仙田未果(十三)「キッチンでカツサンド」
「ちょっと未果、もう作っちゃったの?」沙友里は興奮気味に驚いている。「すごすぎ」
いつもならえっへーと腰に手を当てて、自慢げな態度を大袈裟にとっているかもしれないけど、あんまり自信がないせいか、笑みを浮かべるだけになってしまった。おいしいといいんだけど。未果は二つに割ったカツサンドをサンドイッチ用のペーパーボックスに入れる。
「めっちゃ美味そう。これお店で売ってたら二千円はするよ絶対」
「そんな大袈裟な」
警備をしてくれている董山さんになにか差し入れを持っていこうと思いついて、なんにしようかすっごく迷って迷って迷ってる暇はないと思って、車の中でも立ちながらでも食べやすいもので、勝負にカツというありきたりな意味合いもプラスしてカツサンドにしたんだけど。
「なに言ってんの、デパ地下で売ってるやつなんてこんなちっさいのにすごい高いでしょ」手ぶりを交えて話す沙友里は、なんかちょっとテンションが高めな気がする。「もう、私が食べたいくらい」沙友里は横から未果をぎゅーっと抱きしめた。やっぱり、ちょっと高い。
ごめん、事務所の人から電話。と言って帰ってきたから、なにか仕事でいいことあったんだろうかと思いながらペーパーボックスをふたして、鼻が強調された豚さんシールを貼る。豚肉は国産、パンはきっと全部じゃないけど国産小麦を使ってるとあった。ソースも市販のだから原材料の産地まではよくわからないけど、国内の工場で生産されているとあった。だからこだわりのある董山さんにもそんなに失礼にはならないはず。どうか董山さんのお口に合いますようにと念じながら紙の手提げ袋にペーパーボックスを入れ、それじゃあ「ちょっと渡してくるね」と沙友里を引き剥がして、キッチンから玄関に向かう。
沙友里は、「うん」と後ろから抱きついて、クンクンと鼻を鳴らしながらついてくる。
もう歩きにくいよとじゃれながら玄関に着くと、「はいはい沙友里はここで待っててね」と未果はちょっとテンション高めな沙友里の手を剥がし、玄関で靴を履く。
「ねえ未果」
なに? 事務所の人に告白されたとか? と三和土に立つ沙友里を見る。
「なんか彼氏にお弁当持ってくみたい」
私が? なんだ。「そんなんじゃないよ」
未果は首と手を横に振って否定する。
「あ、ちょっとムキになってるとこが怪しい」
「なってないよ。お世話になってるから、そのお礼がしたいだけ」ほんとに。
「ふーん」沙友里は目を細めて訝しがり、「ならいいけど」と言って微笑みながら、未果の腕に軽くパンチした。
「イッたあ」
未果がほっぺたを膨らませると、沙友里は膨らんだほっぺたを指で押した。プッと音が鳴って、思わず未果は笑う。
沙友里も笑って、「董山さんがいるから心配ないと思うけど、一応気をつけるんだよ」と手を振った。
「うん」
未果は沙友里にバイバイして、玄関を出る。




