驚き、次第に他人が怖くなり、それを知ってしまう自分も怖くなり、ひきこもりの不登校児になった。

 ずっと部屋に閉じ籠もってテレビなどを観ているだけの生活は楽だったが、身体の成長期に入った董山にはほんの束の間でしかなかった。身体の成長とともに女への執着心は日々増すばかりで悶々としていき、身体から声が聞こえてくる能力も成長していき、面と向かう人間だけじゃなく、会ったこともない、近くにもいない、遠くにいるだろう人間の言葉までごちゃごちゃ聞こえてくるようになってしまった。

 董山は声に病み、衰弱し、自暴自棄になり、自分の命を絶とうと手首に包丁を突きつける度に、このまま死んだら女を一度も抱くことなく死ぬことになる、それはイヤだ。絶対にイヤだ。と、とどまる日々を重ねた。

 デリヘルを呼んでから、にしようと思ったこともあったが、事をしている最中に身体から声が聞こえてきてしまったら、最悪自殺してしまうかもしれないという心配からそれも思いとどまり、とどまる日々に悶々とした心はやがて膨れ上がり、

 ゥゥウワアアアーッ!

 と奇声を上げた。

 もう嫌だ。俺は、人妻を抱きたい。抱きたい。おもいっきり抱きたいと叫びながら、部屋の壁を素手でボコボコにしている自分に気づいた時、自分はありとあらゆるジャンルの中で人妻が一番好きなんだと自覚した。

 人の身体から声が聞こえてくる能力をどうにかしないと、人妻を抱くことさえできない。抱く前に死ぬわけにはいかない。こうなったら人妻を抱くために自分の能力と向き合っていくしかない、と董山は決心した。

 声が常に聞こえてくるわけじゃない。なにをどうしたら人の声が聞こえてくるようになるのか、董山は自分を分析した。起きる時間、トイレに行く時間、食事の時間、なにを食べたか、飲んだか、見たか、笑ったか、怒ったか、オナニーしたか、風呂に入ったかなど、すべての行動を記録した。

 すると、腹が痛くなったあと、能力の発動が多いことに気づいた。小さい頃からすくすくと誰よりも健康に育ってきたわりに、なぜかお腹だけはよく壊す体質ではあったのだが、そういう体質なんだと思うくらいで、特に気にせず来てしまっていた。董山は、腹が痛くなった時にスポットを当て、入念に自分を分析した。腹が痛くなるのを待っていては早急な解決にならないと、自らお腹が痛くなるように暴飲暴食したり、悪くなりかけのものを食べたりした。

 その結果、お腹が痛い時に自然とお腹を押さえ、指でお腹を押したあとに能力が発動することが多いことに気づいた。董山はさらに探究し、わざと指で押さえる時と押さえない時、押している時は身体のどこを押しているのかを繰り返し調べ、人妻のためだとがんばって外出し、人体についての本なども読み漁ったりして研究を重ねた。それでやっと人が声帯をふるわせて口から発生する言葉じゃなく、どこかの身体をふるわせて出した言葉を聞いているような感覚になる能力が、どのように発動されるのかがやっとわかった。

 人間の腹の部分、鳩尾から臍にかけて一直線に六つ、『任脈』というツボがある。そのうちの三ヶ所、『巨闕』、『建里』、『神闕』を順番にグっ、グっ、グっと強く押し、最後に手の甲にある『下痢点』というツボを押すと董山の能力は発動する。腹が痛くなくてもそのツボを順番に押していけば発動する。間になにかのツボを押しても発動する。一分以内であれば間を置いても発動する。反対にその行為をしなければ、腹が痛くなっても、『巨闕』だけ押しても、順番が変わっても能力が発動することはない。

 よし、これで抱けると、董山は人妻が多数在籍しているデリヘルに即効電話した。写真と大差なく、そこそこきれいな人妻だったからすぐにサービスを受けた……。年齢を聞かれることもなく、手慣れている感じでとても気持ちがよく、ほどなくして頂に達し、溜まっていたものすべてが放出された。それを、かなり無理言って三回してもらった。

 おお、世の中にはこんなに気持ちいいものがあるのかと、それなら人妻と心から愛し合いたいと思った董山は、声に怯えることなく簡単に街へ出て、人妻をナンパしようとした。そこで、気づいた。パッと見、歩いているだけじゃ人妻かどうかなんてわからない。左手の薬指に指輪をはめているかいないかをチェックしても、彼氏にもらっただけだとか、結婚指輪のサイズが合わなくなってしていないとか、そういうパターンも存在する。いろいろ面倒臭いと思いながらも人妻への思いが止まらずにこれだという女に声をかけ、声をかけ、声をかけても、誰一人立ち止まってくれない。見た目なら二十歳を過ぎた、見ようによっては三十にも四十にも見えるはずなのに、目すらも合わせてくれない。確かに、董山はそれほど、かっこいい部類の顔じゃない。

