董山曇(十)「問題解決に向け」
なんだよ。未果さんが作ってくれたカツサンド、かなりうまそうな気配がぷんぷんだったのに、なんでそんな音がすんだと思ったら、案の定臼井だった。じゃあしょうがないか。いやいやしょうがなくないな臼井。さすがに勘弁してくれ。
おいちょっと待てよ。臼井さん見た目によらずかっこいい。好き。抱いて。なんていう展開に……。ならないな。ならない。動きはそれほど速く見えないはずだ。ただパワーは持ってるから、その点に注目されるとやばいかもしれない。現に臼井に突進された芝浦は肋骨をやり、プールに落ちた衝撃で肩の骨も折った。臼井は気を失っている芝浦を引き上げ、プールサイドに寝かすつもりだ。未果さんがプールに到着した時、臼井が自慢のパワーで他の二人を圧倒していたら、臼井さん強いのね。これ、カツサンド、食べてください。というか私を食べてください。なんていう展開が、豚さんシールも好きなだけにやっぱあり得るんじゃないか? そうだよな。そんなことさせてたまるか、未果さんの手料理を食べるのは俺だ。
と、言いたい所だが、あの手料理を食ったら食ったで腹が心配な面はある。ここぞという時にまた腹痛にでもなったら……。考えただけでも末恐ろしい。
未果さんの不随意細胞を聴く。聴く。さらに聴く。
そういうプレイの趣味もなさそうだから、やはり抱けなくなってしまう。だからといって未果さんからカツサンドを受け取り、その場で頂かなかったら、それもそれで抱ける確率がぐんと落ちてしまうだろう。これから起こることを想定しても、抱くことが至難の業になってしまうかもしれない。それは絶対に避けなければ。
だがどうすれば。董山はドーナッツを一つ頬張り、もぐもぐと噛み締めようとしたら、もうなかった。
ほらこれだ。相手が食い気たっぷりの臼井だから、『臼井には絶対食べられたくない』という心を持ちながら臨んでも、都合のいい展開になる気がしない。
ほどほどの計画な分、ある程度危険な目に遭うことを覚悟してもらわなくちゃいけないのは、自分にも言えたことだったか。人間の内面がわかってしまう分、出たとこ勝負でわからない未来を思う存分楽しみたいからこうしているんですとか言ったら、ちょっとは闇が深くて魅力溢れる紳士に映るだろうか。映らないか。全く思ったことないしな。
阿阜里の力でぶん殴ってしまえば話は早いんだが、臼井は仲間だからそういうわけにもいかない。とはいえ臼井に食べられるわけにもいかない。
もうダメだ。ほどほどの計画も思いつかない分、早く行くに越したことはないと、董山は足早に車を降りる。