 ああ。そうか。と董山は気づいた。このために自分の能力があるのかと。あれほど嫌いだった自分の能力を活用して、女の身体から発せられる声を聞き、本性を知って、痒い所に手が届くような言動を取れば女は立ち止まり、目を合わせてくれて会話も弾み、人妻ゲットの道へとつながる。董山は過去のことはなんだったのかと思うくらい即座にツボを押して能力を発動させた。

 すると、知りたい女の声だけじゃなく、四方八方から声が聞こえてきて、女の身体がなにを言っているのかごちゃごちゃして聞き取れない。考えてみれば当たり前のことだった上に、そもそも身体から発せられている声は人の本性なのか違うのか、本当の所がちゃんとわかっていなかった。

 董山は、まずどうやったらピンポイントに女の声が聞えるようになるのか、どうやったら発動するのかを調べた時と同じように、一生懸命人の身体から発せられる声を聞いた。

 だが、試行錯誤というよりも、いきなり職人並みの技を発揮しなければならないような感覚で、いくらがんばって耳を傾けてもピンポイントにその女の声だけを聞けるようにはなれず、もっと段階を踏めるいい手はないかと考えて考えた末、耳を傾けると言えば、音楽だろう。その中でも、細かな技術を聴き比べたりするクラシック音楽だろうということに行きつき、縁もゆかりもなかったクラシック音楽のCDに手を伸ばした。

 身体からの声を聞くのと、クラシック音楽を聴くのは、思った通り凄く似ている感覚で、功を奏した。オーケストラの全体的な音から、一つのパートが出している音を聴き分ける。とても難しかったが、楽器の数が人の声よりも少なかったせいか、傾けて傾けて傾けた結果、ちゃんと聴き分けられるようになった。

 さっそく繁華街へ出かけ、オーケストラの音を聴き分けたのと同じように目当ての女の身体に耳を傾ける。じっくりと、演奏家の細かい技術を聴き分けるように、心を穏やかにしながら傾ける。

 すると聴こえてきた。四方八方から聴こえてくる声の中から、聴きたかった目当ての女の声が。

(これから彼氏と待ち合わせ、ランチを食べて、ショッピングして、カラオケして、そのあとは、ホテルで一発)

 一発? そうか一発なんて言うのか。

(コスプレはなにがいいかなあ。この間はポリスだったからなあ)

 練習の甲斐あって、女の声が聴き放題。おもしろい。と思った董山は、いろいろな女に耳を傾けた。これからの目的、どこへ行くのか、なにをするのか、そういったものがすぐに女の身体から聴こえてくる。男と話しながら歩いている女に目が行くと、

(こいつ、話つまらないなあ。やっぱ今日は西大路先輩と遊べばよかった)

「だったら俺と遊ばない?」

 董山は我慢できずにその女に声をかけてしまった。人妻という枠を超えて、めちゃくちゃ美人だったからだ。

(え、誰?)

 女は美人顔を崩さず驚いている。

「だって、つまらない顔してたからさ」

 董山はあまり人と話してこなかったせいか、ちょっときざな紳士風になってしまった。

(やばい、顔に出てた?)

「オイッ。なんだお前」

 美人な女の隣にいたイカツイ男が、巻き舌で今にも殴りかかってきそうだ。

「お前の話、つまんねえんだってよ。西大路先輩のほうがおもしろいってさ」

 董山は女の声がどういうものなのかちゃんと確かめるため、西大路先輩が実在するのか試してみる。

「ア? 誰だお前」

 このイカツイ男の苛立つ感じから、西大路先輩は実在すると感じた。このイカツイ男にも耳を傾ける……。すると、このイカツイ男は西大路を恋のライバルだと思っていて、西大路とはタメで、同じ高校のラグビー部だということが聴こえてきた。

 董山は、女にも耳を傾ける。美しい女は西大路でもなく、このイカツイ男でもなく、サッカー部の柴湊に恋をしている。そういったことが次々と聴こえてきた。鍛錬してきたとはいえ、自分の知りたいことが人の身体から次々と聴こえてくることに董山は興奮し、それが董山の思い込みじゃなく、真実なのかどうかちゃんと確かめてみる。

「あなたは、馬場環奈さんですね」

 知りたかった女の名前が聴こえてきたから、それをそのまま口にした。

(え、そうだけど)と女は大きな目を美人なままさらに大きくして驚いた。

「ンアッ」とイカツイ男がまた反応した。「お前馬場ちゃんのストーカーか?」

 やはり真実。女だけじゃなく、イカツイ男も認めたようなもの。

「馬場ちゃん、こいつ知ってる?」

(知らないよ)馬場環奈は首を横に振った。

 そりゃそうだ。

 イカツイ男は馬場環奈を庇おうと董山と馬場環奈の間に入るように立ち、下から睨んでくる。

 董山は壁をボコボコにした経験から自分の腕力にはそれなりの自信があったが、一度も人とケンカをしたことがない上に、相手が屈強のラグビー部ということもあり、反対にボコボコにされる可能性もあるため、そうならないための方向性を考えに考えて、不思議がっている現象をそのまま貫けばいいと、まずは男の名前に耳を傾ける……。男の名前は、立崎快斗。

「立崎快斗くん、俺は神の意志のもと、君に忠告しにやってきた天使のどんだ」自分で言っておきながらちょっと笑いそうになる。「そこにいる馬場環奈さんは、柴湊くんが好きだ。立崎快斗くんのことはただの友達以下としか思っていない。今日はあまりにもしつこいから一度は遊んでおかないと怖いかなあと思って君と遊んでいる。だから、他の女子をあたったほうがいい」と馬場環奈から聴こえてきたことを踏まえ忠告する。

 立崎快斗から、亀岡美和という同じ学校のクラスメイトが聴こえてきた。

「そうだな、亀岡美和ちゃんなんてどうだ? あの子はこの子と違って、君に気がある」

 立崎快斗はそう思っている。実際に亀岡美和が立崎快斗を好きかどうかはわからない。

 立崎快斗の、今にも殴りかかってきそうな気配はやや薄れた。

「俺はそれが言いたかっただけだ。じゃあな」

 董山は全力で踵を返し、背中にタックルされませんようにと祈りながら、二人のもとを早急に去った……。

 董山は、めちゃくちゃ興奮していた。自分の聞きたかったことが、聴こえる。聴こえてくる声は、実際に思っていることとみて間違いない。それにとどまらず、人の名前など、記憶に関わるものまで聴こえてくるなんて、思ってもみないことだった。声と向き合った甲斐があった。と、董山は人妻に声をかけまくった。女のすべてが丸わかりの今、かけた女すべて抱けるかと期待したのに、全く抱けなかった。

 人間は必ずしも自分のしたいことをしているわけじゃないということを知った。この人と話が合う。なんでそんなことわかるの? 不思議。気になるう。遊びに行ってもいいかなあ。と思っていても、外せない用事や理性が邪魔をし、したいことを抑えて別の決定をする時もある。それはつまり、董山に男としての魅力がないだけとも言えるのだが、その心の傷と同じくらい自分の能力のおもしろみが増し、能力を磨きに磨いて磨いた。おかげで視界に入る人間の声をピンポイントに聴くだけじゃなく、遥か遠くにいる人間の声をピンポイントに聴くこともできるようになり、その人間の記憶から名前、容姿、職業、年齢、過去に経験した出来事や好きなものなど自由自在に聴けるようになり、時間はかかったものの、女心を動かせるような動かせないような話術を身につけたようなつけないような感じになり、念願の正真正銘の人妻をゲットし、愛し愛されることもできた。

 身体のどの部分から声が発せられているのかということにも興味があった董山は、丹念に身体の端から端までピンポイントに聴いたり、いろいろな本を読んだりしたものの、よくわからないまま年を重ね、調べ始めてから十年ぐらいの月日が流れた約八年前、自律神経と関係の深い、不随意筋によって働く内臓器官全般から聴こえてくるということがわかった。

 だがすべてがわかったわけじゃない。と董山はクラシック音楽に耳を傾けながら、電話の相手、仙田未果に伝えておくべきことは伝えられたかと振り返る。夫の写真を持ってくるようにということや、すぐに調べるので、契約が成立すればその場で報告できることもあるということや、待ち合わせの場所、時間、一応怪しまれないように仙田未果の容姿的な特徴も聞いておいた……。大丈夫だな。とうなずく。

『突然消えた。んだそうです』と仙田未果は電話で言っていた。それが本当だとすると、未果の夫はリトルキャンディーが手を付けたい相手と関係があるかもしれない。こっちに下りてすぐ、こんな依頼が舞い込むとは、やはり人妻とは縁がある。

 ん? おいおい、この懐かしい感じは……。まさか。と董山は目を開け腹を押さえる。体質改善していなかったというちょっと残念な気持ちと、これはこれでよかったのかもしれないという気持ちと、こんなに痛かったっけかという気持ちが入り混じりながら音楽を止め、董山はうっかりして漏らさないようソファーから立ち、トイレに入って便座に座る。

 ブリブリブリブリっと、約十一年振りにふさわしい下痢ピーが出た。これもまた懐かしい……。くさい。臭いし痛い。あーくさ痛い。と自然に腹を押さえている自分に気づき、痛いついでに、仙田理でも探っておこうじゃないかと董山は鳩尾から臍にかけて、一直線に続く任脈というツボの三ヶ所、『巨闕』、『建里』、『神闕』をグっ、グっ、グっ、と力強く親指で順番に押し、最後に左手の甲の、中指と薬指に向かう骨の間にある『下痢点』というツボを押す──。

 自分で名付けた、『聴聞ちょうぶん』という能力が発動した。普段聞こえる生活音に加わって、三百六十度、あらゆる方向からガヤガヤとした、喧々囂々とも言うべき声が聴こえてくるようになった。その声の中から、仙田理と名乗る声を探し出す。

 権力のあるものや心の強いものなどの声は、聴き分けようとする董山の耳にガンガン割り込んでくる時がある。仙田理という名前は、別の調べ物をした時に聴いた覚えがないから、それほどの人物ではないはず。

 仙田未果は、今夫は出張中で、避暑地で有名な山間部に行っていると言っていた。出張は嘘なわけだから、仙田未果に本当のことを言っているとも思えないが、まずはその方角から調べてみることにしよう……。

 董山は、事務所があるビルから波紋のように『聴聞』の能力を広げていき、北西の方角に集中する。

 おお、いきなり一際でかい声が割り込んできたと思ったら、朝一人だけ仕事に行くことに不満そうだった、鈴架だ。ありがとうと押したハザードランプが点滅している。

 〈仕事完了〉と昼ぐらいに連絡があったから、その帰りだろう。さっきおやつを買いに行った臼井の声も隣にあり、助手席に座っている。コンビニで鉢合わせしたようだ。

 だが、今お前らに用はない。どんどん波紋の円を広げ、仙田理をキーワードに、意思によって働かせることのできない細胞、不随意細胞がふるわせている声に耳を傾ける。ストレートに、じっくりと。

 テレビを観ながらおもしろいと笑っている人妻、食事をしておいしいと微笑む人妻、早く家に帰りたいと仕事をがんばる人妻、子供とゲームをして楽しそうな人妻、疲れた、少し横になろ、とパートから帰って来た人妻。疲れた、もうダメ、と三回目のセックスを終えた人妻。やばい遅刻しそうとこれから密会する予定の人妻、久しぶりこんな所で会うなんてと懐かしんでいる人妻、んーもーいくーとオナニーしている人妻、と人妻ばかり気になっている自分に気づき、ダメだ、依頼人の人妻を気にしないようにしていた反動かもしれないと気を改め、第一層の声ではなく、第二層目以降の、記憶などに関わる不随意細胞の声に集中する。

 仙川じゃない。仙道でもない。仙田理だ。どこにいる。仙田理と不随意細胞が発している声がなかなか見つからない。やはり、出張先は違うのか? とあきらめかけた時、いた! いたじゃないか。本当の行き先を言っているとは。不随意細胞の大半が妻で埋まっているからか。よっぽど好きなんだな。同姓同名の男ということもないだろうが、写真と照合するために一応仙田理の容姿にも耳を傾けておく。

 炎天下の中コートを着ていても全く暑苦しさを感じなさそうな、さらっとした顔立ちをしている。

 董山の顔とは真逆に位置する夫が今回は本当に会社の出張になんてことは?

 ……はいはいはい。……ほー。やっぱ出張じゃない。……そうかそうか、やはり思った通りだった。……おお、なるほど。なかなか泣けてくるじゃないか。妻の未果を守れる強い男になるため、か……。未果が学生時代六人組の男に連れ去られそうになり、鳶職の男らに助けられて、連れ去ろうとした奴らは皆警察に捕まった? ん? と董山は思い返す。仙田未果。という名前に覚えはないが、未果という名前はもしやあの時の、竹内未果という女性かもしれない。そうだ、あの時二人ともいい人妻になりそうだと思って名刺を渡してしまったんだ。なんだ、一度会ったことがあるのならそう言ってくれればよかったのに。恥ずかしがり屋か?

 ダメだ、仙田未果を聴こうとしてしまった。ここで依頼人の人妻を聴いてしまったら、理のことを聴くのが面倒臭くなって仕事に支障が出ることくらいさすがにわかる。仕事はきっちりやらなければ。大袈裟じゃなく、行く行くは死につながることにもなりかねない。とりあえず今は、理に集中だ。

 董山は仙田理に意識を向け、不随意細胞が発している第二層以降の声をさらに深く聴く。

 誕生日は四月二日、現在三十歳。大学時代に知り合った友人らと起業し、開発したパズルゲームのアプリがそれなりにヒットし、二十代前半で小金をゲット。その後もヒットしたものに寄り掛かることなく、人のちょっとした向上心を煽ったり、ログインしないともったいない気持ちにさせるようなゲームをコンスタントに開発し続け、パズルゲームとまではいかないまでも、損益分岐点を超えることができる商品を生み出し続けている、会社のメンバーの一人のようだ。竹内未果と出会ってからは一切浮気をしていない。それなりに有名な高級住宅街にもお住いで。明日、リトルキャンディーの仮事務所からそう遠くない、都内から少し外れた駅を指定し、昼の時間帯にファミレスに来れますかという問いに、仙田未果がはいと答えられたわけだ。

 じゃあその未果さんは、今家からかけてきたのかな? やっぱ聴いちゃ──。

「帰りましたでえ」

 臼井の声が、実際にした。

「ただいまあ」

 鈴架だ。

 ったく、ある意味救世主だな。と、董山は『大』のボタンを押してうんこを流し、ケツを洗浄する。ケツは痛いが、もう腹は痛くない。

「あれ、いいひんな」

(もしかして)「トイレじゃないの」

(あれだけ食ったらそうなりますわ)「シュークリーム買ってきやしたぜ」(食べれるんかな)と臼井の声が近づいてくる。

 二人の不随意細胞から発せられる声が煩わしいから、董山は耳の穴の近くにある『耳門』というツボを人差し指でグっと強めに押し、能力の開放を止める。

「サンキュウ」

 ドアの向こうにいるであろう臼井に礼を言うと、洗浄中のためか、ちょっと息が漏れ気味になってしまった。

「曇さんお腹痛なったんすか」

 董山は洗浄をやめ、「いや」ほらみたことかと言われるのが嫌だから、「快便だ」と嘘を吐く。

「そりゃよかったっす。そないしたら、コーヒー淹れときます?」

「おお頼む」

 臼井が遠ざかっていく気配を感じ、また洗浄し、頃合いをみてケツをトイレットペーパーで拭き拭きし、うんこがついてない。と、『大』のボタンを押してトイレットペーパーを流す。

 董山は洗面所で手を洗い、タオルで拭いて、臼井たちがいるリビングに入ると、ごみ袋を持った鈴架がペタペタと足を鳴らしながらキッチンに入る所だった。L字型に設置されたソファーの前にあるガラステーブルを見ると、ビール缶やらつまみのお菓子やらがきれいに片づけられ、ラフな恰好の臼井がそこにコーヒー入りのマグカップを置いていた。

「お帰り」

 全体的に声をかけると、

「ただいま」「ただいまですう」

 と二人から同時に返ってきた。

「ちょうどコンビニでおうたんすよ」と置き終わった臼井は盆だけを持ってキッチンに向かう。

「あーそうだったか」まあある意味見かけたんだが。

「そしたらね」フード付きの白いつなぎを着ている鈴架が、キッチンから出てきた。「ジャンボなエクレアを買い占めようとしているおじさんがいてね」と臼井と体験したかのような話しぶりで臼井から盆を受け取ると、「『このエクレアを糧に今日一日がんばってきた人のことを想像してみて』ってつい注意しちゃったんだよね」と鈴架は臼井の腹をチラッと見て、またキッチンに戻っていく。

 董山は、ちょっと笑みを浮かべながらソファーへと戻っていく臼井を尻目に、「よくそのおじさんに逆ギレされなかったな」とすぐにキッチンから出てきた鈴架に言うと、

「うん、私も『店には貢献してるやろ』とか言われるかと思ったんだけど」とペタペタ足音を鳴らしながらソファーに向かう鈴架は、「そのおじさん、かわいくほっぺを膨らませながら一つを戻して四つをお買い上げ」と真似するように頬を膨らませた。

 長いソファーに座った臼井は特になにも返さず、ちょっと笑みを浮かべる表情を保ちながら、焼き鳥の入った透明なパックをエコバッグから取り出し、前を横切る鈴架に差し出した。

「ありがとう」

 鈴架はニコニコしながら受け取った。

 董山はガラステーブルとテレビの間を通りながら、コンビニで人妻が泣いているのを想像する。人妻の店長が喜んでいる姿も想像する。……どちらも、抱きしめてやりたい。が、あそこはどうでもいいおっさん店長だった。

「曇さん」

「おうさんきゅう」

 臼井から買ってきたシュークリームを手渡しでもらい、一人用のソファーに座るのと同時に、シュークリームをガラステーブルに置く。

 ガラステーブルにはそれぞれのマグカップと食べたい物が置かれている。「では」と座っている鈴架と臼井に合図を送り、三人それぞれ手を合わせ、「いただきます」と挨拶。

 董山はブラックのコーヒーを啜り、董山の斜め前に座っている鈴架はミルク入りのコーヒーを飲み、一つ離れて座っている臼井は砂糖たっぷりのコーヒーではなく、ジャンボなエクレアの袋を開けた。

 うまい。とマグカップを置いた董山はシュークリームを手に取り、「どうだった?」とパン屋の常連客が店員に一方的な思いを寄せ、その思いは一人だけで発展して膨らみ、やがてはち切れ、独りよがりの愛情が注がれた案件の「ストーカーは」と話を振る。

 パックを開けてレバーを手にした鈴架は、「やっぱストーカーの気持ちはよくわかんなかった」と首を傾げながらもレバーに齧りついた。

 その視線の先で、話に興味がなさそうなというより、ジャンボなエクレアに夢中の臼井は、二口でジャンボエクレアをあっという間に平らげた。

 そうだったかと董山は袋を開け、シュークリームを食べる。お、うまい。

「好きという気持ちは悪くなくてもさ、やっぱ人に迷惑かけちゃってるわけだし」と鈴架はちょっともぐもぐしながら二つ目のエクレアに手を出した臼井をちらりと見た。それに気づいた臼井は、なにも言わずに齧りつく。「私欲に走っても、あんまいいことないんだなって」とまたちらりと臼井を見た。

 二つ目をまたしても二口で平らげた臼井は、「……ストーカーの話、よな?」と意味ありげにやっと返した。

「もちろん」と鈴架はちょっともぐもぐしながら笑みを浮かべた。

 董山は、コーヒーを啜る。「で、そのストーカーはどうしたんだ」と詳細を尋ねる。

「ちょっと迷ったんだけど、一筆書かせてもまたつきまといそうだったから、来迎堂に一時収容しといた。それで改心できそうだったらまた戻そうかなって」

 と言った鈴架の顔は、あまりいい顔をしていない。鈴架は鈴架で、ストーカーの好きを奪ってしまったのがちょっと嫌なのだろう。

「そうか」

 董山はシュークリームを食べる。クッキー生地がまたいい。

「でも、楽しかったけどね」鈴架はまた齧りついた。それもそれで本音なんだろう。「ストーカーもいろんなストーカーがいるからさ」とちらりと横にいる臼井を見た。

 気づいた臼井は、「やっぱ、俺の話になってへん?」と不安げに尋ねた。

「なってないよ。だって、誰かに付きまとったことある?」

「ないけどやな」

「でしょ」

 鈴架は臼井の頭をチラッと見た。

 董山はコーヒーを啜り、「一応というか、俺も報告があって、さっき、『夫が本当に出張に行っているかどうか調べて欲しい』という依頼が入って」とさっき調べてわかった未果の夫、仙田理は出張ではなく、地下にあるサバイバルゲーム場に行っているということ、そこで『曲芸過激団』という団体が殺人ゲームを取り計らっていて、ゲームに勝ち残った者に賞金を出したり、厳しい基準をクリアーした者には『阿阜里の地』に宿る力を授けたりしていることを言ったら、おいしそうにレバーをもぐもぐしていた鈴架が、

「んっ?」

 と口を閉じながら切れ長の目を丸くさせ、砂糖たっぷりのコーヒーを飲んでいた臼井が、ゴホッ、ゴホッ、ゴホッと噎せた。

「んーもー」

 ほらほら拭いて。と言うように鈴架はガラステーブルの下にあるティッシュを臼井に勧める。飲んだ直後だったからか、口から出たのは唾ぐらいだった。臼井はそれがわかっていないのか、ティッシュで口を拭きながら自分のスウェットやテーブルにコーヒーの液やエクレアの破片がついていないか見ている。

「そんな、驚くなよ」

 董山はやや控えめに言いながら、下を向いてできた臼井の二重顎を見る。

「そりゃあ驚きますわ」

 臼井はなにか喉に痞えている感じがするのか、顔を顰めてもいる。

「そうだよ、タイミングよすぎじゃない?」

 それはそうだろ、俺の引きが強すぎるだろ。とは言わない。

「ホンマですよ、さすが曇さん、人妻の引きがお強いっすわー」

 と思ったら、臼井が言った。

「もお、ほんとなんなの」

 鈴架はやっと来迎堂が本来あるべき使われ方をすることや、するとも思っていなかったゴミ屋敷清掃の話とか、ぎっくり腰で農作業が出来なくなった人の手伝いなど、もう一本あったねぎまを食べながら、その他たくさん解決してなんとか食いつないできた甲斐があったことを臼井と共感しながら話した。

「悪かったな八年もかかって」

 董山は半分申し訳なく、半分切れ気味に謝り、シュークリームもコーヒーももうないが、手持無沙汰でないコーヒーを啜る。

「別にそういう仕事嫌いじゃないんだけど、それだけだとやっぱねえ」と鈴架はすでに食べ終えていた串をやっと置いて臼井とうなずき合い、「でも逆に引きが強すぎて気持ち悪いんだけど」と董山を幻滅するような眼差しで見た。

 そんな態度で見られると、それはそれでショックだな臼井。ともうとっくに食べ終えている臼井をチラッと見てから、「いやいや、人妻の引きというよりもだな、八年前、俺が第一段階をやっと終えた時、本格的に事務所を稼働させようとして、孫だか子供だかを自首させた時があっただろ?」

 バックアップに回っていた二人はよく覚えているという感じでうなずいた。

「あ、あん時危なかったんだよねえ。まさか爆弾とは思わなかったけど」

「ほんまですよ、曇さん信じてたのに」

「俺も俺を信じてたよ」

「なんだっけ? そうだ」と鈴架は思い出した感じで、「『才能あるこの俺を前にして、君たちが反抗できる術はもう残っていない』とか言ってさあ」と調子に乗り過ぎだからあんなことになるんだよと言いたげな口調で、「どっからあんなセリフが出てくるんだか」と董山を細い横目で見た。

「うるさいな、言ってみたかったんだからいいだろ」

「あん時ちょっと吹き出しちゃったんだから」と鈴架は臼井を見た。

「ほんまですよ、笑い堪えるの大変でしたわ」

「悪かったよ。なんべんも謝っただろ」ほんと、あの時のことを考えると鈴架には頭が上がらない。「さすが鈴架様」鈴架がチョップしてくれてなかったら、鈴架以外木端微塵になってた。まじで「意識高すぎて追いつけないっす」

「それはそれでかなり嫌味になるんですけどお」

「いやいや本心だって」きっとなにを言ってもダメだ、話を戻そう。「でな、その時にいた女性に名刺を渡しておいたのが功を奏し、今につながっているようなもんなんだよ」と話を戻す。

「え? じゃあその時の人からなの?」

 鈴架はさらに驚いた。

「ああ、仙田未果、旧姓竹内未果からの依頼になる」まあ下心はあったんだが。

「へえー。唾つけておいてよかったね」

 ぎくっ。幻滅する眼差しが痛い。「いやいや」こうなるとわかって渡しておいたんだよと言っても見苦しいだけだろうから、「でな、あの時のことを夫の理が知り、『力』を手にして妻の未果を守れる強い男になりたいんだとよ」

「……強い男かあ、ふーん」

 鈴架は足を伸ばして揺らしながら、唇を尖らせた。

「旦那の動機はええんすけどねえ、なりかたを間違えてますやろ」

「そうだねえ」

 切れ長の奥二重が臼井の腹に視線を送っている。

「俺の腹は間違えてへんやろ」

 臼井はポンと腹をたたき、臼井の細くても二重の目で、鈴架を睨んだ。

 はいはい、「それで」と董山は関係なく話を続ける。「夫の理はちょうど今そのイベントに参加中だから、いろいろ鑑みて早急に明日、俺が依頼人に会うことにした」

「出ったあ」

 と睨み合っていた二人はソファーの背もたれに寄り掛かった。臼井の腹が、余計に強調されたのが目に入る。

「仕事早いだろ?」二人が思ってもいないだろうことを言っておき、「曲芸過激団が情報漏れに気遣っているだろうから、仙田未果と契約を交わすことによって事態は動いていくだろう。だから、理の保護を鈴架、並行してお願いできるか」と話を振る。

「それは別にいいけど」

 姿勢を戻した鈴架は承諾してくれた。

「僕はどないします?」

 姿勢を戻しながらもやや不安げな臼井に、「臼井はとりあえず、備えあれば憂いなしのバックアップで」と伝える。

「了解っす」

 親指を上げた臼井は、ホッとしたような表情を浮かべた。

 それから情報の共有を忘れないことや、必要事項などの確認を三人でしたあと、今調べると二人の不随意細胞が煩わしいから、「明日までには仙田理やその他もろもろの詳細を調べてメッセージを送っておくが、今回から俺も動く分、なるべく現況は各自で掴んでくれると助かる」

「えー。って言いたい所だけど、そうだよね、しょうがないかあ」

 手を頭の後ろにやった鈴架は、やや不満そうだ。

「曇さんあれっすよね、リアルタイムでの情報提供はなしになるってことっすよね」

 臼井が、確かめるように言った。

「ああ」

「了解っす。がんばりますわ」

 拳に力を込めた割には、それほど臼井から意気込みが伝わってこない。

 だとしても、『曲芸過激団』は聴いていて割り込んできたこともない団体。簡単にケリがつくだろう。最初に手をかける相手としても申し分ないかもしれない。さすが俺だな。

 話は自然と切り上げられ、テレビをつけ、三人で観ながら談笑していると、

 ──ピンポン。と玄関チャイムが鳴った。誰だ? と、董山と鈴架は玄関に一番近い場所に座っている臼井を見る。

 ポテチを食べていた臼井はもう嫌やわーと言いたげに、「もう誰や」と立ち上がり、「もうカメラつけましょうよ」とぼやきながら玄関に通じる廊下に入って姿が見えなくなるとすぐ、ひょっこり現れ、「曲芸の奴らとちゃいますやろな」と訝しんだ顔でこっちを見た。

「ぷっ」と鈴架が吹き出し、「だったら凄すぎ」と董山を見た。

 しょうがない。と『聴聞』を働かせ、すぐにやめる。おお、「大丈夫だ」配達もやっている、「大山だ」

「え?」と鈴架が立ち上がった。「そういえば送ったからって連絡あったんだった」と弾むように玄関に向かおうとすると、廊下の入り口で仁王立ちする臼井の腹にボンと当たって跳ね返った。

「ちょっとお、どいてよ」

 体勢を立て直した鈴架が言うと、

「ダメや。鈴架が行くとまた世間話するやろ、永遠と」

「しないって」

 通り抜けようとする鈴架に向かって、

「信じられるかあ」と隙間がないようにガードを固める臼井。度重なるアタックに、「もう曇さんからも言うてくださいよ」と助けを求めてきた。

 いつもこんなやり取りをしているんだろう。楽しそうだな。

「……もーわかったっ」

 鈴架はお喋りするのがいけないことだと承知しているからか、董山も臼井の腹に参加して収拾がつかなくなって結局自分はいけないと思ったからか、いじけるように下唇を出してソファーに戻ってくる。まるで子供だ。

「ええ子やなあー鈴架は」

 勝ってご満悦な臼井は、廊下へと消えた。

「はーい」と言った臼井に、「宅急便でーす」という声が微かに聞こえた。鍵を開け、玄関ドアが開く音がすると、宅配業者と住人の普通のやり取りが聞こえてきて、普通に終わると、ドアを閉める音と鍵の音がして間もなく、臼井が荷物を持ってリビングに戻ってきた。大きな段ボールを五つ、天井ギリギリに持っているせいでぼっちゃりギリギリの臼井が奇跡的に見えない。

 そわそわしていた鈴架はすぐに立ち上がり、キッチンの手前で荷物を下ろした臼井のもとに駆け寄った。董山も向かう。

 臼井が重なっていた段ボールを置いて一個一個床に置き、段ボールの一つを開けた。三人で、のぞき込む。

「あ、お味噌っ」

 と鈴架が手にした。市販の味噌と同じくらいの大きさのタッパーに入っている。

「おー、ええやん」

 臼井も喜んでいる。

「味噌なんて初めてじゃない?」

 鈴架はもう一つ味噌を手にした。段ボールの中は四角いタッパーがぎっしり埋まっている。あとの四つはなんだ? とみんなで開けていく。

 二つ目はお菓子がどっさり入っていて、三つ目は飲むゼリー系のものがどっさり、四つ五つ目は肉やら豆腐やら、メインのおかずになりそうな材料がいろいろ入っていた。

 鈴架はお腹にあるポケットからケータイを出して、着いたよと電話をかけた。

 中のものを臼井とあさっていると、いろいろ話していた鈴架が電話を切り、

「大豆がいっぱい余ったから、白みそも作ってみたんだって。それはサービスらしい」

「おおええやんええやん」

 大学時代関西にいた臼井が余計に喜んだ。これもこれで、買ったら結構するんだろう。

「じゃあ私、今晩味噌汁つくるね」

「おおええやん」

 臼井はどすんと飛び跳ねた。




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